自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「マスメディアと現代を読み解く」の講義から-2-

2019年07月14日 | ⇒メディア時評

   金沢大学での講義科目「マスメディアと現代を読み解く」では震災を新聞・テレビがどう報じるかを「震災とマスメディア」をテーマに2回(6月26日、7月3日)にわたって講義した。重いテーマだ。震災報道について論点をいくつか述べた。

   ~震災報道について、風化のハードル、既視感との闘い~

   突然やってくる災害報道に新聞・テレビはどう対応しているのか。新聞各社はそれぞれに、あるいはテレビだと系列として地震対応マニュアルを作成し、発生時のスタッフの役割・人配置を決めて、シュミレーションを実施している。ただ、2011年3月11日の東日本大震災のように広範囲で地震が起きた場合、津波や火災、原発事故などが同時に発生し、想定外の災害となる。また、現地メディアも被災した。

   東日本大震災では報道する側も被災者となり、連絡不能のなかで、スタッフは独自判断で行動することが求められた。仙台空港に駐機していたヘリは津波で機体が損壊して空撮ができず、災害の全体像を把握できなかった。それでもテレビ各社は3日間にわたって緊急特番を報じた。停電や輪転工場の損壊で一時印刷できなくなった石巻日日新聞は6日間にわたって「壁新聞」を発行し続けた。アメリカのニュース博物館「NEWSEUM」はこの壁新聞を展示し、「この新聞は人間の知ることへのニーズとそれに応えるジャーナリストの責務の力強い証しである」と評価している。震災時におけるメディアの宿命を端的に表現した事例だった。

   「災害は忘れたころにやってくる」(寺田寅彦)とう教訓がある。260年前、経済学者アダム・スミスは『道徳感情論』の講義で災害に対する人々の思いは一時的な道徳的感情であり、心の風化は確実にやってくると述べた。マスメディアにとって風化という視聴者のハードルをどう乗り越えるかは大きなテーマだ。被災地の復興は一般に思われているほどには進んでいない。この復興に対する意識のギャップを埋めるために、震災発生から定期的に特番を放送する。被災地の人々の心情は「忘れてほしくない」ということに尽きる。その心情を新聞・テレビが代弁している。一方で、マスメディア内部では「既視感」との闘いがある。被災地のローカル局と東京キー局との報道スタンスは異なる。ローカル局は被災者に寄り添う番組づくりを心がけているが、キー局は視聴率重視のスタンスがあり、すべての復興特番が全国ネットに上がるわけでもない。

    講義の最後に、マスメディアは災害や事故、事件で遺体の写真を掲載しない現状について述べた。被災者や読者・視聴者の感情に配慮してのことだ。リアクション・ペーパー(感想文)で学生たちに意見を求めた。「日本のマスメデイア(新聞・テレビなど)は通常、遺体の写真を掲載していません。被災者や読者・視聴者の感情に配慮してのことだと考えられます。一方で、海外メディアはリアリティのある写真を掲載しています。以下の問いのどちらかを選び、あなたの考えを簡潔に述べてください」と。学生には「1.現状でよい」「2.見直してよい」で選択してもらい、その理由を記入してもらった。

    67名の学生から回答があり、「現状でよい」54%、「見直してよい」46%だった。「現状でよい」の主な意見は「見る側への心理的な影響(PTSDなど)、とくに子供への影響が心配」「遺体にも尊厳がある」「インターネット掲載など別の方法がある」だった。「見直してよい」の意見を整理すると「震災を風化させないためにも、現実や事実を報道すべき」「見る側の選択肢を広げる報道をしてほしい」といった内容だった。

    2011年の東日本大震災をきっかけにこのアンケートを始めた。当初は「現状でよい」が70%近くあったが、今回は僅差になった。遺体写真は見たくはないものの、報道は事実優先でやってほしいというマスメディアに対する「あるべき論」が学生の間で高まっているようにも思える。(※写真は、2011年5月11日に撮影した宮城県気仙沼市の被災現場)

