柏井壽「鴨川食堂 おまかせ」小学館文庫 2017年刊
私がかかっている眼科医はいつも大繁盛で、診察や検査を待つ時間がかなり長い。お蔭で本がたくさん読める。
これは「みおつくし料理帖」以来の料理を中核とする本である。6篇の短編からなり、シリーズの第4弾らしいが、一話一話の構成がほぼ同じで、まるで水戸黄門シリーズのようである。舞台は京都東本願寺近くの、看板も上げていないような食堂。口頭で聞いた料理をそのまま再現して作るのも難しいと思うが、はるか昔の料理を探すというのも簡単ではない。
ここは思い出の料理を探し出し再現して提供することを生業としている。ワケアリの依頼人が京都駅に降り立ち、不安を抱きながら扉を開け、まずは腕利きの大将のおまかせ料理を賞味する。そこで行き届いた料理とサービスに心を奪われ、心を開いて探している料理について語る。この料理の探偵事務所は娘の担当で、探している料理についてあれこれと関連事項を訊き出す。
大方2週間の猶予時間を貰い、思い出の料理調査のために、現地や関連人物の所に足を運んで再現に力を尽くす。再度店を訪れた依頼人に思い出の料理とそのレシピを提供し、加えてこの料理を作ってきた人達の思いを語る。おおよそこのパターンである。まるで黄門様の諸国漫遊記が同じような展開を繰り返しているのとよく似ている。
葵の印籠に当たるのは、料理代と調査費の請求で、始めのおまかせ料理も調査費と一緒の払いで、「お客様がが納得の行くだけの値段で結構です。」と宣う。京都人の賢さ、或いはずるさが凝縮されているようです。
水戸黄門シリーズと同じで、筋書きはわかっているのに、次々と読みたくなるのは出て来る料理がいかにも美味しそうな面構えで、品名と沿えてある調味料・ソースなどを聞くだけで唾液が出てくる。
既刊3冊が読みたくなる程の本である。