自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「どぶろく」と「アイヌのサケ漁」の相関性

2020年08月18日 | ⇒メディア時評

   古来からの伝統的な生産品が明治の法律によって今でも禁止されているケースがある。自らの趣向品でもある「どぶろく(濁酒)」がそれに当たる。石川県中能登町の由緒ある神社では12月に「どぶろく祭り」を開催して参拝客に振舞っている。五穀豊穣を祈願する新嘗祭のため、どぶろくを造ってお供えする神事を古代より連綿と守ってきた。ただ、神社に行かないと飲めない。

   もともと明治初期まではどぶろくは各家々で造っていた。明治政府は国家財源の柱の一つとして酒造税を定め、日清や日露といった戦争のたびに増税を繰り返し、並行してどぶろくの自家醸造を禁止した。これがきっかけで家々のどぶろくの伝統は廃れたが、宗教的行事として神社では残った。所轄の税務署から製造許可が与えられ、境内から持ち出すことが禁じられている。最近では、地域活性化を目指す国の構造改革特区の「どぶろく特区」で、特定した稲作農業者だけに製造が認められている。

   明治期には酒税は国の税収で重きをなしていたかもしれないが、現在、どぶろく造りにまで目を光らせる理由がどこにあるのだろうか。神社に伝えられた伝統的な酵母菌のどぶろくを自由に飲ませてほしい。どぶろくは日本酒のルーツでもある。

   このニュースも「明治の負の遺産」だ。きのう17日、北海道のアイヌ団体「ラポロアイヌネイション」が札幌地裁に対して、アイヌ民族には地元の川でサケ漁を行う先住権があるのに不当に漁が禁止されているとして、漁を規制する国と道を相手取り、権利の確認を求めて提訴した(8月17日付・NHKニュースWeb版)。

   かつて、アイヌにとってサケは重要な食料であると同時にアイヌ語でカムイチェプ=「神の魚」と呼ばれるほど特別な存在とされていた。しかし、明治以降は政府により資源保護の観点からサケの遡上する主要河川での捕獲が制限され、漁業権を持つ者以外は捕獲から排除されてきた。現在ではアイヌの文化的伝承や儀式に限り、道知事の許可を得て例外的にサケ漁が認められている。

   今回テーマになっている「先住権」は、先住民族が伝統的に持っていた土地、資源に対する権利や政治的な自決権を指し、2007年に採択された国連の先住民族権利宣言に明記された。これに従って、国は、昨年5月施行のアイヌ施策推進法でアイヌ民族を先住民族と初めて明示したが、先住権には触れていない(8月18日付・北海道新聞Web版)。今回の訴えでは、その先住権として、道東にある十勝川の河口4㌔の範囲で、サケの刺し網漁を認めてほしいとの訴えだ。裁判で争われるのは、先住権としての漁業を認めるか、だ。

   北海道では「秋鮭」などで親しまれるサケを、海に仕掛けた大型の定置網で漁獲している。訴えたメンバーはこの川の周辺で生活していたアイヌの子孫たちた。十勝川での刺し網漁を復活させ、アイヌの独自のサケの食文化をブランド品として売り出すという構想を持ってのことだろうと想像する。とすれば、北海道のサケのブランド価値を高めるためにも、このアイヌの先住権を認めるべきではないだろうか。国も道も前向きに考えてほしい。

(※写真は、初サケを迎えるアイヌの儀式=アイヌ民族博物館公式ホームページより)

⇒18日(火)朝・金沢の天気     はれ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする