自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆能登のグローバルな伝統行事アマメハギ

2021年02月03日 | ⇒トレンド探査

   きのうは節分、きょうは立春。能登では節分の恒例行事としてアマメハギが行われた。これまで取材などで何度か能登町秋吉地区を訪れている。当地では、アマメは囲炉裏(いろり)で長く座っていると、足にできる「火だこ」を指す。節分の夜に、鬼が来て、そのアマメをハギ(剥ぎ)にくるという意味がある。節分は季節を分ける、冬から春になるので、農作業の準備をしなさい、いつまでも囲炉裏で温まっていてはいけないという戒めの習わしでもある。現在では子どもたちに親の言うことを聞きなさいという意味になっている。

   秋吉地区で行われるアマメハギは高校生や小中学生の子どもが主役、つまり仮面をかぶった鬼を演じる。玄関先から居間に上がりこんで、木の包丁で木桶をたたきながら、「なまけ者はおらんか」などと大声を出す。すると、そこにいる園児や幼児が怖がり泣き叫ぶ。その場を収めるために親がアマメハギの鬼にお年玉を渡すという光景が繰り広げられる。ただ、今年は新型コロナウイルスの感染拡大に配慮して、鬼は居間に上がらず、玄関先での訪問となったと昨夜のテレビニュースで伝えていた。

   この伝統行事もこれまで何度か時代の波にさらされてきた。少子高齢化と過疎化で今でも伝承そのものもが危ぶまれているのは言うまでもない。行事を世話している地域の方からこんな話を聞いたことがある。かつて、アマメハギで鬼に扮する小中学生への小遣い渡しが教育委員会で問題となり、行事を自粛するよう要請されたこともあったそうだ。このことがきっかけで行事が途絶えた地区もあったという。

   時代の洗礼にさらされながらも、2018年にアマメハギが秋田・男鹿半島のナマハゲなどともに日本古来の「来訪神 仮面・仮装の神々(Raiho-shin, ritual visits of deities in masks and costumes)」として、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録された。国際評価を得たのだ。と同時に、面白いことに、アマメハギやナマハゲの行事は日本のローカルな行事ではなく、世界中にあるということに気づかされた。

   ヨーロッパの伝統行事「クランプス(Krampus)祭」。クランプスはドイツやオーストリアの一部地域で長年継承されている伝統行事。頭に角が生え、毛むくじゃらの姿は荒々しい山羊と悪魔を組み合わせたとされ、アマメハギの仮面とそっくりだ。12月初め、子どもたちがいる家庭を回って、親の言うことを聞くよい子にはプレゼントを渡し、悪い子にはお仕置きをするのだという。そこで、ドイツ・ミュヘン市の公式ホームページをのぞくと「Krampus Run around the Munich Christmas Market」と特集が組まれていた。現地では有名な行事のようだ。

   「能登は上質なタイムカプセル」と評し、伝統産業や行事を持続可能なカタチで引き継ぐ風土への評価がある(坂本二郎・金沢大学教授)。能登にはユネスコ無形文化遺産だけでなく、FAOの世界農業遺産(GIAHS)という国際評価もある。SDGsに取り組む自治体もある。グローバルな価値観をあえて持ち込むことで未来へのソフトチェンジが拓けていくのではないだろうか。

(※上の写真は能登町のHPより、下の写真はドイツ・ミュンヘン市のHPより)

⇒3日(水)午前・金沢の天気   はれ

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