今回は、伝記・日本語&読書関係の教養書・古典です。
キョーレツな個性の持ち主の伝記が多いと思われるかも・・・。しかし、伝記になるような人物はたいていそういう人ではないかなー。逆に、品行方正で良識をわきまえていて、人と争ったり人に迷惑をかけたりしない人物の伝記なんておもしろくなさそうではないですか。
☆印はとくに推奨。×印は品切れまたは絶版中の本(多すぎる!) △は絶版・品切れでも単行本なら出ている本。
105 | 杉森久英 | 天才と狂人の間 | 河出文庫 | 105~112=伝記。105は今は忘れ去られた島田清次郎という<天才>小説家、106は大正期の婦人運動家で、大震災の直後夫のアナーキスト大杉栄とともに官憲に虐殺された伊藤野枝、107は歌人与謝野晶子の生涯。106と107の、強烈な個性と波瀾に満ちた生き方にはただただ唖然。カワユサばかり求め安定を望む現代ギャルがますますくだらなくみえてくる。女生徒諸君必読。108、純粋でひたむきな光太郎の愛がなぜ智恵子の心をむしばんだのか? 読みやすい本。109は近代日本経済の礎を築いた大人物渋沢栄一の伝記。読む側まで熱くなる。110は著者の母がモデル。本好きの主人公が読んだ本を通して、大正~敗戦の時代と、その中を生きた無名の知的な女性の人生を描く。111は、単なる美術史のわくを越えて、社会との関わりの中で女性のあり方を考える深い問題提起を含む。112は、学校ではあまり<評価>されなかったものの、自分のやりたいことを追求しつづけてミキサー、ナイフ職人、動物写真家、ソムリエ等のエキスパートになった人たちの青春時代。学校がすべてではない。 113=なぜ生命の危険を冒し、つらい思いをしてまで登山家たちは山に挑むのか? 栄光と悲劇は紙一重、という例は多い。 114・115=日本語と日本文化の奥深さを知るために。115はさまざまなことわざ、言葉遊び等とその背景。伝説・民話、そして雑学にも詳しくなれる。古人の知恵とユーモアには敬服。 116・117=教養とは単に物事を知っているだけのことではない。これらを読めばわかるはず。森本さんの本はどれも深い内容をとてもわかりやすい言葉で書いてくれている。 118~128=日本の古典。現代語でも難解な「源氏物語」や、おじみの「枕草子」だけが古典だと思い込むのは不幸というもの。以下の作品はどれも原文でそのまま読めるはず。118はバラエティに富む説話の数々。弟分の「宇治拾遺物語」(角川文庫)もよろしく。119は美文による絵画的描写がいい。120、時を越えて人情といったものが相通じる思いがする。たとえば鬼瓦を見て上京中の武士がなく。「国で待つ妻を思い出した」というわけだ(笑)。121は戦国時代の歌謡集。現代にも通じる感覚。声に出して読んでみて。-「世間(よのなか)は霰(あられ)よなう 笹の葉の上の さらさらさっと降るよなう」。122は「源氏物語」に先立つ作品で、レッキとした貴族文学だが、音楽を素材にした、スケールの大きい、SFの要素もある物語。原文が難しい古典は現代語訳でけっこう。それなら「徒然草」も全部読める。236段の狛犬の話など何度読んでもおかしい。123こそ高校生向きのテキスト。ぬゎんと、原文で読んで意味がすいすいわかる! おまけにおもしろい!! なぜ岩波は復刊しないんだ!? 私は探しに探して大阪の古本屋で大枚千二百円払って買ったんだぞっ! 124はこれこそグロの極致! 芝居よりも映画よりも怖い! 心底怖い!! 125はパロディ精神に溢れた江戸時代の庶民向け読み物である黄表紙の集成。金があり余って困る話の「莫切自根金生木」(きるなのねからかねのなるき=回文!)など本当に笑える。126も、読むとつい笑い声が出てしまう。電車内で読むときには気をつけよう。127は江戸時代人のユーモアと反骨精神に共感。 128=「うれひつゝ岡にのぼれば花いばら」-蕪村の句には現代人の感覚に通じるものがある。「北寿老仙をいたむ」等の詩も心をうつ。蕪村は絵もすばらしい。いつも溜め息が出る。 |
☆ 106 | 瀬戸内晴美 | 美は乱調にあり | 角川文庫 | |
☆ 107 | 田辺聖子 | 千すじの黒髪 | 文春文庫 | |
108 | 駒尺喜美 | 高村光太郎のフェミニズム | 朝日文庫 | |
109 | 城山三郎 | 雄気堂々 | 新潮文庫 | |
110 | 林真理子 | 本を読む女 | 新潮文庫 | |
× 111 | 若桑みどり | 女性画家列伝 | 岩波新書 | |
112 | 立花隆 | 青春漂流 | 講談社文庫 | |
113 | ウィンパー | アルプス登攀記 | 講談社学芸文庫 | |
△ 114 | 池田弥三郎 | 日本故事物語 | 河出文庫 | |
115 | 金田一春彦 | ことばの歳時記 | 新潮文庫 | |
× 116 | 准陰生 | 読書こぼればなし | 岩波新書 | |
117 | 森本哲郎 | ことばへの旅 | 角川文庫 | |
118 | 今昔物語集 | 角川文庫 | ||
119 | 平家物語 | 角川文庫 | ||
△ 120 | 能狂言 | 岩波文庫 | ||
△ 121 | 閑吟集 | 岩波文庫 | ||
△ 122 | [現代語訳]宇津保物語 | 講談社学術文庫 | ||
△ 123 | 井原西鶴 | 西鶴諸国咄 | 岩波文庫 | |
△ 124 | 鶴屋南北 | 東海道四谷怪談 | 岩波文庫 | |
125 | 江戸の戯作絵本 | 教養文庫 | ||
126 | 興津要(編) | 古典落語 | 講談社文庫 | |
127 | なだいなだ | 江戸狂歌 | 岩波同時代ライブラリー | |
128 | 芳賀徹 | 與謝蕪村の小さな世界 | 中公文庫 |
父親の蔵書だった「日本故事物語」を読み耽ったのは高校生の時だったかな? 「いすかのはしの食い違い」「洞ヶ峠」等々の言葉を知ったり、「のどが鳴る早や死にかかる松右衛門(「のどかなる林にかかる松右衛門」のもじり)、「ながきよの とをのねぶりの みなめざめ なみのりぶねの をとのよきかな」(回文)のような言葉遊びのおもしろさに目覚めたりと、とくに印象に残っている本です。そういえば、「閑吟集」にある「むらあやでこもひよこたま」という歌も載っていたなー。(彼氏を待ち焦がれる女性の歌。逆に読む。)
116の「一月一話 読書こぼればなし」の淮陰生が中野好夫であることは後に知りました。
明治時代以降、近代化が進展するにつれて、それまで音読がふつうだった読書が黙読に変わっていったそうです。
ここにあげた古典作品も、「声に出して読みたい」と言われなくても、声に出して読みたくなる本がそろっています。