⇒14日(日)午後・金沢の天気    あめ

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☆「マスメディアと現代を読み解く」の講義から‐1-

2019年07月11日 | ⇒メディア時評

   金沢大学の講義科目「マスメディアと現代を読み解く」(全8回、1単位)では国内外のさまざまニュースをとらえ、マスメディアはどう報じているかを分析することで、新聞・テレビの取材の手法と視点が視聴者・読者とどのような距離感があるのかなど、学生の意見を交えながら論じている。きのう10日の講義は、4日に公示された参院選と絡めて「マスメディアは選挙をどう伝えるのか」をテーマとした。

   ~候補者、政党の報道の扱いにおける公平性や平等性とは何か~

   講義は、マスメディアに選挙報道の公平さを規定している法律から入った。新聞やテレビに選挙報道の公正さを求める(公選法148-1)、テレビ放送に政治的な公平性を求める(放送法4)、テレビ放送に候補者の平等条件での放送を求める(放送法13)などだ。この法律に従って、マスメディアの選挙報道は公示・告示の日から投票時終了まで、候補者の公平的な扱いを原則守っている。候補者の扱いでの公平性は新聞の場合、写真の大きさやプロフィル、記事の行数など。参院選では選挙区選挙と比例代表選挙があるが、比例では政見放送の扱いの事例を紹介した。講義の当日10日午前にNHKが放送した「NHKから国民を守る党」の政見放送では、事前収録の放送にもかかわらず、「NHKをぶっ壊せ」と候補者が叫んでいた。NHKとすればまさに業務妨害にも相当するが、政見放送なのであえて放送している。

   マスメデアィアがいかにして「当選確実」を速く正確に打つのか。2つの技術がある。出口調査は投票を終えた有権者にお願いし、誰に投票したか、比例区ではどの党の入れたかのかなど記入してもらう。出口調査での票数を分析し、テレビ局は選挙特番で投票終了後に「当確」を打つ。出口調査の実施にあたっては、新聞社と系列のテレビ局がタッグを組むケースが多い。開披台調査は、出口調査での選挙区候補者間の得票率が10ポイント未満の僅差に場合に行われる。体育館などでの開票作業をバードウォッチングのように双眼鏡で仕分けしている票を読んで得票を確かめる。電子投票が進めば将来的に開披台調査はなくなるが、今回の参院選では電子投票を行う自治体はない。

   講義の最後にリアクション・ペーパーのアンケートで、マスメディアの選挙期間中における候補者・政党の公平・平等な扱いについて意見を求めた。「アメリカではテレビ局に選挙などの政治的な扱いに公平性を課すフェアネスドクトリン(The Fairness Doctrine)がありましたが、言論の多様性こそ確保されなければならず、フェアネス性を課すことのほうがむしろ言論の自由に反するとの司法判決で1987年にファネスドクトリンは撤廃されました。日本の放送法や公選法では候補者への扱いに公平性を求めていますが、あなたの考えを簡単に述べてください」。学生には「1.現状でよい」「2.見直してよい」で選択してもらい、理由を記入してもらった。

   65名の学生から回答があった。「現状でよい」71%、「見直してよい」29%だった。現状肯定が圧倒的に多かった。学生の意見では「選挙報道の公平性は選挙の本来的な在り方である政策論争を場を守るために必要なルールだと思う」と。一方の見直しの学生の中では「年齢や性別など、有権者にはそれぞれ異なる立ち場があり求める情報も異なる。選挙報道にもっと多様性があっていい」と。このほかにも、まったく平等にすべての候補者と政党を同じ大きさで扱うのなら、単なる選挙公報になってしまうので、それは選挙管理委員会に任せ、マスメディアはもっと選挙の争点や論点を報道してほしい、と手厳しい意見が散見された。

   2016年施行された18歳選挙権で、受講する学生の多くは選挙権を有している。そのせいか、アンケートからは選挙に対してリアリティのある意見を述べる学生たちが以前に比べて増えているというのが実感だ。

⇒11日(木)夜・金沢の天気   くもり

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★松本で国宝二つ、そば一つ

2019年07月08日 | ⇒ドキュメント回廊

   北陸新幹線で長野駅に行き、それから在来線で1時間ほど。松本駅に着いた。松本城をゆっくり見学したいとの思いにかられ、東京出張の折、予定を変更した。

   松本城は400年余りの風雪に耐えた国宝である=写真・上=。黒門をくぐり天守閣に入る。鉄砲蔵で火縄銃など見ながらさらに上階へ。斜度61度の急階段は袴姿の殿様も大変だったろうなどと想像しながら天守6階にたどりついた。ここは周囲を見渡す「望楼」で、さらに天井には城の守り神「二十六夜神」が祀ってあった。権勢を誇る城というより、常在戦場を心得る場だったのだろう。

