ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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田月仙「禁じられた歌」 = さまざまな理由で禁止された韓国・朝鮮(+日本)の歌を、思いを込めて紹介した好著

2016-09-30 09:46:17 | 韓国の音楽

 <カリプソの女王>浜村美智子「黄色いシャツ」 (日本語版)のレコードを出していた(1972年)とは知らなかったなー。他にも知らなかったことが一杯。
 一応知っていたことはザ・フォーク・クルセダーズ「イムジン河」のレコードが発売中止になったおおよそのイキサツ(参照→ウィキペディア)及びその歌詞が「豊かな北から川の向こうの荒れ果てた南の故郷を眺めて嘆く」(2番)という内容ということ。(最近「当事者が「本当の舞台裏」を明らかにする」というキャッチコピーの喜多由浩「『イムジン河』物語 “封印された歌”の真実」(アルファベータブックス)が刊行されましたが未読。) 他には日本文化開放以前の韓国で五輪真弓「恋人よ」が人気だったということ。しかし、それ以前にいしだあゆみ「ブルー・ライト・ヨコハマ」が韓国でも不法コピーのカセットテープ等で広まり、韓国人がもっともよく知る日本の歌になったとは知りませんでした。

 この「禁じられた歌」(中公新書ラクレ.2008)という本は、在日コリアン2世のソプラノ歌手・田月仙(チョン・ウォルソン)さんが「いろんな事情」で歌うことやレコードの発売等を禁止された歌について多角的な観点から書いた好著です。

 「多角的な観点」というのは次のようなことです。
 まず「朝鮮半島 音楽百年史」と副題にあるように、1910年(韓国併合)から現代までの1世紀の韓国・朝鮮と日本の間の鳥瞰図的な歴史がおのずと見えてくる記述になっていること。
 また、田月仙さん自身がいろんな人に話を聞いたりして積極的に取材をしていること。公演等で訪れた所でたまたま会った人の話だけでなく、自らの興味・関心に沿って目的の場所や人を訪ねたり、本やレコード等の資料を求めたりもしているのです。
 たとえば「アリラン」にしても、映画「アリラン」(羅雲奎監督.1926)について2005年団成社(初めて上映した映画館)に行って映画研究家のチョン・ジョンファさんから説明を聞いたり、中国・延辺では朝鮮族の人の話を聞くだけでなく、北朝鮮レストランで歌を聴いたり、ロシア・ハバロフスクに招かれた時にはその地のカレイスキー(高麗人=韓国人)からロシア語の「アリラン」を聴いたり、ロサンゼルスのコリアタウンにある韓国人の雑貨店主からも話を聞いたり等々・・・。
 もう1つ、この本ならではの視点というのは、田月仙さん自身の歌手としての歩みが記されているるということ。この点については、小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞した前著の「海峡のアリア」(2006年)の方がまさに自伝なのですが、この「禁じられた歌」でもさまざまな思い出が記されています。中でも<歴史的体験>といえるのは、1985年に平壌の音楽祭に招かれて金日成主席の前で独唱したことや長く収容所生活を強いられていた兄たちと再会したこと、あるいは1998年の韓国・金大中政権の時、日本文化の段階的開放が進められている頃に東京都の親善大使としてソウルで公演をするになった彼女は「赤とんぼ」「浜千鳥」「夜明けのうた」の3曲を歌う予定だったのが「夜明けのうた」だけは(歌曲ではなく)大衆歌謡とみなされて許可が下りず、結局「♪あーあー」という声だけで歌ったこと等々。

 このように多彩な内容が、とても読みやすい文章で書かれていることも私ヌルボが良書という大きな理由で、高校生にもぜひ読んでほしいと思います。(「海峡のアリア」の方が<感動本>ですが、コチラは新書で入手しやすいので・・・。)

 私ヌルボ、これらの「禁じられた歌」を「禁じた」のは誰かということで分類・整理してみました。次の通りです。

[Ⅰ] 日本の統治期
 ・民族の独立・抵抗を内包した歌・・・「鳳仙花」
[Ⅱ] 戦後の韓国
 ・「倭色」歌謡=日本的歌謡は放送禁止に・・・「椿娘(トンベクアガシ)」
 ・日本の歌
 ・北朝鮮の歌、南から北朝鮮に渡った「越北作家」の歌
 ・「運動圏」の歌=軍事政権に反対する民主化運動の側の闘争の歌・・・「朝露(アチミスル)」
 ・「親日派」の作詞家・作曲家・歌手による歌・・・上記の「鳳仙花」「故郷の春」の作曲者・洪蘭坡(ホン・ナンパ)「哀愁の小夜曲」で知られる歌手南仁樹(ナム・インス)
[Ⅲ] 戦後の北朝鮮
 ・体制の<理念>に合わない歌等、多数
[Ⅳ] 戦後の日本
 ・本書では上記の「イムジン河」だけですが、森達也「放送禁止歌」(知恵の森文庫)(←オモシロイ!)には実にいろんな事例が集められています。多くは差別用語やワイセツな表現等による問題を避けたいメディア側の自主規制のようですね。

 これらの政治権力による歌への禁圧や「親日派狩り」等に対して、いうまでもなく田月仙さんは批判的に書いています。彼女が国境を越えて活動を通して国際的な視野を身につけているからということもあるでしょうし、もしかしたら日本で生まれ育った在日だからこその「ふつうの見方」なのかもしれません。

 ところで、この2008年刊行の新書を私ヌルボがなぜ今再読してこのブログ記事を書いたのかというと、実は北朝鮮での2つの「禁じられた歌」について韓国のニュース記事を読んだからです。その2つの歌については(またもや)次回に続くということにします。

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