自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆田の神にもてなしを演じる「奥能登のあえのこと」

2022年12月05日 | ⇒トピック往来

   能登半島の北部、奥能登で伝承される農耕儀礼「田の神さま」がきょう各農家で営まれた。この行事は2009年のユネスコ無形文化遺産で、「奥能登のあえのこと」として登録されている。「あえ」は「饗」、「こと」は「祭事」の意で饗応する祭事を指す。

   一つの行事なのに、2つの呼び方がある。地元の人はこの行事のことを、「タンカミサン(田の神さま)」と言う。かつて、この地の伝統行事を取材に訪れた民俗学者の柳田国男が一部地域で称されていた「あえのこと」を論文などで紹介し、それが1977年に国の重要無形民俗文化財に、そしてユネスコ無形文化遺産の登録名称になった。もともとこの農耕儀礼には正式な名称というものがなかった。

   能登町の柳田植物公園内にある茅葺の古民家「合鹿庵(ごうろくあん)」では毎年公開で儀礼を行っていて、今回40人余りが見学に訪れていた。新型コロナウイルスの感染拡大もあり、人数に制限を設けたようだ。

   田の神はそれぞれの農家の田んぼに宿る神であり、農家によって田の神さまにまつわる言い伝えが異なる。夫婦二神、あるいは独神の場合もある。共通していることは、目が不自由なこと。働き過ぎで眼精疲労がたたって失明した、あるいは稲穂で目を突いてしまったなど諸説がある。

   目が不自由であるがゆえに、農家の人たちはその障がいに配慮して田の神に接する。座敷に案内する際に段差がある場合は介添えをし、供えた料理を一つ一つ口頭で丁寧に説明する。演じる家の主(あるじ)たちは、どうすれば田の神に満足いただけるもてなしができるかそれぞれに工夫を凝らしながら、独り芝居を演じる。

   「能登はやさしや土までも」と江戸時代の文献にも出てくる言葉がある。この農耕儀礼は健常者のちょっとした気遣いと行動で、障害者と共生する場を創ることができることを教えてくれる。「もてなし(ホスピタリティー)」や「分け隔てのない便益(ユニバーサルサービス)」の原点がここにあるのではないかと考える。

(※写真は能登町「合鹿庵」で執り行われた農耕儀礼「あえのこと」行事。田の神にもてなしを演じる中正道さん)

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