学問空間

『承久記』『五代帝王物語』『とはずがたり』『増鏡』『太平記』『梅松論』等を素材として中世史と中世文学を研究しています。

「重箱の隅をほじくるような小姑的な態度」(by 田中耕太郎)

2016-09-02 | 天皇生前退位
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年 9月 2日(金)21時53分11秒

>筆綾丸さん
>はたして「エリート官僚のなかのエリート」と言えるかどうか

事務次官コースからはずれた人の中では、という条件付きですかねー。
まあ、私も官僚の世界に特に詳しい訳ではありませんが。

>重箱の隅

この言葉で田中耕太郎の『私の履歴書』に内閣法制局への言及があったことを思い出しました。
田中は終戦後、文部省の学校教育局長になるのですが、そのときに法制局とも交渉があり、「大学教授として知らない一属僚の悲哀」を味わったそうです。(『私の履歴書 文化人15』、日本経済新聞社、1984、p368以下)

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 他方終戦ははからずも私の履歴に重大な変化をもたらした。戦争の中頃、私は法学部内のある人事に関し多数の同僚と意見を異にし、同じ考えの横田喜三郎君と一緒に辞意を表明し、この問題について責任のない全助教授の熱意に動かされて辞職を思いとどまったことがあった。しかし終戦の際、私は大学を去ることになるとは全然予想していなかった。ところが前田多門氏が東久邇宮内閣とそれに続いた幣原内閣の文相になり、新設の学校教育局長のポストに就任を懇請された。私は前田さんの下でなら働き甲斐があると思った。また専門学校局長なら話は別だが、大学、専門、小中学、実業等一切の学校の行政を管理することになるから、これは教育一般に関する自分の抱負を実現するには絶好の機会にちがいない。その上に親友の山崎匡輔君はすでに科学教育局長になって入っており、文教の刷新のために一緒に協力してやろうと勧誘したことや、同じく親友の関口泰君が社会教育局長に内定していたことも私にはアトラクシオンであった。従って私は身内の者がこぞって反対したのにかかわらず、教え子の年輩に相当する地位に積極的な熱意を以て就任することとなった。
【中略】
 学校教育局長七ヵ月は、戦災学校の復旧、工業専門学校の商業専門学校への再転換、指令による教職員の適格審査会の実施、教員組合との交渉、アメリカ教育使節団との共同研究、総司令部との折衝などで目のまわるほど多忙であった。しかしこれらはすべて貴重な体験であった。大学教授として知らない一属僚の悲哀もその一つである。
 旧制度の下において各省の役人たちは、議会や大蔵省、枢密院、法制局の重箱の隅をほじくるような小姑(こじゅうと)的な態度に悩み抜いていた。彼等は尊大にかまえている議員や同僚の鼻息をうかがわされた。私は貴族院の委員会に政府委員として答弁にあたっていた。ある男爵議員と問答をくりかえし、つい座ったまま答えたら、すかさず「お立ちなさい」とどなられた。大学出の法制局部長に電話で用を足そうとしたら、あとで学校局長がやってこないのはけしからんといったそうである。またある日のこと東大の工学部長で友人の某老教授を紹介する目的で主計局に同行した。東大出身の秀才らしい若い一課長は、教授が縷々陳情したのに対し、熱心に傾聴しないばかりか、両脚を組みながら「うん、そんなことをいう者もよくあるがねえ」とふんぞりかえった。
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まあ、内閣法制局だけではなく、議会・大蔵省・枢密院と並べての話ですが、「重箱の隅をほじくるような小姑的な態度」は内閣法制局の伝統のひとつのようですね。

田中耕太郎(1890-1974)

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

壺中の天あるいは重箱の隅 2016/09/02(金) 15:05:55
キラーカーンさん
現内閣に皇室典範改正の意思があるのかどうか、すこし疑問ですね。
まもなく王座戦が始まりますが、挑戦者の糸谷さんは独創的な人なので、どんな将棋になるか、これも楽しみです。

小太郎さん
『憲法主義』を眺めてみました。
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 美濃部達吉を知ってますか?
◆内山 知りません。
 そうか、もともと内山さんは理系でしたっけ。
◆内山 はい、3年生で文転したんです。(43頁)
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◆内山 オランダ語を勉強した後に、また英語を勉強し直したんですよね。
 え?
◆内山 『福翁自伝』読みました。私、慶應大学に進学するので。(65頁)
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◆内山 新しい人権ですね。
 ああ、知っていましたか。
◆内山 小学生のときに勉強しました。プライバシー権と、環境権と、知る権利。(96頁)
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行は詰めましたが、打てば響くような感じですね。講義の後のレポートは驚くほどで、大半の国会議員のレベルを楽々と飛び越えていますね。

各省においては、局長ー審議官ー事務次官ー天下り、と進むのが本命のエリートであって、内閣法制局から誘われるのは法律に精通しているけれども地味な職人肌の官僚で、はたして「エリート官僚のなかのエリート」と言えるかどうか。重箱の隅を楊枝でほじくる所、と各省の主流は軽く考えているではあるまいか。AIで代替可能な役所の筆頭のような気がしますね。いや、法律の文言は曖昧すぎて、AIには馴染まないかもしれません。
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「すごい、超エリート。超すごい人たちなんですね」(by 内山奈月氏)

2016-09-02 | 天皇生前退位
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年 9月 2日(金)09時42分41秒

南野森氏の内閣法制局絶賛シリーズ、第三回(最終回)です。(p173以下)

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◆内山 内閣法制局の人って、どこで選ばれるのですか?

