自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★真夏の夜の「階段」話

2020年08月09日 | ⇒トレンド探査

   夏休み期間に毎年実施してきた学生・留学生たちとの能登スタディ・ツアー(単位授業、※今年度感染防止対策で中止)での楽しみは、夜の懇談会でざっくばらんに楽しく会話することだった。学生から「先生のホラー体験を聞かせてください」と請われ、話したこともある。思い起こしながらこんなことを語った。

   小学6年(1966年)のときだった。ヤクルトの配達を半年ほど経験したことがある。そのころは夜の配達だった。奥能登の能登町(当時は柳田村)を自転車で回っていた。夏の夜、ある集落の竹やぶにほのかに光が揺らぐのが見えた。誰か花火でもやっているのかと思い、自転車から降りて竹やぶに近づくと、火の玉が浮かんでいた。怖くなって逃げた。

   帰宅してそのことを父親に話すと、「あの集落はドジャカジが多いから」と言われた。当時、土葬のことを土砂加持(どしゃかじ)と地域では言っていた。竹やぶの奥には塔婆が立ち並んでいた。現代では火葬が普通だが、当時、宗派によっては遺体を大きな木桶に入れて埋葬していた。土葬の墓地では、遺体から出たリンが燃えて火の玉になると信じられていた。それ以降は怖くて、竹やぶを避けて別の道を通って配達していた。

   新聞記者の駆け出しのころ(1978年)、金沢の警察署が担当だった。朝、刑事部屋に行くと、ある町の水田地帯で遺体が見つかったとの話を聞いたので、自家用車で現地に出かけた。ところが、水田は広く、一帯ではモヤがかかっていた。警察関係者はまだ誰も来ていなかった。遺体がどこにあるのか分からず道路沿いに一人立っていた。すると、「ここや、ここや」とかすかに声が聞こえた。その方向に向かって歩くと、用水の溝に仰向けになり、目が開いた老人の遺体があった。記者新人で初めて遺体に遭遇し、腰が抜けるほどびっくりした。間もなくして刑事がやって来て現場検証が始まった。それにしても、自分を呼び寄せたあの「ここや、ここや」は不思議でならなかった。単なる風の音だったのか。

   以下は割と直近の話である。金沢大学の角間キャンパスに創立五十周年記念館「角間の里」という木造施設がある。この建物は白山ろくの旧・白峰村の文化財だったものを大学が譲り受けて、2005年に移築したものだ。築300年の養蚕農家の建物だ。建て坪が110坪 (360平方㍍)もある。黒光りする柱や梁(はり)は家の風格というものを感じさせてくれる。

   その建物を大学に移築した2005年4月に地域連携コーディネーターとして大学に着任し、角間の里のオフィスで執務していた。その年の夏の夜だった。雨が降ったり雷鳴が響いたり不安定な天気だった。同僚たちは帰宅し、一人でパソコンに向かっていると、玄関入り口付近にある階段でミシリ、ミシリと誰かが階段を上っていくような音した。「誰か来たの」と声を出したが返答がない。そこで階段の下から再度「誰かいるの」と声掛けしたが返事がない。ふと階段を見ると水滴が落ちていた。電気をつけて階段を上ったが誰もいなかった。水滴は階段の途中で途切れていた。

   翌日この話を同僚にすると、数日前に同じ体験したことがあると言う。そのとき彼からこんな話を聞いた。「私も近くに住む人たちから聞いた話ですが、この建物の右上の林にはかつて火葬場があったそうですよ」と。結論として、その夜は玄関戸が開いていたので、ハクビシンなど動物が迷い込んで階段を上がったのかもしれないとの話で収まった。それ以降は、階段の音は聞いたことがなく、この話は忘れかけていた。

   もう一つ。キャンパス近くにミステリーゾーンがある。翌年の2006年春に地元の人に案内してもらった。「御瀑野(おたきの)」と呼ばれる地名で、キャンパス北側の隣接地に当たる。尾根伝いに道があり、かつて「仏教道」と土地の人は呼んでいた。この御瀑野はその一角にある。昔から土地の人が近づきたがらない場所だという。風が吹いていないのに木の葉が舞い、大木がそよぐ。誰も木を切っていないのに、突然に大木が倒れる。山道を知り尽くしたベテランが道に迷う。地元の多くの人が「不思議な体験」をしている場所だ。

