自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「マスメディアと現代を読み解く」の講義から-5-

2019年07月19日 | ⇒メディア時評

    記者会見をテーマにした講義では、学生たちに「最近印象に残っている記者会見は何か」とリアクション・ペーパー(感想文)に記述してもらった。65名から回答があったが、芸能人やスポーツ選手の会見が印象深いようだ。

    ~計算された記者会見、人生のドラマが凝縮される記者会見~

    お笑いコンビ「南海キャンディーズ」の山里亮太と女優の蒼井優の結婚発表会見(6月5日)は「予想もしなかった電撃結婚」。面識のない女性をコンビニで平手打ちしたとして逮捕された音楽グループ「AAA」のリーダー浦田直也のお詫び会見(4月21日)は「スーツを着てキリッとした格好で記者会見に現れたが、記憶にない、覚えていないとヘラヘラ笑っていた。違和感を感じた」。 ウィンブルドン・ジュニア選手権の男子シングルスで初優勝した望月慎太郎の記者会見(7月14日)には「16歳ながら、落ち着いた態度で記者を端々で笑わせる面白い会見だった」と。記者会見ではさまざま人間模様が見えてくる。

    講義では自分自身の印象に残る会見として、日本大学と関西学院大学のアメリカンフットボールの定期戦で悪質なタックルをし、関学大選手を負傷させた日大の加害選手の記者会見(2018年5月22日)を紹介した。特徴として、20歳で実名での会見だったこと、場所が日本記者クラブで会見したことだ。同記者クラブでの会見は弁護士は同席させないルールだが、本人が20歳ということで2人の弁護士が同席したことも異例だった。会見では、故意や動機、計画性、事件に至る心情、事件後の状況をとつとつと述べ、深い反省の態度を示した。その上で、悪質なタックルは前監督とコーチの指示だったと述べた。このことで、加害選手に同情が寄せられた。

    では、加害選手は誰に向けてメッセージを発したのか。けがの程度は全治3週間の軽傷で、会見の3日前に日大監督が西宮市内を訪れて被害選手と父親に謝罪、あわせて監督を辞任している。普通ならばこの一件はここで落着となるが、5月21日に被害選手の父親が(大阪市議)が記者会見で大阪府警に被害届を出したと発表した。加害選手の会見はその翌日だった。刑事処分になった場合、加害選手本人が傷害罪として罰せられる。この最悪のケースを防ぐ必要があり、弁護士2人が急きょ記者会見をセットした。ポイントは本人の深い反省の弁と、前監督とコーチの指示によるものだったと強調することだった。つまり、記者会見を通して、警察・検察にメッセージを送ったのだ。刑事処分を念頭に、計算され尽くした記者会見だった。

   記者会見にはさまざまなパターンがある。災害の緊急記者会見は混乱を伴う。原告団記者会見は大人数が並ぶ。謝罪会見ではお詫び、頭の下げ方まで注目される。記者会見は筋書きのないドラマでもある。「前代未聞の記者会見」と呼ばれた佐藤栄作総理の退陣表明の会見(1972年)は「新聞記者所払い」があった。「テレビカメラはどこかね。僕は国民に直接話したい。テレビは真実を伝える。偏向的新聞は大嫌いだ」と述べた。怒った新聞記者が退席した会見場で、総理はNHKのカメラに向かって一人でしゃべり続けた。これがノーベル平和賞を受賞した日本の総理の最後の会見だった。

   会社や役所内で不祥事があれば、記者会見での対応が必要となる。記者会見でさらに印象が悪くなることがある。記者会見は「危機管理」の対象でもある。誰が出席して対応すべきか、記者会見中に打ち合わせをしてよいのか、どのような服装で会見に臨めばよいのか、記者会見はどのようなタイミングで終わればよいか、謝罪会見の場合、「おじぎ」は何秒頭を下げればよいのか。記者会見には人生のドラマが凝縮される。 

      (※写真は首相官邸HPに掲載されている安倍総理の記者会見の様子。右側に設置されているプロンプターには原稿が映し出されている)

⇒19日(金)朝・金沢の天気     あめ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする