自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆司法取引のモデルケース

2018年11月20日 | ⇒メディア時評

   「Power tends to corrupt, and absolute power corrupts absolutely.(権力は腐敗する。絶対的な権力は絶対に腐敗する)」。イギリスの歴史家、ジョン・アクトン(1834-1902)はケンブリッジ大学で近代史を教え、フランス革命を批判した。「権力の腐臭」を感じ取っていたのだろう。きのう(19日)日産自動車のカルロス・ゴーン会長が金融商品取引法違反の疑いで東京地検特捜部によって逮捕されたニュースを知って、アクトンの格言を思い出した。

    当日午後10時から日産グローバル本社(横浜市)で行われた緊急会見の様子を新聞メディア系のライブ動画配信で見入った。午後10時02分、西川廣人CEOが冒頭で「非常識な時間の会見で申し訳ありません」と謝罪。続けて、「本人(ゴーン容疑者)主導の不正行為が3点あった。1.有価証券報告書へ実際より減額した金額の記載、2.目的を偽って当社の投資資金を支出、3.私的な経費支出。内容を細かくは触れられないが、会社として断じて容認できない」と語気を強めていたことが印象的だった。と同時に、単に不祥事を起こした会社の謝罪会見とは違い、用意周到な会見であると察した。

    その用意周到さは、記者からの質問に対するCEOの返答の中身から感じ取れた。記者からの「私的流用との指摘だが、特別背任ではないか、なぜ金融商品取引法違反なのか」との問いに、CEOは「刑事罰対象の部分は私には判断できない。この件は大きく分けて3つの事案であるが、どれをとっても取締役の義務を大きく逸脱するだけではなく、解任に値するとの意見を専門家、弁護士から意見をいただいている」と述べた。あわせて、今月22日にゴーン容疑者の代表権と会長職を解くことを提案する取締役会を開く予定だと説明した。逮捕のタイミングを予め想定した取締役会であることは推測できる。

     もう一つ。記者の「ゴーン氏の権力がどのように形成され、クーデターのような形で崩壊したのか」との質問。CEOは「クーデターとおっしゃったが、事実として見た場合、不正が内部通報によって見つかり、それを除去するというのがポイントであって、権力集中に対しクーデターが起きたとの理解ではない。そのように説明もしていない」と社内の内紛劇ではないと否定した上で、「より公正なガバナンスに持っていくのが課題」と説明した。

    会見が終了したのは午後11時25分だった。司法取引に関して、CEOは「コメントできない」と会見で述べていたが、否定はしなかった。会見の印象で言えば、以下のプロセスだろう。最初に内部通報による問題の提起、次に弁護士を間に入れての東京地検特捜部との司法取引、その上で逮捕のタイミングを見極めての記者会見。ことし6月に施行された日本の司法取引は、検察官と被疑者(今回の場合、日産自動車)、弁護士の3者の連署で書類を作成することになっていて、会社組織内で発覚した汚職や脱税、談合などの経済犯罪に威力を発揮するとされている。今回の日産での摘発は司法取引のモデルケ-スと言えるかもしれない。

⇒20日(火)夜・金沢の天気   くもり


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