   確かに不気味だった。まるで海の向こうから押し寄せてくる波のような轟(ごう)音が谷底から聞こえる。三方からの谷風が絶え間なく吹き上げてくる。

   話の最後に、学生たちにこのキャンパスのホラー体験を追体験してみないかと誘ったが、手は上がらなかった。逆に「元テレビ局にいただけあって、先生の話はリアリティがあって上手ですね」とほめられたのだった。

(※写真は、スイカの中身をくり抜き、目と鼻と口のカタチで抜く。最後にトウモロコシの「頭髪」をかぶせたもの。逆光で撮影するとエイリアンような凄みがある)

⇒9日(日)午前・金沢の天気    くもり時々はれ

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☆ボーダーレスの未来可能性

2020年08月08日 | ⇒トレンド探査

   「KANTA&KAEDE」。金沢市に住む中学生と小学生の兄妹によるアーチストだ。世界的なシューズメーカー「オニツカタイガー」とのコラボレーションで商品開発を進めている。兄のKANTAは細かい図柄を描き、妹のKAEDEはおとぎ話をテーマにした切り絵を描くのが得意だ。

   オニツカタイガーの製品開発の担当者がたまたまインターネットで作品を知り、カラフルでポップな芸術性に着目した。2019年4月から同社はシューズ=写真・上=、バッグ、Tシャツに兄妹のデザインを取り込んだ製品を発売している。担当者は最初迷った。兄妹には発達障害があった。そこで「障がい者アート」として売り出せばよいのか、と。考えるうちに、アートの世界に障がいというボーダーはないことに気がつき、冒頭の「KANTA&KAEDE」のアーティストブランドを売り出した。

   話は変わる。「CCRC(continuing Care Retirement Community)」という聞きなれない言葉がある。アメリカでは、リタイア後の元気なうちに入居し、介護が必要になっても移転することなく同じ敷地で人生の最期までを暮らす、シニアのためのコミュニティー(小さな町)がある。若いころにマンハッタンなど大都会で働き稼いでも、老いは確実にやってくる。高層マンションでの孤独死を自らの最期にしてなるものか、と意欲あるシニアが次なる人生のステージを探す。日本語で言えば「終の棲家」だ。このアメリカ版終の棲家は全米で2千所以上もあり、60万人の居住者が生活しているといわれる。

   終の棲家、日本版CCRCは金沢にもモデルタウンがある。金沢大学の近くにある「シェア金沢」だ。3万6000平方㍍の敷地の中に高齢者向けデイサービス、サービス付き高齢者住宅、児童福祉施設、学生向けアパート、温泉、レストラン、カフェなどが点在する複合型福祉施設だ。高齢者や学生・若者、障がい者らが一つのコミュニティーの中で生活している。

   これまで何度か訪れたが、東京などから移住してきた高齢者夫婦が売店でレジをしていたり、学生たちと会話で笑っていたり、子どもたちと遊んでいたりと、いろいろな光景を見ることができる。温泉は近所の人たちにも無料で開放されていて、人気が高い。カフェでは移住してきたシニアの人たちと顔見知りとなった近所の人たちがまるで家族団らんのように話し合っている光景も目にする。これまで日本では高齢者施設、障がい者施設、児童福祉施設と施設ごとにボーダー(境界)を造っていた。それをまったく外し、近所の人たちも巻き込んだ、「ごちゃまぜ」の小さなタウン。終の棲家の理想形ではないだろうか。

   障がい者と健常者の心のボーダー、施設というボーダーを外すことで見えてくる新たな光景やビジネスチャンス。ボーダーレスの未来可能性は広がる。

(※写真・下は2016年2月、当時の石破地方創生担当大臣がシェア金沢を視察したときの様子)

⇒8日(土)午前・金沢の天気    あめ 
    

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★VRやAR、そしてIoTと共存する時代

2020年08月07日 | ⇒トレンド探査

   コロナ禍のせいか、最近このブログでも暗いテーマが多くなった。そこで、明るい話題を集めてみた。シリーズで。   

   前回のブログで紹介した「ゴーグル墓参り」。このサービスを行っているのは一般社団法人「全国優良石材店の会」で、依頼を受けた地域の加盟店のスタッフが墓参りを代行し、周囲360度を撮影したデータを依頼者に送る。依頼者はその動画データをスマホに入れ、VRゴーグルに接続して見る。墓参りを自宅で疑似体験することになる。体が不自由なシニアにとってはこのようなゴーグル墓参りであっても、墓参りをすることで安堵を得るだろう。

   一般に完全なバーチャルの世界をVR(仮想現実)、現実の中に一部、バーチャルなものを付加したものをAR(拡張現実)、そしてVR、ARを包含するバーチャル全体を指すものをMR(複合現実)と定義されている。そして、これらを体験できるデバイスとして現在、頭部に装着するゴーグル(ヘッドマウントディスプレイ)=写真=があるが、より使いやすくて便利な眼鏡型が登場すれば、一気に普及が進むかもしれない。

   VR、ARはゲームの分野だけでなく、幅広い分野での導入が始まっている。特に有望視されるのはビジネスシーンでの活用だ。設計・デザインやトレーニング、プロモーション、現場での作業支援、コールセンターのオペレーターといった多種多様な分野において、VRを使った事前体験で能力や経験値を高めることができる効果に注目が集まっている。 

   とくに、医療や介護をターゲットにVRビジネスを立ち上げる傾向が相次いでいる。この分野の人材育成にVRが効果的なツールになり得るとのニーズがあるようだ。海外ではフェイスブックを筆頭にVR事業への参入が活発化していて、今後、ハードだけでなく、魅力あるコンテンツづくりがマーケットの成長を左右するカギとなるだろう。

   IoTも現代社会の一つのシンボルと言える。たとえば、ネット接続が可能なコネクテッドカーは現在、新車の35%を占めている。トヨタ自動車とあいおいニッセイ損害保険が、「つながる」保険を発売している。レクサスなどトヨタ車に搭載される通信機を通じ、運転者の特性を分析し、急発進や急ブレーキが少ないなどの安全運転を続けていると保険料が安くなるという仕組みだ。「見られている」という自覚が安全運転を促す。VRやARそしてIoTと共存する時代がやってきた。

⇒7日(金)夜・金沢の天気    くもり

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☆されど墓参り

2020年08月06日 | ⇒トピック往来

          政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の会長がきのう夕方、臨時の記者会見で、政府として盆帰省に関する提言を出すべきと述べた。「盆と正月にはふるさとに帰る」とよく言う。ファミリーの絆(きずな)を確かめ合う場であり、とくに盆の墓参りは肉親を亡くして初盆を迎えるなど個々人によって意味合いがまったく異なる。それを政府に対して自粛や「オンライン帰省」を求めるというのは、こればかりは「おせっかい」の領域ではないだろうか。それぞれが考えて行動すればよいだけの話だ。 

   もし実家に祖父や祖母といった高齢者がいれば、接する機会を少なくし、飲酒・飲食の機会もなるべく避けた方がいい。基本的な感染防止策(手指の消毒やマスク着用、換気など)で気をつけることは、国から言われるまでもなく、すでにニューノーマルだ。

   そもそも盆帰省に国が関与する権限はない。墓参りをして先祖に感謝し自らの心の安寧を得るのは、憲法が保障する基本的人権の一つ、幸福追求権(第13条)ではないだろうか。国がとやかく言うレベルのものではない、と考える。

   盆の帰省について、西村経済再生担当大臣はきのう4日の記者会見で、政府として一律に控えることまでは求めない考えを重ねて示したうえで、帰省先で重症化するリスクの高い高齢者に感染を広げないよう感染防止策の徹底を呼びかけた(8月4日付・NHKニュースWeb版)。また、大臣は帰省について「県をまたぐ移動については、国として『一律に控えてください』とは言ってはいない」と述べた(同)。その通りだ。盆帰省と旅行は趣が異なる。墓参りは個々人にとって年に1度の格式ある行事なのだ。

   個人的には墓参りで帰省したいと思っている。その場合、墓参をし、実家にあいさつし、「このご時世ですので」と飲食などを避け金沢に戻る。それでよいと思っている。

   ところで、知人から聞いた話だが、「ゴーグル墓参り」という有料サービスを石材店が実施しているという。ネットで検索すると、このサービスを行っているのは一般社団法人「全国優良石材店の会」で、依頼を受けた地域の加盟店のスタッフが墓参りを代行し、周囲360度を撮影したデータを依頼者に送る。依頼者はその動画データをスマホに入れ、VRゴーグルに接続して見る。墓参りを自宅で疑似体験することになる。

