12月18日開幕した国際生物多様性年クロージングイベントは、参加者による20日の能登オプショナルツアーで終了した。ツアーバスには朝7時半から8ヵ国の駐日大使や環境問題の担当者18人が乗り込んで、七尾湾のカキ養殖場や野鳥公園を見学し、輪島市では輪島塗工房、酒蔵などを見学した。野鳥公園では、双眼鏡をのぞいていた参加者が渡り鳥のタゲリを見つけ、「Pee Weeがいる」と喜んでいた。ネコのような鳴き方するので、ヨーロッパでも親しまれている鳥なのだ。
ところで、今回の国際生物多様性年クロージングイベントがなぜ石川県で開催されたのか、なぜ東京や生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の開催地、名古屋ではなかったのか。これが一番のナゾだと、開催期間中に県内外の参加者から聞かれた。そのナゾを、生物多様性条約事務局長のアフメド・ジョグラ氏と石川県のかかわりを振り返りながら解いてみたい。
実は、3人の仕掛け人がいる。谷本正憲・石川県知事、中村浩二教授(金沢大学)、あん・まくどなるど所長(国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット)である。2008年5月24日、3人の姿はドイツのボンにあった。開催中だった生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)にジョグラフ氏を訪ね、COP10での関連会議の開催をぜひ石川にと要請した。谷本知事は「能登半島にはすばらしいSATOYAMAとSATOUMIがある。一度見に来てほしい」と力説した。さらに、あん所長は通訳という立場だったが、知事以上に身振り手振りで話し、右手薬指からポロリと指輪が抜け落ちるほどだった。3人の熱心な説明に心が動いたのか、ジョグラフ氏から前向きな返答を得ることができた。トップセールスの手ごたえをつかんだのである。
その3日後、27日にはCOP9に訪れた環境省の黒田大三郎審議官(当時)にもCOP10関連会議の誘致を根回し。翌日28日、日本の環境省と国連大学高等研究所が主催するCOP9サイドイベント「日本の里山里海における生物多様性」でスピーチをした谷本知事は「石川の里山里海は世界に誇りうる財産である」と強調し、森林環境税の創設による森林整備、条例の制定、景観の面からの保全など様々な取り組みを展開していくと述べた。同時通訳を介してジョグラフ氏は知事のスピーチに聞き入っていた。ジョグラフ氏の石川県・能登半島の訪問はその4ヵ月後に実現した。
2008年9月13日と14日にジョグラフ氏は名古屋市で開催された第16回アジア太平洋環境会議(エコアジア)に出席した後、15日に石川県入り、16日と17日に能登を視察した。初日は能登町の「春蘭の里」、輪島市の千枚田、珠洲市のビオトープと金沢大学の能登学舎、能登町の旅館「百楽荘」で宿泊し、2日目は「のと海洋ふれあいセンター」、輪島の金蔵地区を訪れた。珠洲の休耕田をビオトープとして再生し、子供たちへの環境教育に活用している加藤秀夫氏から説明を受けたジョグラフ氏は「Good job(よい仕事)」を連発して、持参のカメラでビオトープを撮影した。ジョグラフ氏も子供たちへの環境教育に熱心で、アジアやアフリカの小学校に植樹する「グリーンウェーブ」を提唱している。翌日、輪島市金蔵地区を訪れ、里山に広がる棚田で稲刈りをする人々の姿を見たジョグラフ氏は「日本の里山の精神がここに生きている」と述べた。金蔵の里山に多様な生物が生息しており、自然と共生し生きる人々の姿に感動したのだった。
2009年5月23日、ジョグラフ氏が金沢大学を訪れ、小学生や学生たちと「グリーン・ウェイブの日」を記念して植樹をした。5月22日は国連の「生物多様性の日」と定められ、ジョグラフ氏は東京での催しに参加し、翌日金沢大学を訪れた。中村信一学長のほか谷本知事、あん所長、中村教授、環境省生物多様性地球戦略企画室の徳丸久衛室長(当時)、学生と近隣の小学生50人余りがコナラとクヌギの苗木を植えた。その際のジョグラフ氏は記念スピーチで、「植樹活動は運動というより教育活動と考えており、大学が積極的に関わる意義は大きい」「平和を築くことは自然保護を抜きにしては考えられない」と話した。
