「KANTA&KAEDE」。金沢市に住む中学生と小学生の兄妹によるアーチストだ。世界的なシューズメーカー「オニツカタイガー」とのコラボレーションで商品開発を進めている。兄のKANTAは細かい図柄を描き、妹のKAEDEはおとぎ話をテーマにした切り絵を描くのが得意だ。
オニツカタイガーの製品開発の担当者がたまたまインターネットで作品を知り、カラフルでポップな芸術性に着目した。2019年4月から同社はシューズ=写真・上=、バッグ、Tシャツに兄妹のデザインを取り込んだ製品を発売している。担当者は最初迷った。兄妹には発達障害があった。そこで「障がい者アート」として売り出せばよいのか、と。考えるうちに、アートの世界に障がいというボーダーはないことに気がつき、冒頭の「KANTA&KAEDE」のアーティストブランドを売り出した。
話は変わる。「CCRC(continuing Care Retirement Community)」という聞きなれない言葉がある。アメリカでは、リタイア後の元気なうちに入居し、介護が必要になっても移転することなく同じ敷地で人生の最期までを暮らす、シニアのためのコミュニティー(小さな町)がある。若いころにマンハッタンなど大都会で働き稼いでも、老いは確実にやってくる。高層マンションでの孤独死を自らの最期にしてなるものか、と意欲あるシニアが次なる人生のステージを探す。日本語で言えば「終の棲家」だ。このアメリカ版終の棲家は全米で2千所以上もあり、60万人の居住者が生活しているといわれる。
終の棲家、日本版CCRCは金沢にもモデルタウンがある。金沢大学の近くにある「シェア金沢」だ。3万6000平方㍍の敷地の中に高齢者向けデイサービス、サービス付き高齢者住宅、児童福祉施設、学生向けアパート、温泉、レストラン、カフェなどが点在する複合型福祉施設だ。高齢者や学生・若者、障がい者らが一つのコミュニティーの中で生活している。
これまで何度か訪れたが、東京などから移住してきた高齢者夫婦が売店でレジをしていたり、学生たちと会話で笑っていたり、子どもたちと遊んでいたりと、いろいろな光景を見ることができる。温泉は近所の人たちにも無料で開放されていて、人気が高い。カフェでは移住してきたシニアの人たちと顔見知りとなった近所の人たちがまるで家族団らんのように話し合っている光景も目にする。これまで日本では高齢者施設、障がい者施設、児童福祉施設と施設ごとにボーダー(境界)を造っていた。それをまったく外し、近所の人たちも巻き込んだ、「ごちゃまぜ」の小さなタウン。終の棲家の理想形ではないだろうか。
障がい者と健常者の心のボーダー、施設というボーダーを外すことで見えてくる新たな光景やビジネスチャンス。ボーダーレスの未来可能性は広がる。
(※写真・下は2016年2月、当時の石破地方創生担当大臣がシェア金沢を視察したときの様子)
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