   体が不自由なシニアにとってはこのようなゴーグル墓参りであっても、墓参りをすることで安堵を得るだろう。墓参りも時代とともに変化する。たかが墓参り、されど墓参りではある。

⇒6日(木)朝・金沢の天気     はれ

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★マスク逃亡者はいま何思う

2020年08月05日 | ⇒メディア時評

    昨年12月30日にレバノンに逃亡し物議をかもしたカルロス・ゴーンという人物はとてもマスクが似合う。昨年3月6日、一回目の保釈で東京拘置所から出てきた姿は、青い帽子に作業服姿、顔の半分以上はマスクで隠していた=写真=。その場を逃げるような姿だった。なぜ、このような姿で拘置所から出てくる必要性があったのだろうか。この作業服を着た意味は何か、と思ったものだ。このとき、保釈金10億円を納付したのだから堂々と出てきて、記者会見をすればよかったのではないか。もともと逃亡癖があったのだろうか。

   ゴーン被告の逃亡先レバノンはこのところ災難続きだ。首都ベイルートの港湾地区で現地時間で4日、大規模な爆発が連続して発生し、100人以上が死亡、4000人以上が負傷した(8月5日付・共同通信Web版)。日本人1人も軽傷を負っているという。レバノンの首相は演説で、倉庫が6年前から危険な状態で放置されていたと指摘し、原因究明を約束した。2700㌧の硝酸アンモニウムが貯蔵されていたとみられる(同)。テレビ映像でもこの爆発シ-ンを視聴したが、「まるでこの世の終わり」と思うほどすさまじい大規模爆発だった。

   ゴーン被告の住宅も被害を受けたようだ。妻のキャロル・ナハス容疑者(偽証容疑で逮捕状)が「私たちは大丈夫だが、家は壊れた。ベイルート全体が壊された」と話している(8月5日付・NHKニュースWeb版)

   もう一つの災難。レバノン政府は3月7日、償還期限を迎える外貨建て国債12億㌦の返済について、財政難を理由に見送ると発表した。レバノンがデフォルト(債務不履行)に陥るのは初めて。同国は長年の汚職や政情不安を解消できず、深刻な財政危機に見舞われている(3月8日付・時事通信Web版)。財政悪化に苦しむレバノン政府は昨年10月、通信アプリの無料通話への課税案を発表したが、市民の抗議デモを受けて撤回。その後、国際送金や米㌦預金引き出しを制限したももの、通貨レバノン・ポンドの急落を招いた。反政府デモで暴徒化した市民と治安部隊の衝突も起きた(同)。

   ゴーン被告はおそらく浮き浮きとした気分で逃亡の成功を祝ったことだろう。その後、降りかかる災難と国内の政情不安をどう見ているのか。国際手配されていて他国に逃げようがない。まさか、日本で裁判を受けていればよかったなどとと後悔してはいまい。

⇒5日(水)夕・金沢の天気   はれ

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☆コロナ禍「ふるさとは遠きにありて思うもの」

2020年08月04日 | ⇒ドキュメント回廊

   あと1週間もすれば旧盆だ。この時季は能登はにぎやかだ。観光客と帰省客がどっと訪れ、キリコ祭りといった祭礼も各地で盛り上がる。例年ならば8月の14日か15日に能登の実家を訪れて墓参し、キリコ祭りを見ながら親戚や旧友たちと杯を重ねながら近況を語る。真夏のこの光景を心に刻んで金沢に帰る。で、コロナ禍のことしはどうするか。

   「4月13日」の緊迫した状況ならば、帰省を見合わせざるを得ない。この日は、金沢市の10万人当たりの感染者が15.3人と東京都の13.6人を超えて全国トップとなったことから、石川県の知事が県独自の緊急事態宣言を出した。知事は「改めて危機感を共有し、社会全体が一致結束しなければならない」と不要不急の外出や移動の自粛徹底を要請した。この危機感のアピ-ルが奏功したのだろうか、いまは10万人当たりで金沢市は31.9人(8月2日現在)、東京都の96.7人(同)と比べると感染者数は増えてはいるものの随分とペ-スダウンしている。

