自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★カニ食い名人の話

2007年11月13日 | ⇒ドキュメント回廊
 日本海のズワイガニ漁が11月6日に解禁となった。ズワイガニにはご当地の呼び方があって、山陰地方では松葉ガニ、福井県では越前ガニと呼ぶ。石川県では昨年から漁協などが「加能(かのう)ガニ」と呼ぶことにしたらしい。加能とは、加賀と能登という意味である。ことしの初物は9日に食した。皿に盛られたゆでカニには青いタグが付いていて、「輪島港」と刻まれていた。つまり、輪島港で水揚げされたズワイガニという証明になっている。

 昔からカニを食べると寡黙になる、というのが常識だが、この日は様子が違った。同席したのは宮崎、福岡、大阪、奈良、東京、仙台と出身はバラバラ。すると、食べ方が慣れないせいか、「カニは好きだが食べにくい」「身をほじり出すのがチマチマしている」などという話になる。出されたカニには包丁が入っていて、すでに食べやすくしてある。これを「食べにくい」といってはバチが当たるというものだ。つまり、カニの初心者なのだ。

 そこで、席上でこんな話をつい偉そうにしてしまった。「私の友人で丸ごと一匹を5分間で食べる名人がいるんです」と。すると周囲の話がピタリと止んだ。「とにかく、包丁が入っていないので、脚を関節近くで折り、身を吸って出す。その音はパキパキ、ズーズー、その食べる姿はまるでカニとの格闘ですよ」「何とかチャンピオンでカニ食い選手権があったら間違いなく、その人が優勝です」「私はまだその域には達していないが、これまでのタイムでだいたい7分。メスのコウバコガニだったら5分で食べます」と。周囲は「さすが北陸の人はカニに対する思い入れが違うな」と、話だけで満足した様子。「カニと格闘する宇野さんの姿をぜひ見たい」という話にもなったが、さらに丸ごと一匹注文するとなるとさすがに値段が張るので話はたち切れになった。内心、ホッとした。

 その名人は実在する。福井県武生の人。私と同年代で、マスコミ業界にいたころからの友人だ。20代後半にその人とカニを平らげる時間を競争したことがある。その時のタイムが5分だった。福井の人はカニを食べ、さんざん飲んだ後、ソバを食べて仕上げる。カニとそばのことは福井の人にはかなわない、と思ったものだ。

 ついでにその名人の話。先日電話があり、福井から金沢大学の私の職場にやってきた。会社を辞めて、農業をやるという。武生は福井市と近いので出荷がしやすい。ハウス栽培で小松菜やホウレン草などを中心に作るのだという。人生が吹っ切れた感じで、ハツラツとしたいい顔だった。「50過ぎたら自分の人生。会社や家族のためではない。これからの時間、自分の人生を刻もう」と別れた。彼とカニ食い競争をしてから、かれこれ25年ほど経っている。

⇒13日(火)夜・金沢の天気  はれ

 

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