自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★むべなるかな

2010年12月05日 | ⇒メディア時評
 ムベという果実をご存知だろうか。先日、その実を初めて食べた。アケビ科なのだが、熟すると裂けるアケビとは違って、ムベは赤くなるが裂けない。筋目を読んで両手で裂くと、半透明の果肉をまとった小さな黒い種子が多数あり、ほのかに香りを漂わせている。これをアケビのように種子ごとほうばるようにして口に入れる。甘い果汁が口の中で広がる。

 ムベは、いただいた能登半島の珠洲市でオンベと呼ばれている。インターネットで方言名を調べていると、グベ(長崎県諫早地方)、フユビ(島根県隠岐郡)などいろいろある。ニホンザルが好んで食べる、とある。「むべ」の語源を示唆するようなページもあった。面白いので、以下、引用して紹介する。

 琵琶湖のほとりに位置する滋賀県近江八幡市の北津田町には古い伝説が残っているそうだ。7世紀のこと。狩りに出かけた天智天皇がこの地で、8人の男子を持つ老夫婦に出会った。「汝ら如何(いか)に斯(か)く長寿ぞ」と尋ねたところ、夫婦はこの地で取れる珍しい果物が無病長寿の果実であり、毎年秋にこれを食するためと答えた。これを賞味した天皇は「むべなるかな」と納得して、「斯くの如き霊果は例年貢進せよ」と命じた、という。そのころから、この果実をムベと呼ぶようになったという。10世紀の「延喜式」には、諸国からの供え物を紹介した「宮内省諸国例貢御贄(れいくみにえ)」に、近江の国からムベがフナ、マスなど、琵琶湖の魚と一緒に朝廷へ献上されていたという記録が残っているそうだ。この地域からのムベの献上は1982年まで続いた。

 「むべなるかな」は、「まったくそのとおり」の意味で使う。大量のアメリカ外交公電を公表し、オバマ政権と世界の外交当局を揺るがせている内部告発サイト「Wikileaks(ウィキリークス)」。外交公電のほとんどは、過去3年間にアメリカ国務省と270の在外公館の間で交わされたもので、大使館員らと駐在国の閣僚や政府高官の会話が中心となっている。では、ウィキリークスで公表された内容は果たして内部告発なのか。4日付の各紙によると、中国の外務次官が2009年4月にアメリカ大使館幹部に「北朝鮮は大人の気を引く『駄々っ子』のような行動をする」「中国も北朝鮮のことが好きではないかもしれない」と語ったとの公電が暴露されたとあった。中国高官が本音を語ったものだが、「むべなるかな」ではないのか。普段ニュースに接していれば、誰だってそう思うだろう。どこに告発性があるのか。

 アメリカ政府の外交公電流出については、イラク駐留当時に秘密文書を閲覧できる立場にあった陸軍上等兵の関与が濃厚になっている。25万点という数には驚くが、ロシアのプーチン首相の評価「プーチン首相がバットマンでメドベーチェフ大統領は相棒のロビン」、イタリアのベルルスコーニ首相の評価「軽率でうぬぼれが強い」、北朝鮮の金正日総書記の評価「体がたるんだ年寄り、精神的、肉体的なトラウマを抱える」などは、どれも「むべなるかな」であり、どこに機密性があるのだろうか。ただ、アメリカの外交公電とは、悪口に満ちた外交官の内緒の話だとうことはよく理解できた。

 内部告発は、ある種の目的を持って発掘するものだろう。歴史の舞台裏で権力者によって隠されていた事実を赤裸々にしてこそ価値がある。内部告発サイトならば、「むべなるかな」ではなく、「げにあるまじきこと」の暴露だ。

⇒5日(日)夜・金沢の天気  はれ
コメント (1)
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