塩田武士「罪の声」講談社 2016年刊
これはグリコ・森永事件をモチーフにした、新聞記者の事件後の追跡記録である。フィクションという形を取っているが、その取材姿勢は真摯で徹底している。
「トヨトミの野望」も新聞記者の書いたものだが、トヨタ一族の経営姿勢、あるいは人間描写に傾きすぎて、客観性というより人物評伝に近いものになっていた。本書は事件の内部にまで鋭く肉薄し、犯人一味の内紛や、首謀者の陽動作戦、ある種の安全策について言及している。
本件は謎の多い事件だったが、この解説でほぼ納得できた。取材の方法、挫折からも得るものをつかむ執念、人間関係の作り方など実際の経験者らしいタッチが随所で見られる渾身の一冊である。
グリコ・森永事件の記憶が薄れないうちに読むことをお勧めする。