自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆能登半島地震 「誰一人取り残さない」文化風土

2024年02月02日 | ⇒ドキュメント回廊

            災害下でも互いに助け合う能登の被災者の心意気を「能登はやさしや土まで」という言葉でこのブログ(1月27日付)で書いた。衆議院・参議院の本会議(1月30日)で岸田総理が施政方針演説の中で能登半島地震の対応について触れていた。「厳しい状況の中でも、なによりも素晴らしいのは、被災者の皆さん、また、支援に携わる皆さんの整然とした行動と『絆の力』です。発災直後の大混乱した状況は、皆さんの忍耐強い協力によって段々と落ち着きを取り戻しています。『能登はやさしや土までも』と言われる、外に優しく、内に強靱な能登の皆さんの底力に深く敬意を表します」

   この「能登はやさしや土まで」には奥深さがある。文献で出てくるのは、元禄9年(1696)に加賀藩の武士、浅加久敬が書いた日記『三日月の日記』。「されば・・・能登はやさしや土までも、とうたうも、これならんとおかし」。浅加は馬に乗って、石動山という山に上った。七曲がりという険しい山道を、能登の馬子(少年)は馬をなだめながら、そして自分も笑顔を絶やさずに一生懸命に上った。武士は馬にムチ打ちながら上るものだが、馬子が馬を励まし、やさしく接する姿に感心し、「能登はやさしや」という杵歌(労働歌)の言葉にたとえて日記に綴った。

   「能登はやさしや」に障がいを持った人たちへの気遣いも感じる。ユネスコ無形文化遺産にも登録されている能登の農耕儀礼『あえのこと』は、目が不自由な田の神様を食でもてなす行事だ=写真=。働き過ぎで眼精疲労がたたって失明した、あるいは稲穂で目を突いてしまったなど云われがある。目が不自由であるがゆえに、農家の人たちはその障がいに配慮して田の神に接する。座敷に案内する際に段差がある場合は介添えをし、供えた料理を一つ一つ口頭で説明する。じつに丁寧なもてなしだ。

   能登出身のパテシエ、辻口博啓氏から聞いた話だ。辻口氏の米粉を使ったスイーツは定評がある。当初、職人仲間から「スイーツは小麦粉でつくるもので、米粉は邪道だよ」と言われたそうだ。それでも米粉のスイーツにこだわったのは、小麦アレルギーのためにスイーツを食べたくても食べれない人が大勢いること気が付いたからだ。高齢者やあごに障害があり、噛むことができない人たちのために、口の中で溶ける「ナノチョコレ-ト」もつくっている。

   能登には「誰一人取り残さない」という心意気がある。まさにSDGsの精神風土ではないだろうか。「能登はやさしや土までも」からそんなことを感じ取る。

⇒2日(金)夜・金沢の天気    くもり

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