   冒頭で述べた能登各地で執り行われるキリコ祭りは、今年ほとんどが中止となった。キリコ祭りは巨大な奉灯を1基当たり気数十人で担ぎ上げて街を練り歩く神事でもある。少ない地域でも数基、多いところは数十基もあり、金沢ほか遠来からの帰省客や観光客がキリコ担ぎや見学にやってくる。まさに「3密」を招くので、それを避けるための中止だ。つまり、「ことしは来てほしくない」という地元の人たちの正直な気持ちが痛々しく伝わる。キリコ祭りが行われる能登の6市町のうち、感染者ゼロは5市町だ。相手の気持ちを考えると気軽に帰省してよいものか。

   キリコ祭りを考えると、複雑な気持ちがもう一つある。能登は過疎高齢化の尖端を行く。帰省客らが来てキリコを担がないとキリコそものが動かせないという集落も多い。今回のコロナ禍でキリコ祭りを止めたことをきっかけに、来年以降も止めるというところが続出するのではないか。すでに、高齢化でキリコを出すことも止めた集落もあり、伝統祭礼の打ち止めに拍車がかかるのではないかと案じる。

   このキリコ祭りの日を楽しみに能登の人たちは1年365日を過ごす。帰省する兄弟や、縁者、友人たちを自宅に招いてゴッツオ(祭り料理)をふるまう。その後、夜を彩るキリコの練り歩きを皆で楽しむ。そのキリコ祭りがなくなれば、地域の活気そものが失われる。

   金沢出身の文人・室生犀星は『ふるさとは遠きにありて』の詩を詠んだ。今回はあえて帰省を止め、「帰るところにあるまじや」「ふるさとおもひ涙ぐむ」のか、あるいは「Go To ふるさと」か。迷いは続く。

(※写真は能登のキリコ祭りを代表する一つ、能登町「あばれ祭り」。40基のキリコが街を練る)

⇒4日(火)朝・金沢の天気     くもり時々はれ

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★言葉の死語化のプロセスを読む

2020年08月03日 | ⇒メディア時評

   学食はにぎわっているというイメージだが、このご時世はちょっと違う。キャンパスでは「3密」の回避が徹底されていて、学食のテーブルも対面ではなく一方向で横のイスの間隔も一つ空けてある。普段は12人掛けのテーブルだが、3人掛けだ。その分、食事を取っていると、近くにいる学生たちの声もよく聞こえる。先日こんな会話が聞こえた。

   「えっ、美肌って言っちゃだめなの」と女子。男子が「美肌は白い肌という意味だろう、この言葉は人種差別との誤解を受けるよ」。すると女子は聞き返す。「歯磨きで歯を白くするのを美白っていうけれど、これも言っちゃいけないの」。男子は「これはむずかしいな。でも、使わない方がいいよ」と。

   学生たちの間に割って入ることはしなかったが、現代の課題が読めて「面白い」会話だと思った。美肌が人種差別に当たるという事の発端は、ことし5月25日にアメリカのミネソタ州ミネアポリスで起きた、偽札を使ったアフリカ系アメリカ人の男性が白人の警察官に首を押さえつけられて死亡する事件だった。黒人差別反対を訴えるスローガン「Black Lives Matter」(黒人の命は大切だ)を掲げた抗議活動が全米に広がった。トランプ大統領が「略奪が始まれば(軍による)射撃も始まる」とツイートしたことなども抗議活動に拍車をかけた。

   事件が「美肌」問題と直結したのは、「Black Lives Matter」抗議活動が全米で広がったのを受けて、アメリカの医薬品会社「J&J(ジョンソン・エンド・ジョンソン)」がアジアと中東で販売していたホワイトニングクリーム(シミ消しクリーム)を販売中止としたことや、フランスの化粧品会社「ロレアル」がスキンケア商品で『ホワイトニング』や『明るい』といった表現を使わないと発表したことだった(6月27日付・ニューズウィーク日本語Web版)。

