自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★能登半島地震 カーボンニュートラルな生業の再構築

2024年02月01日 | ⇒ドキュメント回廊

          元日を襲った最大震度7の揺れからひと月たった。犠牲者は240人に増え、重軽傷者は1180人、行方不明者が15人いる。地元の1次避難所には8230人、金沢などの場所に移動した避難者を含めれば1万4000人にもなる。全壊や半壊の住宅被害は4万7900棟におよび、道路や水道といったインフラやライフラインが壊滅的な被害を受けた(石川県危機管理監室まとめ・2月1日午後2時現在)。冬の冷え込みもきつく、被災地では過酷な状況が続いている。

   前回ブログの続き。珠洲市に行き、山の中で製炭業を営む大野長一郎氏を訪ねた。茶道用の炭である「菊炭」を生産する県内では唯一の業者でもある。今回の地震で稼働していた3つの炭焼き窯が全壊した=写真・上=。2022年6月19日の震度6弱の揺れで窯の一部がひび割れ、工場の天井が一部壊れた。2023年5月5日の震度6強では窯の一部が崩れた。支援者の力添えを得ながら修復してようやく炭を焼き始め、品質にもメドがたちこれからというときに今回全壊となった。

   大野氏の茶道用の炭=写真・下=はススが出ず、長く燃え、燃え姿がいいと評価が高く、金沢をはじめ全国から茶人が炭窯を見学に訪れている。日本の茶道文化の一端を担えてうれしいと話していただけに、窯の全壊は相当ショックだったようだ。

   窯をじっと見つめる大野氏の口から「でも、やめませんよ」の言葉が出た。1971年に父親が創業した製炭業を2003年に引き継いだ。茶炭に使うクヌギの木は炭焼き工場の近くの山でボランティアを募り植林した。そして、二酸化炭素を増やさない「カーボンニュートラルな生業(なりわい)」を目指すことを決意する。

   ライフサイクルアセスメント(LCA=環境影響評価)の手法を用い、過去6年間の製造、輸送、販売、使用、廃棄、再利用までの各段階における環境負荷を検証した。事業所の帳簿をひっくり返しガソリンなどの購入量を計算。2年かけて二酸化炭素の排出量の収支計算をはじき出した。また、環境ラベリング制度であるカーボンフットプリントを用いたCO²排出・固定量の可視化による、木炭の環境的な付加価値化の可能性などもとことん探った。

   そして得た結論は、生産する木炭を2割以上を不燃焼利用の製品にすれば、排出するCO² 量を相殺できるということが明らかになった。そこで商品生産の方針を決め、生産した炭を床下の吸湿材や、土壌改良材として商品化することにした。この生業のポリシーを自らの人生として実践していくことを決意している。

   炭窯をどのように再構築していくかまだ思案中とのことだった。従来の炭窯ではなく、小規模になるが鉄製の窯もこれからの多品質の生産には欠かせないと具合的なアイデアも語った。「この土地で炭焼きを続ける。この際、窯も見直して持続可能な方法で続けたい」との前向きな言葉に、自身も励まされた思いだった。

⇒1日(木)夜・金沢の天気    くもり

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