自在コラム

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★能登と関わる建築家・坂茂氏に「世界文化賞」 被災家屋の能登瓦の再活用に動く

2024年09月12日 | ⇒ドキュメント回廊

  能登半島地震の被災地での仮設住宅や去年秋の奥能登国際芸術祭2023の「潮騒レストラン」の設計など能登と深く関わってきた建築家の坂茂(ばん・しげる)氏が、世界の優れた芸術家に贈られる「世界文化賞」に選ばれたと報じられていた(10日付・NHKニュースWeb版)。「高松宮殿下記念世界文化賞」は日本美術協会が絵画や音楽、建築など5つの分野で世界的に活躍する優れた芸術家に毎年贈っている。


  建築部門で選ばれた坂氏は、紙でできた素材を使ったシェルターや仮設住宅を世界各地で造り、難民の救済や被災支援に取り組んでいることが高く評価された。記者会見で坂氏は「世界中で手軽に手に入るもので建築物をつうくり、社会の役に立ちたいと思った。地震で人が死ぬのではなく、建築物が崩れて人が亡くなる。だから、われわれには責任があると認識しながら、世界のために活動を続けたい」と受賞の喜びを述べた(10日付・NHKニュースWeb版)。

  坂氏の被災地支援を初めて見たのは、去年5月5日に震度6強の地震に見舞われた珠洲市での公民館だった。避難所用の「間仕切り」に工夫が凝らされていた=写真・上=。間仕切りはプラスティックではなく、ダンボール製の簡単な仕組み。ベッドなどがある個室にはカーテン布が張られているが、プライバシー保護のために透けない。環境と人権に配慮した避難所だった。間仕切りは市に寄付されたものだった。次に坂氏の作品を見たのは同市で開催された「奥能登国際芸術祭2023」(9月23日‐11月12日)だった。日本海を一望する「潮騒レストラン」は、ヒノキの木を圧縮して強度を上げ、鉄筋並みの耐震性と木目を活かして造られ、建物自体が芸術作品として話題を集めた。

  そして3度目が、能登半島地震の被災地支援で設計された木造2階建ての仮設住宅だった=写真・中=。石川県産のスギを使い、木のぬくもりが活かされた内装となっている。珠洲市の見附島近くあり、外装の色合いも周囲の松の木と妙にマッチしていて、まるで別荘地のような雰囲気を醸し出していた。木の板に棒状の木材を差し込んでつなげる「DLT材」を積み上げ、箱形のユニットとなっている。

  次なるプロジェクトも始動している。震災で倒壊した家屋=写真・下=から「能登瓦」を収集して、新築や改築、修繕の希望者に提供するほか、今後整備される災害公営住宅などにも再活用する。坂氏は現在は生産されていない「能登瓦」を耐寒性に優れた黒瓦であり、能登の景観を構成する要素だと高く評価している。家屋が倒壊したとは言え、割れてもいない能登瓦を廃棄物とすることに違和感があるのだろう。建築家の目線で「もったいない」と感じるのかもしれない。

⇒12日(木)午前・金沢の天気   くもり時々はれ

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