昼は遠にすぎた。夕食には早い。
そんな時は洋食屋で一品取り、ビールというのもよかろう。
TV画面に相撲中継でも点いてれば最高だ。
ここは四ツ橋通り。西成・鶴見橋商店街。
外からは一見やってるんだか、やっていないんだか判らない。
遠慮がちな営業中の札を見て、エイヤッと入る。
人生の機微も味わい分けるご夫婦がやってらっしゃる。
客はオレ一人。余りにも怪しいので、ポツポツと世話話をしてみる。
この場所に90年住み、戦後すぐの開店という「グリル・マルタ」。
物資不足の時代はうどん屋を営んだという。
マルタ島関係なく、母方の旧姓から○にタとした。
創業者の父親は北新地スエヒロの出身。
戦前、仏料理をしていたプライドがあり、ここでも客に迎合せず、
カタカナの料理を並べ、3年間は客がつかなかったという。
父の代から同じメニューを使っている。
最下行、白ご飯を「ホワイトライス」と書いているのはご愛嬌。
唯一の和名は、「やきめし」。
ポタージュスープ。
奥さんが嫁いだ昭和39年、鶴見橋商店街は怖いぐらいに
賑わっていたという。約1キロの商店街には何軒もの映画館があり、
心斎橋に勝るとも劣らぬ商店街だった。
買い物も食事もここだけで事足りた。
皮革製品に強い鶴見橋。高級革靴を買いに来て、帰りに洋食を
食べて帰るなどのハイカラな紳士淑女が大勢いたそうだ。
ポークチャップ 美味いッ。ビールには相性抜群。
脂が美味いので、食材に気を使っているのが判る。
付け合せのポテサラも丁寧に作られている。
三代目は畑違いに就職したので、この店もご夫婦の代で仕舞う。
人件費も不要、老け込み防止のために続けているという感じだった。
話好きの夫婦二人きりの店。
こういう店はそっとしておいて、ときどき思い出して訪れるに限る。
鶴見橋商店街 東側 「グリル・マルタ」
お味も人柄も真面目な洋食屋さん。
さすがに良くご存知!行ったことおありだろ~なぁと思ってました。
ときどき無性に食べたくなるのは、こうしたクラシックなニッポンの洋食!こんな洋食こそ海外であれしません。
そういえばビフカツに郷愁を感じる若い連中も少ないそうで、嘆かわしい。
律儀にご飯をフォークの背に乗せて食ってた時代が懐かしいです。
なんてことはありません。
「幸せの黄色いハンカチ」で高倉健が倍賞千恵子とデートするシーンで不器用そうにご飯をフォークに乗せて食ってたのを思い出しました。