   この流れを読むと、「言葉狩り」を連想してしまう。J&Jやロレアルは企業イメージを上げるために販売中止や広告宣伝からの除外を決めたのだろう。販売中止となったJ&Jの商品を検索すると中東で販売されている「Fine Fairness」やインドの「Clear Fairness」などだ。また、ロレアルが商品説明などで使わないとした言葉は「whitening」「lightening」「fair」だ。言葉はある意味で生き物だ。いったんマイナスイメージが付加されると、言葉そのものが死語と化することもある。学生たちが「美肌」や「美白」を使わない方がよいと交わしていた会話からもそうした現象がうかがえる。

   言葉の死語化にとどめを刺すのはメディアや出版社かもしれない。たとえば、オックスフォード大学出版局の『オックスフォード英語辞典』が今後の再版で、「Fine Fairness」「whitening」「lightening」「fair」などを差別用語として注釈を入れる可能性もあるのではないだろう。あるいは、共同通信社が出版している新聞用字用語集『記者ハンドブック』や岩波書店の『広辞苑』で「美肌」「美白」を差別用語、あるいは不快用語としたら、新聞やテレビ、教科書で使われなくなることにもなる。

   言葉は多様な意味を持つ。「美肌」は白色だけでなく、健康でつやつやとした肌という意味もあるだろう。歯は「美白」が健康的で清潔なイメージだ。一つの意味や解釈で言葉を死語にしてほしくないと願う。で、「面白い」という言葉もやり玉に上がるかもしれない?

(※写真は、白人警官による黒人の暴行死事件を解説する6月11日付・ウオールストリートジャーナルWeb版)

⇒3日(月)午前・金沢の天気   くもり時々はれ

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☆検証報告「確認されず」で済むのか

2020年08月02日 | ⇒メディア時評

   フジテレビの番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーがことし5月23日に自死した問題で、フジテレビは7月31日付で検証報告を公式ホームページで掲載している。それによると、調査は社内の関係部門を横断する メンバーによる内部調査で、一部に弁護士も加わった。聞き取り調査の対象者は番組のプロデューサー、ディレクター、制作現場のスタッフ、出演者、女子プロレスラーの所属事務所の関係者ら27人におよんだ。

   問題となった38話は、同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れたとして怒鳴り、男性の帽子をはたく場面だ。この場面のいきさつについて検証報告では以下のように記載されている。「一部の報道等では、制作側が木村花さんに対して、プロレスのヒール(悪役)のキャラクターを演じるよう指示しており、木村花さんのSNSを炎上させる意図があったと伝えられています。しかし、制作側からそのようなキャラクター設定を求めるような指示をしたことは確認されませんでした」。いわゆる「やらせ」はなかったとしている。

   むしろ、この検証報告で注目したのは、SNSでの炎上と自傷行為を制作側はどのようにとらえていたのか、という点だ。以下報告を要約する。動画配信サービス「Netflix」で38 話が配信された3月31 日は、SNSコメントは2万2421件を記録した。それまで番組へのコメントは配信後1日で6千から8千だったので38話の場合は異常に多かった。さらに、ネガティブなコメントの割合は配信直後の1時間は40%だった。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及び、それをSNSに書き込んだ。番組スタッフがこのことをSNSで知り、本人と連絡して無事であることを確認している。

   この時点で5月18日の地上波の放送が決まっていた。本来ならば、SNS炎上の第2波を防ぐために問題の一部シーンをカットするなどの配慮があってもよかったのではないだろうか。そうした救済措置もないまま予定通り放送される。「5月18日に地上波で38話が放送された際にも、同じスタッフが木村花さんと連絡をしており、SNSにネガティブなコメントがあるとの話を聞きましたが、この場のやり取りでは、猫を飼い始めたなどの話を聞いており、木村花さんが元気で、深刻に悩んでいる様子は無いものと認識しました。」(検証報告)。その5日後に自死にいたる。

   問題シーンのカットもせずそのまま地上波で放送したのは、番組スタッフとすれば「ネット配信で事前に視聴者の話題を煽り、本命の地上波放送で視聴率を上げる」という狙いがあったのではないかと勘繰らざるを得ない。これに関して以下の説明がある。