   それにしても感心したのは天守閣の床や階段が磨き上げられていることだった。ボランティアガイドのシニア男性に尋ねると、市内の中学生や市民が年に10数回集い、床を糠袋を使って磨いているそうだ。市民が誇りに思い、愛される城なのだと実感した。

   もう一つ国宝を訪ねた。松本城の近くにある「開智学校」だ。令和に入り、文化庁が答申した。1876年(明治9年)の建設。漆喰塗りの外壁を持つ2階建ての屋根上に八角形の塔を載せたデザインで、まさに洋風と和風の伝統意匠を織り交ぜた建築物だ=写真・中=。当時の学校建築としては先駆的で画期的だったろう。校舎は1963年(昭和38年)まで、実際に小学校として使われていた。展示品も見学した。この学校では1901年(明治34年)から丁稚奉公や芸妓の稽古などに出て学ぶ時間や機会がない子供たちのための夜間学校や、障害を持った子供たちのための教育など行ってきた。まさに「だれ一人取り残さない」教育の場だった。

   松本見学の締めくくりは信州そばだった。城の近くで50年余りそばを打っているという店に入った。思いが一つあった。出雲そばとの比較だ。昨年11月、国宝・松江城の近くの店で名物「割子そば」を食した折、出雲のそばは松江藩初代の松平直政(徳川家康の孫)が、信州松本から出雲に国替えになって、そば職人を信州から一緒に連れて来たと聞かされていた。出雲そばと信州そばは歴史的なつながりを確かめたかった。

   入った店は黒焼きの壺にビワの青い葉が生けられ、白壁に映えて気品が漂っていた。ただ、店にはメニューがない。黙って座っているだけ。日本酒が運ばれて来る。その後、ざるそばが出てきた=写真・下=。出雲そばと信州そばの歴史的な共通性を食感で得たのか。粗切りされたそばはすするのではなく、噛むそばだった。香りがよい。つゆも醤油味が濃いめで独特の甘みが少々ある。これが双方の共通点といえば、そうなのかもしれないと思いながら店を出た。

⇒8日(月)夜・金沢の天気    はれ

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☆80歳半ば現場に立つチカラ

2019年07月06日 | ⇒ドキュメント回廊

   きのう(5日)金沢市で開かれた「ディナーショー」に参加した。市内のクッキングスク-ルが主催した「七夕 シャンソン 和フレンチ」。そのタイトルに魅かれ予約していた。シャソン歌手が定番の「Que Sera, Sera(ケ・セラ・セラ)」などを披露したが、面白かったのは森山良子が作詞した「Ale Ale Ale(アレアレアレ)」。「ああ あの時のあの Ano Ano Ano あの人の名前がでてこない・・・」。高齢者の表層的な表現をうまく歌にして聴衆の笑いを誘った。超高齢化社会になるとこのようなエンターテイメントが創作できるのかとある意味感心した。

   このディナーショーを仕切ったのは、クッキングスク-ル校長の青木悦子さん、御年80歳半ばである。ディナーショーのチラシからメニューも自ら考案しスタッフに細かく指示したものだ。「百万石パリ祭の一皿」と名付けたメニュー=写真・上=は鮎のから揚げ、鶏ハム、海老とキノコのシンフォニーココットパイ包み。青木さん自身も鮎のから揚げを頭からパリパリと食べ、「だからパリ祭と名を付けたのよ」と笑う。「焼きおにぎり茶漬け」は梅肉、ワサビ、そしてアボガドを入れた茶漬けだ。アボガドのまろみが茶漬けとの親和性を醸し、茶漬けをより異次元の味覚の世界へと誘ってくれる。こんなコメントもあった。「男性の味覚は母の味、女性の味覚は旅の味、気が付けば親はなし、ですよ」。アイデアと人生観に満ちた言葉、そして料理への限りなき愛着、恐るべし80歳半ばである。