2009年6月ごろ、生物多様性条約事務局(モントリオール)は190余りの加盟国に対し、2010年国際生物多様性年に関連するスケジュールを通知している。1月11日・キックオフイベント(ベルリン)、1月21日、22日・キックオフイベント(パリ)、9月・国連総会(ニューヨーク)、10月11日-29日・MOP5とCOP10(名古屋)、12月18日、19日・クロージングイベント(金沢)
国際生物多様性年の2010年。2月6日、金沢市で開催された「にほんの里から世界の里へ」と題したシンポジウム(総合地球環境学研究所、金沢大学など主催)に、ジョグラフ氏からビデオ・メッセージをいただいた。その中で語ったことは哲学的だった。Born and raised in Kanazawa, the great Japanese thinker Daisetsu Teitaro Suzuki said that life ought to be lived as a bird flies through the air, or as a fish swims in the water. Suzuki was encouraging us to live as naturally as possible, which, at a different level, is one of the themes of the International Year of Biodiversity in 2010. (金沢に生まれ育った偉大な思想家・鈴木大拙は、「(禅においては)鳥が空を飛び、魚が水に游(およ)ぐように生活されねばならない」と言っています。鈴木大拙は人々に、「できるだけ自然に生きなさい」と奨めているのですが、それは、見方を変えれば、2010年の国際生物多様性年のテーマの一つでもあります)
こうしたジョグラフ氏と石川県とのかかわりの中から、国際生物多様性年クロージングイベントの石川開催が実現した。12月19日の記念シンポジウムで、ジョグラフ氏は谷本知事に対し、生物多様性年に貢献したとしてアワード(功労賞)を贈呈した。そして、「2008年5月に彼(知事)と始めて会った。里山や里海が生物多様性の保全にどれだけ役立つか熱っぽく語ってくれた。本来、政治家だったらクロージングイベントではなく、キックオフイベントの誘致を望んだろう。しかし、彼はCOP10を機に世界の流れが生物多様性に大きく動き出すことを読んで、今回のクロージングイベントこそが生物多様性の新たな時代へのキックオフだと快く引き受けてくれた。感謝する」と言葉を添えた。
⇒21日(火)朝・金沢の天気 くもり
ところで、今回の国際生物多様性年クロージングイベントがなぜ石川県で開催されたのか、なぜ東京や生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の開催地、名古屋ではなかったのか。これが一番のナゾだと、開催期間中に県内外の参加者から聞かれた。そのナゾを、生物多様性条約事務局長のアフメド・ジョグラ氏と石川県のかかわりを振り返りながら解いてみたい。
実は、3人の仕掛け人がいる。谷本正憲・石川県知事、中村浩二教授(金沢大学)、あん・まくどなるど所長(国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット)である。2008年5月24日、3人の姿はドイツのボンにあった。開催中だった生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)にジョグラフ氏を訪ね、COP10での関連会議の開催をぜひ石川にと要請した。谷本知事は「能登半島にはすばらしいSATOYAMAとSATOUMIがある。一度見に来てほしい」と力説した。さらに、あん所長は通訳という立場だったが、知事以上に身振り手振りで話し、右手薬指からポロリと指輪が抜け落ちるほどだった。3人の熱心な説明に心が動いたのか、ジョグラフ氏から前向きな返答を得ることができた。トップセールスの手ごたえをつかんだのである。
その3日後、27日にはCOP9に訪れた環境省の黒田大三郎審議官(当時)にもCOP10関連会議の誘致を根回し。翌日28日、日本の環境省と国連大学高等研究所が主催するCOP9サイドイベント「日本の里山里海における生物多様性」でスピーチをした谷本知事は「石川の里山里海は世界に誇りうる財産である」と強調し、森林環境税の創設による森林整備、条例の制定、景観の面からの保全など様々な取り組みを展開していくと述べた。同時通訳を介してジョグラフ氏は知事のスピーチに聞き入っていた。ジョグラフ氏の石川県・能登半島の訪問はその4ヵ月後に実現した。
