金沢大学の講義科目「マスメディアと現代を読み解く」(全8回、1単位)では国内外のさまざまニュースをとらえ、マスメディアはどう報じているかを分析することで、新聞・テレビの取材の手法と視点が視聴者・読者とどのような距離感があるのかなど、学生の意見を交えながら論じている。きのう10日の講義は、4日に公示された参院選と絡めて「マスメディアは選挙をどう伝えるのか」をテーマとした。
~候補者、政党の報道の扱いにおける公平性や平等性とは何か~
講義は、マスメディアに選挙報道の公平さを規定している法律から入った。新聞やテレビに選挙報道の公正さを求める(公選法148-1)、テレビ放送に政治的な公平性を求める(放送法4)、テレビ放送に候補者の平等条件での放送を求める(放送法13)などだ。この法律に従って、マスメディアの選挙報道は公示・告示の日から投票時終了まで、候補者の公平的な扱いを原則守っている。候補者の扱いでの公平性は新聞の場合、写真の大きさやプロフィル、記事の行数など。参院選では選挙区選挙と比例代表選挙があるが、比例では政見放送の扱いの事例を紹介した。講義の当日10日午前にNHKが放送した「NHKから国民を守る党」の政見放送では、事前収録の放送にもかかわらず、「NHKをぶっ壊せ」と候補者が叫んでいた。NHKとすればまさに業務妨害にも相当するが、政見放送なのであえて放送している。
マスメデアィアがいかにして「当選確実」を速く正確に打つのか。2つの技術がある。出口調査は投票を終えた有権者にお願いし、誰に投票したか、比例区ではどの党の入れたかのかなど記入してもらう。出口調査での票数を分析し、テレビ局は選挙特番で投票終了後に「当確」を打つ。出口調査の実施にあたっては、新聞社と系列のテレビ局がタッグを組むケースが多い。開披台調査は、出口調査での選挙区候補者間の得票率が10ポイント未満の僅差に場合に行われる。体育館などでの開票作業をバードウォッチングのように双眼鏡で仕分けしている票を読んで得票を確かめる。電子投票が進めば将来的に開披台調査はなくなるが、今回の参院選では電子投票を行う自治体はない。
講義の最後にリアクション・ペーパーのアンケートで、マスメディアの選挙期間中における候補者・政党の公平・平等な扱いについて意見を求めた。「アメリカではテレビ局に選挙などの政治的な扱いに公平性を課すフェアネスドクトリン(The Fairness Doctrine)がありましたが、言論の多様性こそ確保されなければならず、フェアネス性を課すことのほうがむしろ言論の自由に反するとの司法判決で1987年にファネスドクトリンは撤廃されました。日本の放送法や公選法では候補者への扱いに公平性を求めていますが、あなたの考えを簡単に述べてください」。学生には「1.現状でよい」「2.見直してよい」で選択してもらい、理由を記入してもらった。
65名の学生から回答があった。「現状でよい」71%、「見直してよい」29%だった。現状肯定が圧倒的に多かった。学生の意見では「選挙報道の公平性は選挙の本来的な在り方である政策論争を場を守るために必要なルールだと思う」と。一方の見直しの学生の中では「年齢や性別など、有権者にはそれぞれ異なる立ち場があり求める情報も異なる。選挙報道にもっと多様性があっていい」と。このほかにも、まったく平等にすべての候補者と政党を同じ大きさで扱うのなら、単なる選挙公報になってしまうので、それは選挙管理委員会に任せ、マスメディアはもっと選挙の争点や論点を報道してほしい、と手厳しい意見が散見された。
2016年施行された18歳選挙権で、受講する学生の多くは選挙権を有している。そのせいか、アンケートからは選挙に対してリアリティのある意見を述べる学生たちが以前に比べて増えているというのが実感だ。
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