自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆ドイツ黙視録‐3-

2008年06月03日 | ⇒トピック往来

 ドイツでミュンスターといば、世界史の教科書に「ウェストファリア条約」が締結された地として出てくる。1618年から30年間続いたヨーロッパにおけるカトリックとプロテスタントによる宗教戦争が講和条約の締結によって終止符が打たれた。つまり、戦争が話し合いによって解決した史上初のケースとなり、内政不干渉など近代国際法の原型ともなった条約、とここまでは世界史で習った。ウェストファリア条約から350周年を祝う行事が1998年10月、ミュンスターで開かれた。条約の調印に参加した各国代表の子孫たちが集まり、単一通貨ユーロの導入(99年1月)に至るまでに結束した欧州連合(EU)の発展を祝ったのである。

     ミュンスター・「環境首都」の試み

  そのミュスターでいま注目されるのが環境である。その取り組みを象徴する言葉として、自転車、エネルギー・パス、エコ・プロフィットがある。以下は、ミュスター市環境保全局長のハイナー・ブルンス氏の説明による。同市は、ドイツのNGOであるドイツ環境支援支援協会(DUH)が選ぶ「ドイツ気候保護首都」に1997年と2006年の2回認定された。2004年には国連環境計画暮らしやすい街コンテストで金賞も得ている。とにかく、省エネルギーを徹底している。ミュスターでは住宅でも古い建物が多く、これをリフォームによって高気密・高断熱化することでエネルギー効率を高めようという政策である。窓を2重、3重ガラスにしたり、外壁の断熱材を10㎝から15cmに、また屋根にも断熱材を入れて熱を逃がさない。

  何しろドイツでは9月ごろから徐々に寒くなり、冬は11月から3月と長い。この間は暖房に頼った生活になる。ドイツ全体では、二酸化炭素の排出量の約3分の1が室内暖房や温水利用に起因とすると言われている。しかもエネルギー料金は確実に値上がりしており、暖房費をいかに安く抑えることができるかということに自然と市民の関心も集まる。さらに、市では住宅改修の補助金を、改修前と比較した建築物の省エネルギー率を高めるほど補助金額が高くなる仕組み(1997年‐2005年)にした。ちなみに省エネ率を30%以上にすると、補助金率15%(上限約350万円)だ。また、毎年、「ハウス・オブ・ザ・イヤー」賞を設け、優れた改築を行なった住宅を表彰している。

  2004年、EUは「建築物における総合エネルギー効率に関する指令」によって、ヨーロッパの建築物の所有者は、エネルギー消費量等を示した「エネルギーパス」を住宅の購買や賃貸契約の際に提示することを義務付けた。エネルギーパスは建築物に関する情報の他に、エネルギー需要のレベルや年間の暖房需要量、最終エネルギー消費量、二酸化炭素の排出量などが明記される。これを受けて、ミュンスターでは、住宅のエネルギー消費量を、自主的なレベルで、住民が知ることができる仕組みを作った。これには意外な効果があった。省エネ率が高ければ高いほど家賃が高く取れることにもなり、ビルのオ-ナーたちがこぞって省エネのために改修投資をし、「雇用の創出にもなった」(ブルンス局長)。

  続いて、ミュンスター単科工科大学を訪れた。この大学は「エコ大学」としての取り組みを行なっている。たとえば、学生たちに「窓を開けたら、暖房を消せ」と注意するステッカーを窓に貼っている。乾電池やプリンターカートリッジを所定の箱に入れて電気店に持っていくと、抽選でプレゼントが当たるお楽しみをつける。トイレで流す水を雨水にし、紙タオルを布タオルに替えた。さらにゴミの分別を徹底するなど生きた環境教育を8000人の学生に施している。そして、環境マネジメントシステム「エコプロフィット」の認証を取得した。エコプロフィットは、「統合的環境技術のためのエコロジープロジェクト」の略称。ミュンスター市の主導によって、地域の企業が、環境専門機関の指導を受け、環境保護と光熱費といった経費の削減を実現することを目的にした環境マネジメントシステムのこと。同市内の企業の10%余りが認証を受けている。

  さらに同市にはドイツで最も先進的といわれる熱電供給プラント(天然ガス使用)や、風力発電は22基、ソーラー発電にも取り組んでいる。こうやって、ミュンスター市では1990年を基準に2005年までに21%の二酸化炭素削減に成功し、2020年までに40%の削減を目指している。

  最後に面白い話を聞いた。ミュンスターは別名「自転車の首都」とも言われている。何しろ人口28万人に対し30万台以上の自転車があり、職場や学校に、買い物にと、老若男女、市長もシスターもパトロール中の警官も、多くの人々が自転車で移動している。ブルンス局長ももちろん愛用の自転車で通勤している。

 ⇒3日(火)夜・金沢の天気   くもり 


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