    青木さんと初めて出会ったのは私の新聞記者時代。石川県内の食文化をくまなく独自で調査し、まとめたものを『金沢・加賀・能登・四季の郷土料理』 (主婦の友社・1982)として出版した。能登の発酵食の独自性や武家文化と加賀料理の関わりなど、食文化から見えてきた地域の在り様は実に新鮮で画期的だった。80歳を過ぎても青木さんの探求心は揺らいでいない。アボガド茶漬けは周囲からアイデアを聞き、工夫を凝らした新作なのだ。   

   80歳半ばで現場に立つチカラを発揮するもう人物をもう一人知っている。86歳、杜氏として造り酒屋で蔵人たちを指導する農口尚彦さんは国が卓越した技能者と選定している「現代の名工」であり、日本酒ファンからは「酒造りの神様」、地元石川では「能登杜氏の四天王」と尊敬される。昨年1月、小松市にある醸造現場を見学させてもらった。開口一番に「世界に通じる酒を造りたいと思いこの歳になって頑張っておるんです」と。いきなりカウンターパンチを食らった気がした。グローバルに通じる日本酒をつくる、と。そこで「世界に通じる日本酒とはどんな酒ですか」と突っ込んだ。「のど越し。のど越しのキレと含み香、果実味がある軽やかな酒。そんな酒は和食はもとより洋食に合う。食中酒やね」。理路整然とした言葉運びに圧倒されたものだ。農口さんの山廃仕込み無濾過生原酒=写真・下=にはすでに銀座、パリ、ニューヨークなど世界中にファンがいる。

   青木さん、農口さんの二人に共通するのは80歳半ばにして自らの技の領域がさらなる広がりを見せていることだ。シャソンと響きあう和フレンチ、そして洋食に合う酒造り。人としての様々な道のりがあったことは想像に難くない。それを乗り越え現役としてものづくりの現場に立つという人生のモデルがそこにある。

⇒6日(土)夕・金沢の天気    くもり

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★令和最初の国政選挙

2019年07月04日 | ⇒トピック往来

         きょう(4日)参院選が公示され、立候補の受付が午後5時で締め切られた。報道によると、選挙区と比例代表合わせて370人が立候補した。夕刊の見出しをチェックすると、「安倍長期政権に審判」など政権に対する評価や消費税率引き上げの是非、それに年金制度や憲法改正などが争点だ=写真=。とにかく17日間の選挙戦に入った。

   全国45の選挙区には74人の定員に対し215人が立候補。政党別では自民党49人 、立憲民主党20人、国民民主党14人、公明党7人、共産党14人、日本維新の会8人、社民党3人などの既成政党のほかに、れいわ新選組1人、安楽死制度を考える会9人、NHKから国民を守る党37人、オリーブの木6人、幸福実現党が9人、労働者党6人 、諸派1人、無所属31人などとなっている。面白いのは、争点を1つに絞った、いわゆるシングルイシューの政党が目立っていることだ。

   NHKから国民を守る党は37人が立候補し、比例代表(定員50)にも4人が届け出ている。受信料を支払った人だけが視聴できるスクランブル放送化や受信料を払わない人を応援・サポートするとアピールしている政治団体だが、シングルイシューだからといって侮れない。先の東京都区議選(投開票4月21日)で17人が当選するなど、4月の統一地方選挙では立候補者47人のうち26人を当選させている。これで同党の地方議員は39人になった。単一論点を掲げる政党がこれほど議席を獲得するのは異例だろう。

   同党が参院選に挑むのは初めてだ。気になるのが政見放送だ。参院比例代表選挙の政見放送を流すはNHKのみで、全国同一内容で放送する。選挙区選挙については都道府県ごとにそれぞれのNHKと民放が放送する。同党の立候補者たちが何を語るのかはシングルイシューなので想像がつくが、問題はどう語るのか、だ。指定されたスタジオでの収録なので、立候補者たちは持ち前のキャクターでどう語るのか。

   今回、安楽死制度を考える会も9人を立候補させている。安楽死は、不治の病に陥った場合に本人の意思で、医師ら第三者が提供した致死薬で自らの死期を早める。オランダやスイスは安楽死を合法化しているが、日本では安楽死に関する法律はない。超高齢化社会を迎えて、自らの人生の質(QOL)を確認して最期を迎えたいという願いやニーズは確かにある。

