自在コラム

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★メディアのツボ-32-

2006年12月16日 | ⇒メディア時評

 12月14日付の新聞各紙に、「金沢の司法改革タウンミーティングでも『やらせ』」の見出しが躍った。一連の政府主催のタウンミーティングは01年6月からことし9月まで174回開かれ、うち金沢など15会場で国から特定の発言内容の依頼を受けた52人が発言したというもの。これが「やらせ発言」あるいは「世論誘導」に当たると物議をかもしたのである。

     広聴からイベントへの変質

  政府が発表した「タウンミーティング調査委員会最終報告」(今月13日)をもとに金沢でのタウンミーティングの「やらせ」を検証すると、法務省から金沢地検と金沢地方法務局に質問者探しの指示があった。実際、去年6月25日のタウンミーティングでは地検や法務局の職員の友人・親戚3人が発言した。

  それぞれが「(裁判員制度になった場合)アメリカのマイケル・ジャクソン訴訟のように、テレビ報道が加熱すると裁判員が公平に判断できるかどうか心配」、「司法を身近にするため、社会的に関心が高い裁判を国会のようにテレビ中継すべきではないか」「司法過疎とはどういう意味か、石川県にも司法過疎地域があるのか」と質問した。

  質問の内容的にバリエーションがあって面白い。しかし、広辞苑によれば、「やらせ」は事前に打ち合わせて自然な振舞いらしく行わせることなのだから、まさに「やらせ」である。

  そして、最終報告書を丹念に読んでいくと、なぜ15回の「やらせ」のうち6回が法務省がらみなのか理解できる思いがした。04年12月18日(東京)、05年1月15日(香川)、05年4月17日(宇都宮)、05年6月25日(金沢)、05年10月23日(那覇)、06年3月25日(宮崎)の6回のうち、宮崎を除く5回で一致点があった。そのすべてに当時の法務大臣、南野(のおの)知恵子氏(参議員)が出席しているのである。

  南野氏と言えば、04年8月の第2次小泉改造内閣で法務大臣に就任して以来、「なにぶん専門家ではないもので」と述べて失言が取りざたされていた。出身母体は日本看護協会、もともと看護師である。畑違いだった。

  ここからは推測の域を出ない。金沢のタウンミーティングでも、南野大臣が「仕込み」の質問に答えた。その際、回答案が用意されていたという。つまり、法務省の事務方は、南野氏が大臣に就任して以来、「専門家ではない」自信のなさからくる失言に神経をつかってきた。国会の場ならあらかじめ質問が分かるので用意できるが、タウンミーティングとなるとどんな質問が飛び出すか分からない。そこで、「やらせ発言」を苦肉の策として考えた、と想像する。

  法務省の事務方は「森山真弓さんが大臣だったころはこんな苦労はせずに済んだのに」とボヤいているに違いない。確かに森山法務大臣(01年ー03年)在任期間中のタウンミーティングでは「やらせ発言」はなかったのである。

  事務方の苦労は理解できないわけでもないが、タウンミーティングは小泉前総理が所信表明演説(01年5月)で「国民が政策形成に参加する機運を盛り上げいきたい」と述べて、国民の声を聴く集いがスタートした。つまり趣旨は「広聴」なのだ。それが、174回も重ねられ、いつのまにか変質し、質問にうまく答えたかというトークショーのようになってしまった。つまりイベント化したのである。

  その変質の一端を担ったのは、タウンミーティングを政府から高額で請け負った電通と朝日広告社であることはいうまでもない。もともとイベントになりかねない素地があったと言える。

 ※写真はバチカン宮殿「アテネの学堂」(ラファエロ作)

 ⇒16日(土)夜・金沢の天気  くもり


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