   「制作スタッフが出演者のSNSを炎上させる意図を持つ要素があるかについても調査しましたが、そのようなことは確認されませんでした。例えば、視聴率および配信数を向上させることを目的とし得るかどうかについても確認しましたが、出演者のSNSの状況と地上波放送の視聴率 、フジテレビが行うインターネット配信の視聴数の間には、過去のエピソードを含む一連のデータを検証しても、何ら相関が見いだされず、そのような動機を持つことはないと考えます。また地上波放送については、放送時間帯が深夜0時以降であり、視聴率の主要な評価基準の一つである全日時間帯(6時から24時)に含まれておりません 」(同)

   検証報告では契約書についても触れている。「出演者および所属事務所と、上記『同意書兼誓約書』を締結しておりますが、これは一般に出演契約と言われるものであり、労働契約ではないとのことでした。損害賠償に関する規定についても、契約違反しただけでなく、それによって番組の放送、配信が中止された場合について定めたものです。これは、現実的には、出演者による犯罪が起きるなどの重大な事態しか想定され得ず、制作側としては、そのような事が起きないようにするための抑止力として捉えていました」

   この文面を読んでふと思った。以下憶測である。本人は5月18日の地上波放送を中止してほしかったに違いない。それを番組スタッフ、あるいは所属事務所の関係者に頼み込んだ。しかし、「番組の放送を中止した場合、損害賠償が請求される」と聞かされ、諦めざるを得なかった。そして放送後、SNSにネガティブコメントが届き、自らをさらに追い詰めることになった。

   遺族はBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会に人権侵害の審査を申し立てている(7月15日付・共同通信Web版)。フジテレビ側とすると、審査入りの決定を前に、検証報告を公表しておきたかったのだろう。BPOの審査が決定し、審議が始まれば、おそらく真っ先にフジテレビ側が問われるのは、なぜ内部調査だったのか、第三者委員会を設置して客観的視点から調査を行うべきではなかったか、と。

(※写真はイギリスのBBCニュースWeb版が報じた女子プロレスラーの死=5月23日付)

⇒2日(日)午後・金沢の天気     はれ

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★道のべの木槿は馬にくはれけり

2020年08月01日 | ⇒メディア時評

   きょうから8月、庭のムクゲが花盛りだ。花弁が白く、花ずいに近い部分が赤い底紅の花はそのコントラスが目を引く=写真=。茶人の千利休の孫、宗旦が好んで花入れに使ったことから、「宗旦木槿(そうたんむくげ)」と呼ばれたりする。同じムクゲで、花が真っ白なギオンマモリも夏の日差しに映えている。夏を和ませてくれる花ではある。

   芭蕉の句がある。「道のべの木槿は馬にくはれけり」。馬が道ばたのムクゲの花をぱくりと食べた。芭蕉はその一瞬の出来事に驚いたかもしれない。花であっても、いつ何どき厄(やく)に会うかもしれない、と。

   平和な町が突然、コロナ禍に見舞われる。今世界中で起きていることだ。ジョンズ・ホプキンス大学のコロナ・ダッシュボード(一覧表)によると、ウイルス感染者は世界で1759万1973人、死亡者は67万9439人に上っている(日本時間・1日午後3時現在)。日本では感染者3万7549人、死亡者1008人とカウントされている。石川県内では感染者322人、死亡者は27人。職場である金沢大学の感染者も6人となり、県内で7つ目のクラスターとなった。   

   WHOの公式ホームページでテドロス事務局長のスピーチ(7月31日付)をチェックすると、コロナ感染が急増している南アフリカ大統領とのオンライン会議でのコメントが掲載されいた。「WHO’s commitment is to bringing scientists, researchers, innovators and nations together in a spirit of solidarity, to ensure shared solutions to this shared challenge.Science is the most powerful when it benefits everyone. 」(WHOの取組は、科学者、研究者、革新者、国を連帯の精神で結集し、この共通の課題に対する共有ソリューションを確実にすることです。科学は、すべての人に利益をもたらすときに最も強力です)

   テロドス氏の上記のコメントに違和感を感じた。パンデミックが発生してから現在、世界で200を超えるワクチンが開発中で、そのうち20を超えるワクチンが人体試験を開始している。
まるで、WHOがワクチン開発を進めているかのような口ぶりなのだ。

   「道のべの木槿は馬にくはれけり」。ワクチンはテドロス氏にぱくられり。

⇒1日(土)夜・金沢の天気    はれ

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