 おもしろい質問ですね。どう思いますか?

◆内山 公務員の人?

 もちろん官僚です。ただ、選抜の方法が普通の官僚とは違います。
 たとえば内山さんが将来、財務省の役人になりたいと思ったら、国家公務員試験を受けて、合格したら財務省に行って「私を採用してください」と面接でアピールして、財務省が「よし、こいつを採ろう」と思えば採用されます。
 けれども、内閣法制局はそういう採用活動をやっていません。各省から評判のいい人を採るのです。財務省、法務省、総務省といった役所で何年もキャリアを積んできた人のなかで、「あの人はすごく法律に詳しい」といった評判が立つ人を呼んで、何度か面接をする。そのうえで適任だと判断したら、「何年間か内閣法制局に来てよ」と採用するのです。

◆内山 すごい、超エリート。超すごい人たちなんですね。

 エリート官僚のなかのエリートです。あとは裁判官も入っています。検察官からも選ばれますね。審査や調査をする人は全部で30人くらいですが、この人たちがすべての内閣提出法案を審査しているわけです。
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この後、

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Natsuki's Note

・内閣提出法案(閣議決定)←内閣法制局の審査
・議員提出法案      ←法制局の審査なくてもいい
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という簡潔な纏めがあって、「議員立法は危ない?」という話につながりますが、省略します。
さて、私も内閣法制局に関する本や論文を少し読んでみましたが、この採用システムは確かに独特で、他にはあまり例がないようですね。
採用枠が少ないだけに、実際には官庁別の強力な縄張りがあって、全ての中央官庁出身者が採用される訳ではなく、また長官への出世の登竜門たる総務主幹になれる人は更に限定された有力官庁出身者に限られる、といった話もありますが、これも省略します。
興味を持った人は、例えば西川伸一氏(明治大学教授)の『知られざる官庁 内閣法制局』(五月書房)などを見ていただきたいと思います。
また、内閣法制局の業務の実際について、ネットでは仲野武志氏(京都大学教授)の「内閣法制局の印象と公法学の課題」(『北大法学論集』61巻6号(2011)が参考になります。

「内閣法制局の印象と公法学の課題」
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/45119/1/HLR61-6_006.pdf
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「日本という国を殺そうとしているのが安倍政権」(by 長谷部恭男氏)

2016-09-02 | 天皇生前退位

投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年 9月 2日(金)08時52分1秒

『安保法制から考える憲法と立憲主義・民主主義』は三部構成で、最初に木村草太・杉田敦(法政大学教授、政治理論)・柿崎明二氏(共同通信論説委員)の鼎談、次に長谷部恭男・青井未帆・豊秀一氏(朝日新聞編集委員)の鼎談、最後に長谷部氏の単独論文「安保関連法制を改めて論ずる」が載っているのですが、この論文に次のような記述があります。(p98)

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【前略】憲法の基本原理が変更されたときも、国家は死ぬ。別の新たな約束ごとがそこに立ち現れる。そして今、日本の憲法の基本原理、つまり立憲主義に対して攻撃を加え、日本という国を殺そうとしているのが安倍政権である。石川健治教授が、7・1閣議決定以降の一連の政府の動きを指して「クーデター」と形容しているのは誇張ではない。日本という国家体制の最悪の敵は安倍政権である。
【中略】
 従前と同様、日本自身の防衛のためにのみ武力を行使する、それで日本はより安全になるという政府の主張は、到底額面通りに受け取ることはできない。アメリカの戦争の下請けとして、世界中で武力を行使し、後方支援するための法制であることは、明らかである。
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うーむ。
昨年、清宮四郎のストーカーである石川健治氏のストーカーみたいになって石川氏の「7月クーデター説」の論理を辿ってみた私は、憲法学界では誰も石川説を支持していないのかな、と感じていたのですが、長谷部氏は強力に支持していたんですね。
ちょっとびっくりです。
また、「日本という国を殺そうとしているのが安倍政権」「日本という国家体制の最悪の敵は安倍政権」という言葉の強い調子にも驚きましたが、長谷部氏は政治運動に関わりすぎて、ちょっと精神の平衡を失いつつあるのでは、と懸念します。
ま、「安倍は人間じゃない。たたき斬ってやる」の法政大学教授よりはマシでしょうが。

今年のプチ反省
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/0ed9e9e87f909bda705b05a4e7fab4e6

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