私のオフィスがある金沢大学創立五十周年記念館「角間の里」は昨年4月に完成した。この建物は白山ろくの旧・白峰村の文化財だったものを大学を譲り受けて、この地に再生した。築300年の養蚕農家の建物構造だ。建て坪が110坪 (360平方㍍)もある。黒光りする柱や梁(はり)は歴史や家の風格というものを感じさせてくれる。金沢大学の「里山自然学校」の拠点でもある。
古民家を再生したということで、ここを訪ねてくる人の中には建築家や、古い民家のたたずまいを懐かしがってくる市民が多い。最近は学生もやってくる。その学生のタイプはこれまでの学生と違ってちょっと味がある。「こんな古い家、とても落ちつくんですよ」と言いながら2時間余りもスタッフとおしゃべりをしていた新入の女子学生。お昼になると弁当を持ってやってくる男子学生。「ボクとても盆栽に興味があって山を歩くのが好きなんです」という同じく新入の男子学生。今月初め、いっしょにタケノコ掘りに行かないかと誘うと、「タケノコ掘り、ワーッ楽しい」とはしゃぐ2人組の女子学生がいた。いずれも新入生である。
「学生が来てくれない」と嘆いた去年とは違って、ことしは手ごたえがある。この現象をどう分析するか。同僚の研究員は「総合学習の子らですね」と。総合学習とは、2002年度4月から導入された文部科学省の新学習指導要領の基本に据えられた「ゆとり教育」と「総合的な学習の時間(総合学習)」のこと。子どもたちの「生きる力」を育みたいと、週休2日制の移行にともない、教科書の学習時間を削減し、野外活動や地域住民と連携した学習時間が設定された。その新指導要領の恩恵にあずかった中学生や高校生が大学に入ってくる年代になったのである。
当時、批判のあった画一教育の反動で設けられた総合時間だが、その後、「ゆとり」という言葉が独り歩きし「ゆるみ」と言われ、総合学習も「遊び」と酷評されたこともあった。しかし、私が接した上記の「総合学習の子ら」は実に自然になじんでいるし、「ぜひ炭焼きにも挑戦したい」と汗をかくことをいとわない若者たちである。そして、動植物の名前をよく知っていて、何より人懐っこい。それは新指導要領が目指していた「生きる力」のある若者であるように思える。
もちろん、新入生のすべてがそうであるとは言わない。今後、金沢大学の広大な自然や里山に親しみを感じてくれる若者たちが増えることを期待して、数少ない事例だが紹介した。
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