ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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「慰安所管理人の日記」をめぐる日韓の報道&読者の反応の無視できない大きな落差(下)

2013-09-25 19:14:24 | 韓国・朝鮮と日本の間のいろいろ
 →「慰安所管理人の日記」をめぐる日韓の報道&読者の反応の無視できない大きな落差(上)
 →「慰安所管理人の日記」をめぐる日韓の報道&読者の反応の無視できない大きな落差(中)

 9月5日の記事<「慰安所管理人の日記」をめぐる日韓の報道&読者の反応の無視できない大きな落差(中)>に記したように、韓国では8月20日付でこの日記が「日本軍慰安所管理人日記」との書名で安秉直(アン・ビョンシク)教授の解題つきで刊行されました。(下の画像)

         

 私ヌルボ、「その「読まれ方」については(下)に続くということにします」と書いたものの、20日も間が空いてしまいました。

 この日記発見については、先の記事でも書いたように、日韓両国の新聞等で大きく取り上げられました。
 そして書籍刊行にあたっても<聯合ニュース>が新刊紹介にこの本を取り上げ、また<オーマイニュース>にもこの本の紹介記事がありました。

 しかし、<聯合ニュース>の記事は「朝鮮日報」等の記事をちょっとつまみ食いしたようなもので実際この本を読んだのかさえ疑問な内容です。
 <オーマイニュースの記事>も、第4次慰安団の説明と、「日本軍にる組織的動員と慰安所運営の直接的主導を証明するもの」という本書の「意義」に重点を置いたもので、日記の内容に即した部分はわずかしかありません。

 一方、<ヘラルド経済>の記事は「韓国人らしい先入観」を保留しつつ、日記の内容を具体的に紹介しています。
 シンガポールに移住した後、筆者はタクシー部の事務を担当してから再度シンガポールの菊水クラブで帳場の仕事を再開する。他国で男女が畑仕事をする姿を見て農村生活を懐かしんだり、十五夜の月を見て、いつ故郷の空で月を見ることができるか感傷に浸ったりする一方、行先のわからない人生に対する漠とした不安を表した部分もある。朝鮮植民地支配を正当化するための戦闘映画で知られる「望楼の決死隊」、陸軍将校の未亡人に対する献身を扱った軍人の映画「無法松の一生」などの映画観覧、興南宝くじ8等(50円)に当選した話等の余暇生活もうかがうことができる。
 末端ながらも植民地の知識人グループにあった筆者の歴史意識がうかがわれるくだりは、当時の朝鮮知識人の風景と言っても間違いではないようだ。
 筆者は1943年早々に書いた日記で、「大東亜聖戦2周年の1943年新春を迎え、1億民草はひれ伏し謹んで陛下の万寿無疆であられることと皇室の一層の繁栄されることを奉祝するものである」とし、東に向かって礼をする。また、8月1日ビルマの独立宣言日には「日本 - ビルマ同盟条約を締結し、英米に宣戦布告をした。今後永遠にわが国を盟主としてビルマ国の隆盛することを祝う」と書いた。


 ・・・このように、「現在の」韓国人が、「当時の」朝鮮人の意識や生活を、まずはあるがままに読み取ろうという姿勢はいいことだと思います。(ここから、彼を「民族の裏切り者!」と(現在の韓国人の立場から)非難したり、当時の日本の植民地支配や軍国主義を(現在の日本人の立場から)肯定することは、どちらも「短絡的思考」というものです。)

 さて、この本を読んだ人たちの感想は?
 ・・・と思って<教保文庫><YES21><アラディン>等の大手ネット書店の読者レビューを見てみました。
 ・・・が、アレレ!? ほとんどないのです! (<教保文庫>には全然ナシ。)

 ま、「!」をつけるほど意外なことでもなくて、実は「想定内」だったんですけどね。、
  ①淡々とした内容でおもしろくない。
  ②日本軍のひどい行為が書かれていない。
  ③慰安婦たちの貯金・送金とか、映画鑑賞とか、抱いていた慰安婦のイメージと全然違う。
 ・・・ということが当然予測されましたから。

 一応、その数少ない韓国人読者の感想を見てみます。全3件。これがすべてです。

 まず<YES21>は次の1件だけ。

 ★★★ とても簡単なことだとも言えるが、初めの完全な解題以外は一次資料であるだけで誰かの日記にすぎない。
 日本軍性奴隷にされた女性の思いやりなどを感じる人間の日記ではないので、真剣に状況を想像しながら読むとだんだん気持ちが悪くなる本である。
 必要でないのなら、お金のムダになる可能性が高い本であることを留意しなければならない。


 ・・・この読者は自分の慰安婦像に何ら変更する考えはないみたいです。

 次に<アラディン>

  翻訳者がニューライトの先鋒で、慰安婦を否定した人ですが、どのような意図で翻訳をしたのか分からないですね。本当に、心が不快です。

 ・・・韓国の輿論、学者間の対立、自身の学問的誠実さ等々、安秉直教授にもたしかにいろいろ葛藤はあるかもしれませんね。しかし、安直なレッテル貼りは自分の目を曇らせていまうことになるんだけどな。

 3つ目は同じく<アラディン>より。
 「日本統治期を生きた一般市民の淡々とした記録」と題された長文の感想です。

 ★★★★ この本は、シンガポール、ミャンマー等で「事業」を展開した一朝鮮人の日記を現代語に再構成したものである。 
 著者は創氏改名をして、日本帝国の一市民として生きてきた人だ。
 彼は日本の勝利のニュースに拍手をし、日本の敗北には残念さを感じる「同化された」朝鮮人だ。
 日本に対する反感や、抵抗感はほとんど見られず、ただ時代に順応して生きる人に見える。
彼はビルマで慰安所を経営する。
 慰安所の具体的な風景と日常についての描写はあまり入っていない。
 ただ、今日営業を何時にした、官公署に行ってきた、誰が訪ねてきた程度の単純な記録が大部分だ。
 しかし、その中でも、我々が想像しにくい姿もたまに見られる。
 慰安婦たちに代わって故郷に送金をしてあげたりもし、著者自身も朝鮮にいる家族のために送金をする。
 慰安婦たちの中には仕事をやめて朝鮮に帰る人もいて、帰ったら無事到着したと著者に葉書を送ったりもしている。
 そして、著者は自分の業所で働いていた慰安婦たちと会って別れる時おたがいに涙を流したりもしている。
 虐待や告発の記録を期待した人なら失望するかもしれない。
 反対の立場で日本擁護論を主張する人々も失望するかもしれない。
 極端な両方の立場と想像とは少し違う、ちょっと気が抜けた平凡な日々の記録であるからだ。
 しかし、この淡々と感じられる小市民の記録が、おそらくその時に住んでいた「普通の人」の軌跡であったかもしれないという気がする。
 内容自体は衝撃的な内容もなく、感動的な話もなく、文学的でもない。
 しかし、慰安所を運営していた人の記録だったものが価値として認められると思う。
 一日一日何を食べ、どんな人々に会い、どんなニュースを聞いて、どんな事実に一喜一憂しているかを知ることができるという点で、当時のようすを垣間見ることができるという点は重要であるといえるだろう。
 ただ、歴史や、慰安婦問題に関心がない人なら、(書籍の価格を考慮すると)退屈して、地味に感じられるかも知れない。


 ・・・いやー、私ヌルボ、このborntorun7さんのレビューは大きな共感をもって読みましたねー。
 こういう読者が韓国にもいることを心強く思います。

 ところで、この日記の日本語版はいつ出るのかな?
コメント (22)
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