SNSのすごさを感じたのは、ある意味でトランプ大統領だった。ツイッターによる攻撃、いわゆる「ツイ撃」で名をはせた。2017年1月の大統領就任前からゼネラル・モーターズ社やロッキード社、ボーイング社などに対し、雇用創出のために自国で製造を行えと攻撃的な「つぶやき」を連発した。ホワイトハウスでの記者会見ではなく、次期大統領がツイッターの140文字で企業に一方的な要望を伝えるという前代未聞のやり方だった。
大統領就任から今でも昼夜を問わず発信し続けている。世界を驚かせたのは、2019年6月30日の米朝首脳会談だった。トランプ氏のツイッターがきっかけだった。G20サミットで大阪に滞在していたトランプ氏が6月29日付のツイッター=写真・上=で、「もし金正恩委員長がこれを見ているなら、非武装地帯(DMZ)で握手してあいさつする用意がある!」。翌日それが板門店で実現した。両氏がツイッターのユーザーだったから実現した外交と賞賛され、「世界最大のオフ会だ」などと国際的なニュースとして流れた。両者は会談ではなく面会との位置づけだ。
このところ、SNSとトランプ氏の関係性が良くない。ことし8月6日にツイッター社はトランプ陣営のアカウント「@teamtrump」による投稿を一時的に禁止した。新型コロナウイルスに関連して、トランプ氏が「子どもはこの感染症に対してほぼ免疫がある」と発言したトランプ氏のFOXニュースのインタビュー映像が投稿され、同社は害を及ぼす恐れのあるウイルス関連の偽情報に相当するとして削除した。フェイスブックも同様な措置をした(8月7日付・BloombergニュースWeb版日本語)。
それに以前の7月28日にもトランプ氏がリツイートした「新型コロナウイルスには治療法がある」と主張する映像投稿について、ツイッター社は内容に誤りがあるとして削除している(7月29日付・NHKニュースWeb版)。映像では、トランプ氏が自ら服用を公表したマラリアの治療薬について、服用を勧める内容があり、ツイッター社は「投稿に関する規約に反する」として削除した(同)。
この背景には、トランプ氏とSNSとの確執がある。トランプ氏はSNS企業などを保護する法律を撤廃するか効力を弱める法律を導入すると表明し、ことし5月28日に大統領令に署名している(5月28日付・ロイター通信Web版日本語)。同26日にツイッター社がトランプ氏の郵便投票に関するツイートが誤解を招くとして、読者にファクトチェック(真偽確認)を促す警告マークを表示したことに対し、トランプ氏は言論の自由への弾圧として反発していた。
アメリカのSNS企業は通信品位法(CDA:the Communications Decency Act )230条に基づき、利用者の投稿内容について免責されるという法的保護を受けている。つまり、SNS企業は、基本的には違法な投稿を掲載したことの責任を問われない、その一方で、ヘイトスピーチなどのコンテンツは独自にファクトチェックの規定を設けて規制している。大統領署名は行われたものの、今のところ具体的な規制はない。単なる脅しの署名だったのか。
ツイッター社がトランプ氏のツイートをチェックして事実確認を求める立場に置かれている。ところが、トランプ氏にすれば、政治はディール(取引)の世界で、SNSはその一つの道具に過ぎない。11月の大統領選が本格的に始まれば、対立候補を誹謗中傷するネガティブ・キャンペーンがヒートアップする。2016年の大統領選では、クリントン陣営は「トランプはKKK(白人至上主義団体クー・クラックス・クラン)と組んでいる」とキャンペーンを張り、トランプ陣営は「クリントンは錬金術師だ」と映画までつくり相手陣営を激しく攻撃した=写真・下=。アメリカの選挙風土は相手の落ち度を徹底的に責める、まさにデスマッチではある。
このデスマッチ化する大統領選挙で、ツイッター社などのSNS企業のファクトチェック方針はどこまで通用するのか。熾烈な選挙風土の中では単なる「きれいごと」と有権者から無視されるのか。あるいはSNSがこうした選挙風土を変革するのか。SNS時代におけるアメリカ大統領選挙の見どころのポイントではある。
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