何が喰いたいという訳でもないのだが、突然おでんが喰いたくなることがある。
だが困ったことにおでんとは、思い立ってすぐ食えるというものではない。
下茹でしたり、さらしたりする手間が肝要で、鍋で煮るのは仕上げみたいなもの。
グツグツ煮て、煮込んで、よく味がしゅんだ(大阪弁=沁み込んだ)ものでないと面白くない。
自分が喰いたいのと、家人孝行の意味合いもあり、準備に取り掛かるが、
とにかくヒマがかかる。 大根の面取りなどやめだ。
一番味が沁みにくいのはコンニャクで細かい庖丁目を入れて、何度か下茹で。
天ぷらの類いは茹でて油抜きしておく。 ああ、茹で玉子の殻が剥けずガッタガタになる。
さて誰が何と言おうと、実は喰いたいのはおでんではなく、関東煮(かんとだき)なのだ。
語源言い出すと長くなるからはしょるが、関西でおでんとは味噌でんがくのことを指すので、
それと区別するために、関東から入ってきたおでんを、関東煮と呼んだというのが定説。
本来、ここに皮鯨(コロ)など入ると、味が一段複雑になるのだが、これがまた時間がかかるので、
今回は見合わせた。
イメージとしては織田作之助の小説「夫婦善哉」のヒロイン蝶子が、「二人で関東煮屋でもしよ」
それに対する柳吉 「そらエエ考えや。早速わいな、たこ梅やら正弁丹吾亭の味を研究してくるさかい」
これである。 だから里芋や蒲鉾が入るのもたこ梅風。ボッコボコ煮返すのもここの流儀。
ベストマッチは燗酒である。なんか際限なく喰えてしまう。
ごはんのおかずにならぬこともないが、東京老舗では「おでんに茶飯」というらしいが、
やっぱり酒だろう。
むろん、翌日の方が味が熟れて美味くなる。
ひん曲った厚揚げやら、じゃがいもの欠片なぞ一緒くたに煮直すのもよかろうが、
それではちょっと面白くない。
もちっと体裁よくしたいではないか。
私の場合、面倒でもいちいち鍋からおでん種を取りだす。
そうしてだしも漉して、冷蔵庫へ収める。
このひと手間で、あくる日も気分良く食べられるというものだ。
もちろん家族なんだからそんな七面倒くさいことするかよ、って声も分かる。
あくまで、プロの仕事をただただ真似ただけの、私のやり方。
しかしね、うまく出来たら出来たで、徐々に減って行くのはどうにも寂しい。
手塩にかけて煮込んだものが、一瞬で誰かに食べられて消えてしまう。
それが哀しいというのだから、食べ物商売に向いてないわ、こりゃ。
コース1万円の煮物然としたおでんなど、ほぼ興味が無い。
関西庶民の味、関東煮。 よろしいな、かんとだき。
諸君もぜひ、おでんなどと呼ばず赤丸絶滅種的呼称、「かんとだき」
日常的に使って下さい。
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