自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆街のつぶやき

2010年12月02日 | ⇒ニュース走査
 今回も金沢市長選(11月28日)の話だ。選挙の前日、金沢市役所の近くにある商店街の世話役がこんなことをつぶやいていた。「山出さん(現職)の取り巻きに危機感がないね。応援演説で『絶対的な多数で再選をお願いします』と言っていた。あれじゃ、当選確実と言っているようなもので、演説を聴いている人は投票場に行こうという気が削がれるね」。その言葉は的中した。投票率は、現職が5選を果たした前回(2006年)を8・54ポイント上回る35.93%だったが、現職は1万2千票近くも得票を減らし、新人に1364票差で破れた。

 共産以外の各政党の支援を受け、県会議員と市会議員40人ほどが支える山出陣営は当初から「横綱相撲」と言われていた。候補者は79歳、6期目への挑戦だった。今回の選挙は「多選」というより、「高齢」の是非が大きな焦点となった。新人の山野之義氏(48)は「79歳の市長と古い政治を続けるか。48歳の私と一緒に新しい市をつくるか」と訴えていた。私が投票場(小学校)への道を歩いていると、前を歩いていた3人の中高年の女性たちから「コウキコウレイシャ(後期高齢者)やね・・・」という言葉が漏れていた。続く言葉は聞こえなかったが、後期高齢者はよいイメージで使われることはないので想像はついた。

 現職に不利な訃報もあった。金沢市と隣接する白山市の現職市長が急性心臓疾患のため死去した。79歳。金沢市長選のほぼ1ヵ月前の10月24日のこと。女性たちが話していたのはこのことだったかもしれない。

 告示前、「山野不利」との下馬評だった。今回の市長選では市議39人のうち、過半数を超える議員が現職・山出氏を支援し、山野氏についたのはわずか8人の一期目の若手市議だったからだ。ことしの9月議会でこの若手市議グループが市長の任期を原則3期12年とする「市長の在任期間に関する条例案」を提出し、否決された。最終的にこの若手市議グループが山野氏出馬を後押しするカタチとなった。裏を返して言えば、若くて勢いはあるが、強力な支持基盤も動員力もなかった。

 当然、選挙運動は組織動員を頼む個人演説が中心の現職と、街頭演説が中心の新人の対照が際立った。多い1日で40回も街頭に立った新人には、神奈川県の松沢成文知事、前横浜市長の中田宏氏らが相次いで応援に駆けつけ、多選批判を訴えた。また、日本創新党(党首は前東京都杉並区長の山田宏氏)の単独推薦を受けており、山田党首らも最終日に訪れ、歯切れのよい演説をぶった。一方の現職の戦いぶりについて、冒頭の商店街の世話役は「個人演説会のたびに候補者を紹介するビデオを見せられた。われわれのような動員組は4回、5回と見せられ、さすがに嫌になったよ」と。

 厳しい言い方をすれば、35.93%の投票率であり、新人は戦いには勝ったかもしれないが、選挙で勝ったといえるかどうか。一方、6選を目指した現職の敗因は高齢・多選のせいだけだろうか。これまで勝ちパターンだった組織選挙は今では旧態依然として、あるいは制度疲労を起こしているようにも思える。組織への帰属意識より、有権者としての個の意識だ。金沢の選挙のスタイルもようやく普通になった、ということか・・・。

⇒2日(木)夜・能登の天気  はれ
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