   参院選では立候補届け出の際の供託金が比例区が1人600万円、選挙区が1人300万円だ。一定の得票がないと没収される。令和最初の国政選挙だ。立候補者はそれぞれ「がっつり」と選挙戦を戦い、有権者のモチベーションを上げてほしい。投票行動へと走るように。

⇒4日(木)夜・金沢の天気    くもり

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☆被災地を大雨が襲う

2019年07月03日 | ⇒ニュース走査

   九州を襲っている大雨が警戒レベル4となり、鹿児島県と宮崎県の15市町の52万世帯、110万人余りに「避難指示」が出された。110万人は石川県と同じ人口規模で、この数字だけで大変なことになっていると察しがつく。避難指示では自治体が重ねて避難を呼びかける。大雨では避難場所に移動する途中で危険な箇所もあり、臨機応変に近くのビルなど安全な建物や高い場所に逃げたほうがいい。

   きのう(2日)気象庁の予報官が記者会見を開いている様子をテレビで視聴したが、ただならぬ雰囲気だった。「非常に激しい雨が数時間続くような場合には、大雨特別警報を発表する可能性もあります。特別警報の発表を待つことなく、早め早めの避難、安全確保をお願いします」と。洪水も心配だが、がけ崩れ、道路の陥没といった土砂災害もある。気象庁予報官は「自らの命は自らが守らなければならない状況を認識して、早めの避難を行って頂きたい」と何度も繰り返していた。住民に対して避難を直接呼びかける異例のコメントだ。

    個人的に気になっているのは3年前に現地を訪れたことがある熊本県益城町だ。ニュースによると、川が氾濫していて、水田に土砂が流れ込むなどの被害が出ている。同町は2016年4月14日の前震、16日の本震で2度も震度7の揺れに見舞われた。新興住宅が建ち並ぶ中心部と昔ながらの集落からなる農村部があり、3万3千人の町全体で5千棟もの建物が全半壊した。半年後の10月に現地を訪れ愕然とした。あちこちにブルーシートで覆われた家屋や、傾いたままの家屋、解体中の建物があった。印象として復旧に手がついたばかりだった。

   とくに被害が大きかった県道沿いの木山地区では、道路添いにも倒壊家屋があちこちにあり、痛々しい街の様子が伝わってきた=写真・2016年10月8日撮影=。農村部では倒壊した家の横にプレハブ小屋を建てた「仮設住宅」で暮らしている農家もあった。益城ではスイカ、トマトなどが名産で、被災農家は簡単に自宅を離れられないという事情も想像がついた。

     震災から3年経ったとは言え、おそらく今でも復興半ばではあること想像がつく。 言葉で「復興」「復旧」「再生」は簡単だが、それを実施する行政的な手続き、復興政策の策定には時間がかかる。そこへ、今度は無情な大雨である。地殻の揺れの後だけに、表層崩壊、あるいは深層崩壊といった山崩れは大丈夫だろうか。

⇒3日(水)夜・金沢の天気     あめ
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★「G20」 信なくば立たず

2019年07月02日 | ⇒ニュース走査

     「G20」大阪サミットが閉幕した。読売新聞がサミット期間中の先月28-30日実施した全国世論調査は、安倍内閣の支持率が53%で前回5月の調査の55%とほぼ横ばいだったと報じている。議長としてG20サミットを仕切った安倍総理への国民の評価は「なんとか無難に乗り切りましたね。お疲れさま」というイメージだろうか。それにしてもG20の成り行きをウオッチしていて、いくつか違和感を感じた。

  その一つ。来年、サウジアラビアの首都リヤドで行われるG20サミットについて、ムハンマド皇太子が仕切り役となっていることだ。2018年10月、サウジアラビア政府を批判してきた同国のジャーナリストがトルコにあるサウジアラビア総領事館で殺害された。事件当初から皇太子の関与が取りざたされてきた。今月に入り、皇太子と政府高官の関与を示す調査結果が国連人権理事会に報告された(6月20日付「BBCニュース」Web版)。その皇太子と会談した安倍総理は「サウジでのサミット成功に向け、引き続き日本としても取り組む」と述べた(総理官邸HP)。