2008年9月13日と14日にジョグラフ氏は名古屋市で開催された第16回アジア太平洋環境会議(エコアジア)に出席した後、15日に石川県入り、16日と17日に能登を視察した。初日は能登町の「春蘭の里」、輪島市の千枚田、珠洲市のビオトープと金沢大学の能登学舎、能登町の旅館「百楽荘」で宿泊し、2日目は「のと海洋ふれあいセンター」、輪島の金蔵地区を訪れた。珠洲の休耕田をビオトープとして再生し、子供たちへの環境教育に活用している加藤秀夫氏から説明を受けたジョグラフ氏は「Good job(よい仕事)」を連発して、持参のカメラでビオトープを撮影した。ジョグラフ氏も子供たちへの環境教育に熱心で、アジアやアフリカの小学校に植樹する「グリーンウェーブ」を提唱している。翌日、輪島市金蔵地区を訪れ、里山に広がる棚田で稲刈りをする人々の姿を見たジョグラフ氏は「日本の里山の精神がここに生きている」と述べた。金蔵の里山に多様な生物が生息しており、自然と共生し生きる人々の姿に感動したのだった。
2009年5月23日、ジョグラフ氏が金沢大学を訪れ、小学生や学生たちと「グリーン・ウェイブの日」を記念して植樹をした。5月22日は国連の「生物多様性の日」と定められ、ジョグラフ氏は東京での催しに参加し、翌日金沢大学を訪れた。中村信一学長のほか谷本知事、あん所長、中村教授、環境省生物多様性地球戦略企画室の徳丸久衛室長(当時)、学生と近隣の小学生50人余りがコナラとクヌギの苗木を植えた。その際のジョグラフ氏は記念スピーチで、「植樹活動は運動というより教育活動と考えており、大学が積極的に関わる意義は大きい」「平和を築くことは自然保護を抜きにしては考えられない」と話した。
2009年6月ごろ、生物多様性条約事務局(モントリオール)は190余りの加盟国に対し、2010年国際生物多様性年に関連するスケジュールを通知している。1月11日・キックオフイベント(ベルリン)、1月21日、22日・キックオフイベント(パリ)、9月・国連総会(ニューヨーク)、10月11日-29日・MOP5とCOP10(名古屋)、12月18日、19日・クロージングイベント(金沢)
国際生物多様性年の2010年。2月6日、金沢市で開催された「にほんの里から世界の里へ」と題したシンポジウム(総合地球環境学研究所、金沢大学など主催)に、ジョグラフ氏からビデオ・メッセージをいただいた。その中で語ったことは哲学的だった。Born and raised in Kanazawa, the great Japanese thinker Daisetsu Teitaro Suzuki said that life ought to be lived as a bird flies through the air, or as a fish swims in the water. Suzuki was encouraging us to live as naturally as possible, which, at a different level, is one of the themes of the International Year of Biodiversity in 2010. (金沢に生まれ育った偉大な思想家・鈴木大拙は、「(禅においては)鳥が空を飛び、魚が水に游(およ)ぐように生活されねばならない」と言っています。鈴木大拙は人々に、「できるだけ自然に生きなさい」と奨めているのですが、それは、見方を変えれば、2010年の国際生物多様性年のテーマの一つでもあります)
こうしたジョグラフ氏と石川県とのかかわりの中から、国際生物多様性年クロージングイベントの石川開催が実現した。12月19日の記念シンポジウムで、ジョグラフ氏は谷本知事に対し、生物多様性年に貢献したとしてアワード(功労賞)を贈呈した。そして、「2008年5月に彼(知事)と始めて会った。里山や里海が生物多様性の保全にどれだけ役立つか熱っぽく語ってくれた。本来、政治家だったらクロージングイベントではなく、キックオフイベントの誘致を望んだろう。しかし、彼はCOP10を機に世界の流れが生物多様性に大きく動き出すことを読んで、今回のクロージングイベントこそが生物多様性の新たな時代へのキックオフだと快く引き受けてくれた。感謝する」と言葉を添えた。
⇒21日(火)朝・金沢の天気 くもり