投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年 9月 6日(火)10時57分58秒
細谷雄一氏(慶大法学部教授)の『安保論争』(ちくま新書、2016)を読んでみましたが、良い本ですね。
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現代の世界で、平和はいかにして実現可能か。日本の安全は、どうすれば確保できるのか―。安保関連法をめぐる激しい論戦にもかかわらず、こうした肝要な問いが掘り下げられることはなかった。これらの難問を適切に考えるには、どのような場合に戦争が起こるかを示す歴史の知見と、二一世紀の安全保障環境をめぐるリアルな認識とが、ともに不可欠である。国際政治・外交史の標準的見地から、あるべき安全保障の姿と、そのために日本がとるべき道筋を大胆かつ冷静に説く、論争の書。
細谷氏は2014年7月16日のブログ記事で、
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考えてみれば、日本の大学では安全保障研究の講義を設置している大学は、きわめて限れています。ハーバード大学のケネディー・スクールや、プリンストン大学のウッドロー・ウィルソン・スクール、あるいはオクスフォードやケンブリッジなどの国際政治専攻のコースであれば、安全保障研究についての数多くの魅力的な講義が用意されていますが、東大にも京大にも、「国際政治学」の講義はありますが、「安全保障研究」の講義はありません。【中略】
安全保障研究は、一定程度の専門的理解が不可欠です。それは経済学や社会保障、税制なども同様かと思います。ところが、安全保障問題は、安全保障研究を一切学んだことのない憲法学者や、ジャーナリストの方も、大きな声を出して自らの見解を語る。そこで、基礎的な理解の共有がされていないことが、意見の不毛な対立の原因になっていると思います。
と書かれていますが、その後も「不毛な対立」が延々と続きましたね。
その渦中における樋口陽一・長谷部恭男・石川健治氏等の東大系の「安全保障研究を一切学んだことのない憲法学者」の華々しい活躍は、東大の学問的水準の低下を象徴しているのかもしれません。
ま、政治に取り込まれなかった若い世代の研究者もそれなりにいるようなので、新しい展開も期待できそうですが。
>筆綾丸さん
>石川健治氏には少し病的なところがあり、
さんざん悪口を言っておきながら、私は石川氏が「少し病的」とまでは思わず、まあ、毎日新聞2016年5月2日夕刊記事に言うように、「憲法学の鬼才」が適当なのかな、と思います。
「クーデター」で立憲主義破壊 憲法学者、石川健治・東大教授に聞く
石川氏は法律雑誌の企画で、労働法とかの憲法学以外の分野の法学者の座談会に招かれることが多いのですが、石川氏の発言をきっかけに議論が面白い方向にどんどん転がって行くことが結構あって、他人に良い刺激を与える点では特別な才能を持った人ですね。
ま、肝心の専門分野では些か空回りの気配がありますが。
>キラーカーンさん
>(後藤田正晴氏の回想によれば、内閣法制局長官も閣議に出席していました)
『「法の番人」内閣法制局の矜持』には、
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──閣議の際にも長官は臨席してメモをとったりするのですか?
阪田 陪席はしますがメモはとりません。閣議にかかる法律案と政令の説明を申し上げていました。
──閣議決定などで議論する場にもいるわけですね。
阪田 はい。基本的に閣議の際はすべて。閣議の陪席者というのは4人しかいなくて、官房副長官が3人、そして法制局長官。ほかに事務方はいないものですから、事務まわりのことも、この4人で手分けしてやります。私は法案等の説明をする役割でしたが、ここはどうなんだというような質問を受けたことはありません。
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というやりとりがありますね。(p58)
閣議の陪席者はずいぶん少ないんですね。
※筆綾丸さんとキラーカーンさんの下記投稿へのレスです。
atheist 2016/09/05(月) 16:38:35(筆綾丸さん)
小太郎さん
http://www.bsfuji.tv/primenews/text/txt150710.html阪田雅裕氏は、『プライムニュース』にも出ていましたね。何を話されたのか、まったく記憶にないのですが。
憲法はバランス感覚が必要な学問のような気がするのですが、石川健治氏には少し病的なところがあり、民進党が間違って政権を奪取したら、最高裁裁判所判事に「左遷」されるかもしれないですね。
キラーカーンさん
ピンさんはクリスチャンのため、大山や中原ほどの実績を残せなかったのではないか、と言われることもありますね。棄教して無神論者になっていたら、とも思いますが、あのキャラで atheist であったら、ちょっと怖いものがありますね。
もうひとつの「内閣法制局」ほか 2016/09/06(火) 00:02:03(キラーカーンさん)
>>外務省国際法局長(旧条約局長)
内閣(行政)において国内法の解釈は内閣法制局が行いますが、
条約の解釈は外務省(国際法局)が行うこととなっています
第四条 外務省は、前条第一項の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。
(略)
五 条約その他の国際約束及び確立された国際法規の解釈及び実施に関すること。
(以下略)
というわけで、国際法も多分に関係する安保法制の解釈の確立(この場合は立法者意思)
では内閣法制局と外務省との調整も必要となります。
また、条約解釈も絡む裁判もありますから、条約解釈の専門家である国際法局長(旧条約局長)
経験者が「役人枠」で最高裁判事になる例が多いのも、ある意味当然です
その意味で、外務省国際法局は「もうひとつの内閣法制局」ともいえます
その点で、外務省国際法局長(条約局長)経験者を内閣法制局長に持ってくるのは
ありえないことではありません。
戦前でも、「外務大臣外交官制」が事実上の慣習として成立していましたが、
(戦前における「本格的政党内閣」の条件に「外務大臣が与党の党員」という条件はありません。例:原内閣)
ただし、例外として(非現役)軍人が外務大臣に就任することは認められていました
(例:宇垣一成・野村吉三郎)この純粋な例外は後藤新平のみです。
これも、「外政」は外交と軍事が二本柱なので、(高位の)軍人であれば、
外相が務まるとみなされていたのだと思います。
現在の内閣の法解釈では、国内法と国際法の二本柱なので
外務省の「条約マフィア」であれば、先の「外務大臣外交官制」ということと相似形を描きます。
>>いわゆるポリティカル・アポインティ
第一次伊藤内閣から現在まで、内閣法制局長官は、閣僚名簿に名を連ねます
その意味では、内閣法制局長官は「閣僚待遇」であり並みの副大臣よりも格上の「政治任命職」です
(後藤田正晴氏の回想によれば、内閣法制局長官も閣議に出席していました)
追伸
民主党政権では、内閣法制局長官ではなく「法令解釈担当大臣」をおいて
法律解釈を「政治主導」で行っていましたが、憲法学者からのそれについての批判は聞こえてきません。
>>ピンさん
十六世名人か米長永世棋聖か忘れましたが
「普通の棋士相手なら95%の手を続ければ勝てるが、
(本調子の)加藤さんの場合は100%の手を続けなければ勝てない」
とコメントしていた記憶がありますので、無神論者にはなれなかったのでしょう。