  G20サミットは加盟国のGDPが世界の8割以上を占めるなど、「国際経済協調の第一のフォーラム」(Premier Forum for International Economic Cooperation)であり、取り上げられる議題は世界経済や貿易・投資のほか、気候・エネルギー、雇用、デジタル、テロ対策、移民・難民問題などだ(外務省HP)。人権とは正面から向き合っていない。「信なくば立たず」という古くからの言葉がある。孔子が、政治を執り行う上で大切なものとして「軍備」「食糧」「民衆の信頼」の三つを挙げ、中でも重要なのが信頼であると説いたことに由来する。国際政治も同様だ。国連人権理事会でも取りざたされている人物をどう信頼すればよいのか。

   次は日本のことだ。G20サミットで議長国の大役を担った。「国際貢献度」というバロメーターがあるとすれば、国際的な注目度を含めて瞬間的にトップだろう。しかし、国際政治の中で日本はどう位置付けかというと、国連憲章第53条と107条に「敵国条項」があり、いまだに第2次大戦の敗戦国である日本とドイツが対象になっている。実態として敵国条項は「死文化」しているため、1995年に削除する決議があったものの、国連憲章から削除されていない。この理不尽な敵国条項をいつまで引きずっているのか。確かに敵国条項があるから、日本はアメリカに外交と安全保障を任せて経済発展ができた、との意見もある。

   G20サミット閉幕後に記者会見を行ったトランプ大統領は、アメリカの対日防衛義務を定めた日米安全保障条約について「不公平な合意だ」と指摘し、条約の見直しの必要性を安倍総理に伝えたと述べて波紋が広がった。これはある意味で、敵国条項と安全保障を両国で考える、よい機会かもしれない。

⇒2日(火)朝・金沢の天気    くもり

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☆「DMZ電撃会談」、ツイッターの実力

2019年07月01日 | ⇒メディア時評

   「まさか」「いや、もしかしたら」などと考えあぐているうちに事態はどんどん進行し、ついに現実となった。前回の29日付のこのブログで取り上げたトランプ大統領のツイッターだ。「G20」大阪サミットで日本を訪れていたアメリカのトランプ大統領は29日午前7時51分のツイッターで「While there, if Chairman Kim of North Korea sees this, I would meet him at the Border/DMZ just to shake his hand and say Hello(?)!」(北朝鮮のキム主席がこれを見たら、握手してあいさつするためだけでも南北軍事境界線DMZで彼と会うかも?!)と、北朝鮮の金正恩党委員長との面談をほのめかしていた。それが、きのう30日午後3時45分、DMZでの電撃的な会談が実現した。

   ニュースの流れはこうだ。午前11時、韓国を訪れているトランプ氏は文在寅大統領と首脳会談を行う。午後1時、会談後の共同記者会見でトランプ氏は「DMZに行き、キム委員長と会う」と明言。ヘリコプターで午後2時45分ごろに現地の監視所に到着する。この1時間後の午後3時45分、板門店でトランプ氏と金氏が面会する。ここからの様子はホワイトハウスがツイッターで動画を公開している。トランプ氏は金氏の姿を確認するとゆっくりと進み、軍事境界線を挟んで握手を交わし=写真=、その後、国境をまたいで北朝鮮側に入る。現職のアメリカ大統領として、初めて北朝鮮側に入ったことになる。

   この後、韓国側の「自由の家」で午後4時ごろから3回目の米朝首脳会談が始まる。その冒頭で、トランプ氏は金氏にこう語った。「とても特別な瞬間であり、2人の面会は歴史的なことだ。ソーシャルメディアでメッセージを送って、あなたが出て来てくれなければ、またメディアにたたかれるところだったが、あなたがこうして出てきてくれたので、2人ともそうならずに済んだ。そのことに感謝したい」(30日付「NHKニュース」サイト)

   一連の流れをツイッター動画とニュースで見て、これまでメディアによって演出されてきた政治ドラマが、SNSによって演出される時代になったと、ある意味感慨深かった。おそらくどこかで仕掛け人がいて、演出がある。それを一切メディアに明かさずに、ソーシャルメディアで仕掛けて実演する。メディアを介さずに、ダイレクトに世間にばらす。トランプ流と言えばそれまでなのかもしれないが。

   それにしても、悔しがっているのは安倍総理かもしれない。「前提条件なし」に日朝首脳会談を模索している安倍氏にとって、ツイッターでいとも簡単に実現する首脳会談って何だろう、と。

⇒1日(月)朝・金沢の天気    くもり

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