自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆土下座が生む大いなる誤解

2019年06月16日 | ⇒ニュース走査

  アイドルグループ「KAT-TUN」の元メンバー、田口淳之介が大麻所持で逮捕され、今月7日に釈放された。拘留されていた警視庁東京湾岸署から出てくる姿がテレビのニュース番組やワイドショーなどで流れた。黒いスーツにネクタイ姿で正面玄関を出た後、報道陣を前にお詫びの言葉を述べた。「金輪際、大麻などの違法薬物、犯罪に手を染めないことをここに誓います」と。そして、額を地面に付けて土下座した。このシーンをテレビで視聴していて、「誰に向かって土下座しているのだろうか。単なるパフォーマンではないか」などと違和感を持った。

  自分自身は土下座の経験はないが、重大な損害を与えてしまった相手に対する誠心誠意の謝罪、あるいは金銭的な借り入れや猶予を相手に乞い願うというのが、これまでに見聞きした土下座のイメージだ。いずれにしても相手がその場に居ての土下座だ。今回の場合、待ち構えていた報道陣のカメラに向かって、ファンに対して土下座をしたということか。それにしても、ファンに直接的な被害を与えた訳でもないので、冒頭のお詫びの言葉だけで十分だろう。

  今回の土下座について、金沢大学で担当している授業「マスメディアと現代を読み解く」の今月12日の講義で取り上げた。謝罪と土下座のネット動画を学生たちに見てもらい、マスメディアがどのようにこの場面を取り上げているか考察した。テレビ各局はお詫びの言葉から土下座まで映像で伝えている。映像では「田口被告が土下座しました」とリポーターの興奮したような音声も入っていて、一部学生たちから笑いも漏れた。新聞は写真1枚なので、どのような写真を掲載したのか。各紙をチェックすると、土下座の写真そのものを掲載している紙面は多かったが、中には正面を向いてお詫びの言葉を述べる写真を掲載している紙面もあった=写真=。おそらく、土下座写真は読者に違和感を与えると判断したのではないだろうか。

  学生たちの感想も尋ねた。ネット上で作成したアンケートをスマホでQRコードで読み取ってもらい、答えてもらう。設問は簡単だ。「元KAT-TUNの田口淳之介の土下座について、あなたは違和感を感じますか」の問いに「感じる」「感じない」の選択肢だ。58名から回答があり、「感じる」が64%、「感じない」が36%だった。ほぼ3人に2人が違和感があると答えた。学生に直接聞くと「そもそも彼が謝罪することに違和感を感じる」「土下座までする必要性はない」との意見だが、「土下座している映像をメディアに報道させる方がインパクトがあってよい」「誠意が伝わる謝罪が土下座ではないか」と擁護する意見もあった。メディアの謝罪報道を考察するよいタイミングだった。

  田口淳之介は容疑者から被告になった。初公判は来月、7月11日だ。拘留期限は合わせて13日間だった。検察側は20日間の勾留請求をしたが、東京地裁はこれを認めなかった。長期勾留や、いわゆる「人質司法」を避けようとする裁判所側の思惑が働いたようだ。これは邪推だが、ひょっとして今回の土下座は弁護士の入れ知恵ではないか。この流れをうまく掴んで、「本人は真摯に反省しています。土下座までしました。裁判官殿、どうぞよろしくお願いします」と弁護側が裁判に向けてアピールしたのではないか、と。

  田口被告は初犯なのでおそらく執行猶予が付くだろう。こうなると薬物事件で逮捕されても、土下座して反省して謝れば、刑務所に行かなくてよくなるという大いなる誤解が社会に生じないだろうか。

⇒16日(日)夜・金沢の天気    あめ


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