自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★再燃「ローカル局の炭焼き小屋論」~上

2020年05月15日 | ⇒メディア時評

   10数年前になるが、大学の調査である会社を訪問すると才気あふれる美貌の女性たちがてきぱきと仕事をこなしていた。上司(男性)に 「いずれアヤメかカキツバタ、ですね」と話すと、上司は「この職場は、立てばシャクヤク、座ればボタン、歩く姿はユリの花です」と笑って返してきた。女性を花にたとえる言葉だが、最近あまり使われない。「女性は職場の花ではありません。それはハラスメントです」と突っ込まれそうなので自身も言葉を控えている。そのアヤメが自宅庭に咲き始めたので、玄関に活けてみた=写真=。確かにカキツバタと見分けがつけにくいが、こだわるのは日本人だけかもしれない。英語ではひっくるめてアリス(iris)と称している。

   放送とネットの時配信 ローカル局の生き残りは可能か

    冒頭の会社は金沢の民放局だった。いまでも笑顔が絶えない明るいオフィスだろうか、と気になった。というのも、新型コロナウイルスの災禍でいま民放全体に危機感が増しているからだ。ローカル局の関係者が憂いていた。「最近、キー局が冷たい」と。放送と通信の同時配信をNHKが本格的に4月からスタートさせた。民放キー局も同時配信を新しいビジネスモデルで構築する転換期を迎えている。ネットフリックスといった動画配信事業者との対抗策も念頭に置いている。

   民放キー局それぞれが本格的に同時配信を進めれば、ローカル局を介さずにオールジャパン、そして世界に番組を発信できる。ところが、ローカルの存在基盤となっている「県域」が外れる。県域は放送電波の割当てのことで、放送免許は基本的に県単位で1波、あるいは数県で1波が割り与えられている。1波とは、東京キー局(日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビ、テレビ東京)の系列ローカル局のことだ。キー局の番組がネットを通じてダイレクトに全国や世界で視聴できるようになれば、県域の意味が失せる。こうなると、キー局と系列局という関係性は電波では残るが、ネット上では関係性がなくなる。地方局の関係者が「最近、キー局が冷たい」と嘆いた背景がここにある。

   さらに、民放全体の危機感として、屋台骨のテレビ広告費の減少にある。電通がまとめた「2019年 日本の広告費」によると、通年で6兆9381億円で前年比101.9%と、8年連続のプラス成長だった。中でも、インターネット広告費が初めて2兆円超えてトップの座に躍り出て全体を底上げした。一方、テレビ広告費(1兆8612億円)は対前年比97.3%と減少し、首位の座をネットに明け渡した。テレビ広告費の減少要因は、台風などの自然災害や、消費税増税に伴う出稿控えやアメリカと中国の貿易摩擦の経済的影響などで3年連続の減少となった。ことしはさらにコロナ禍で「官公庁・団体」「金融・保険」などは増加するかもしれないが、「化粧品・トイレタリー」「情報・通信」などは激減するだろう。最近のテレビCMは自社広告や「ACジャパン」が目立つ。

   かつて「ローカル局の炭焼き小屋論」という言葉がテレビ業界であった。2000年12月にNHKと東京キー局などがBSデジタル放送を開始したが、このBSデジタル放送をめぐってローカル局から反対論が沸き上がった。放送衛星を通じて全国津々浦々に東京キー局の電波が流れると、系列のローカル局は田舎で黙々と煙(電波)を出す「炭焼き小屋」のように時代に取り残されてしまう、といった憂慮だった。当時の状況がいま再燃しているのだ。

⇒15日(金)夜・金沢の天気    はれ 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ☆緊急事態は解除、季節は「夏... | トップ | ☆再燃「ローカル局の炭焼き小... »

コメントを投稿

⇒メディア時評」カテゴリの最新記事