投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年 9月19日(月)08時40分49秒
自衛隊を違憲と考える憲法学者の代表格である水島朝穂氏について、前回投稿では少し悪意のある紹介をしてしまいましたが、参考のため、水島氏自身の文章も引用しておきます。(『憲法「私」論 - みんなで考える前にひとりひとりが考えよう』、小学館、2006、p131以下)
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私の研究室から
この章では、自衛隊の話をしましょう。自衛隊を考える「現場」はというと、私の研究室です。
私の研究室にいらした方は、最初は誰でもびっくりします。弾丸が貫通した旧ドイツ軍ヘルメット、砲弾の薬莢、地雷、手榴弾などがごろごろしています。軍事グッズの秘密の展示室にまぎれこんでしまったのではないか、と錯覚されるかもしれません。もちろん、私は、驚かすつもりでこんな物騒なものを集めているのではありません。
私の専門は憲法と軍事法制の研究ですから、平和や戦争のことを考えるためには、軍事の実態をしっかり踏まえ、事実にもとづいた具体的な議論をしたいと考えるからです。特に湾岸戦争以降、メディアを通じて戦争がゲーム感覚で伝えられる傾きがあります。でも、戦争の現実は同じです。ピンポイント爆撃の下では、生きた人間が肉片になったり、黒こげになっているわけで、アフガンやイラクでも、戦争被害の実情は一部しか報道されていません。国際的な紛争を武力によって解決しようとすることによってもたらされる人類の悲劇を、一日も早く止めなければなりません。
軍隊は国家を守るための道具です。そこにいる人を守るためのものではありません。それによって犠牲になるのは、いつも国民、市民、「個人」なのです。その身近な例が、第二次世界大戦のヒロシマ、ナガサキ、オキナワです。このことを忘れるべきではありません。
日本国憲法は、紛争の解決を「軍事的合理性」によってではなく、「平和的合理性」によって実現することを世界に先がけて宣言した憲法であると考えています。私は、この平和憲法こそが日本と世界の未来を生きる確かな手段なのだということを、研究室から発信したいのです。
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ということで、p130の「◆写真特集◆ 水島研究室と歴史グッズ」には、
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歴史グッズに囲まれて
武器などの歴史グッズは、平和を考える実物教材である。花を活けてあるのがサラエボで使われた機関砲弾の薬莢。リカちゃん人形は沖縄サミットの際にゲストや取材陣に配られた非売品。この章の写真のものは、すべて研究室に保管しているもの。
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といった解説付きで、<銃弾の貫通したドイツ軍のヘルメット…ボンで入手したもの。戦争の恐ろしさを実感させられる。>や<イラク戦争をめぐるトランプ…フセイン大統領(当時)らイラクの重要人物を「お尋ね者」にしたトランプと、ブッシュらを「お尋ね者」にしたトランプ。>、<ブッシュとビンラディンの人形…右下のヒトラーの人形は、第2次世界大戦中にイギリスでつくられたもの。>といった充実したコレクションが紹介されています。
ま、大変結構な研究環境だなとは思いますが、このような大量のグッズを集めなくても、戦争をリアルに把握できる書籍や映像は充分存在していて、その多くは必ずしも「戦争がゲーム感覚で伝えられる傾き」を伴っている訳でもないように思います。
例えば、「イラク戦争を主導したジョージ・W・ブッシュ政権の国防長官であり、存命するアメリカの政治家の中でも最も不評の人物の一人」(村田晃嗣氏)であるドナルド・ラムズフェルドの回想録は、実際に読んでみると、意外なことに「戦争がゲーム感覚で伝えられる傾き」とは縁のない冷静な記録ですね。
「平和や戦争のことを考えるためには、軍事の実態をしっかり踏まえ、事実にもとづいた具体的な議論をしたいと考える」人にとっては、水島研究室のグッズを見るより、ラムズフェルドの回想録を読む方が役に立つかもしれません。
日経ブックレビュー
真珠湾からバグダッドへ ドナルド・ラムズフェルド著 米国政治の展開たどる回顧録
2012/5/15付 同志社大学教授 村田晃嗣
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO41348350S2A510C1MZC001/
48歳の若さで同志社大学学長となった村田晃嗣氏も、集団的自衛権に肯定的な立場を取ったために「存命する日本の大学学長の中でも最も不評の人物の一人」となり、学長に再選されないという憂き目に遭いましたが、そうした立場の人だけがラムズフェルド回想録を評価している訳ではなく、ちょっと検索してみても大変参考になったとする書評は多く、アマゾンあたりでもけっこう星の数が多いですね。
自衛隊を違憲と考える憲法学者の代表格である水島朝穂氏について、前回投稿では少し悪意のある紹介をしてしまいましたが、参考のため、水島氏自身の文章も引用しておきます。(『憲法「私」論 - みんなで考える前にひとりひとりが考えよう』、小学館、2006、p131以下)
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私の研究室から
この章では、自衛隊の話をしましょう。自衛隊を考える「現場」はというと、私の研究室です。
私の研究室にいらした方は、最初は誰でもびっくりします。弾丸が貫通した旧ドイツ軍ヘルメット、砲弾の薬莢、地雷、手榴弾などがごろごろしています。軍事グッズの秘密の展示室にまぎれこんでしまったのではないか、と錯覚されるかもしれません。もちろん、私は、驚かすつもりでこんな物騒なものを集めているのではありません。
私の専門は憲法と軍事法制の研究ですから、平和や戦争のことを考えるためには、軍事の実態をしっかり踏まえ、事実にもとづいた具体的な議論をしたいと考えるからです。特に湾岸戦争以降、メディアを通じて戦争がゲーム感覚で伝えられる傾きがあります。でも、戦争の現実は同じです。ピンポイント爆撃の下では、生きた人間が肉片になったり、黒こげになっているわけで、アフガンやイラクでも、戦争被害の実情は一部しか報道されていません。国際的な紛争を武力によって解決しようとすることによってもたらされる人類の悲劇を、一日も早く止めなければなりません。
軍隊は国家を守るための道具です。そこにいる人を守るためのものではありません。それによって犠牲になるのは、いつも国民、市民、「個人」なのです。その身近な例が、第二次世界大戦のヒロシマ、ナガサキ、オキナワです。このことを忘れるべきではありません。
日本国憲法は、紛争の解決を「軍事的合理性」によってではなく、「平和的合理性」によって実現することを世界に先がけて宣言した憲法であると考えています。私は、この平和憲法こそが日本と世界の未来を生きる確かな手段なのだということを、研究室から発信したいのです。
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ということで、p130の「◆写真特集◆ 水島研究室と歴史グッズ」には、
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歴史グッズに囲まれて
武器などの歴史グッズは、平和を考える実物教材である。花を活けてあるのがサラエボで使われた機関砲弾の薬莢。リカちゃん人形は沖縄サミットの際にゲストや取材陣に配られた非売品。この章の写真のものは、すべて研究室に保管しているもの。
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といった解説付きで、<銃弾の貫通したドイツ軍のヘルメット…ボンで入手したもの。戦争の恐ろしさを実感させられる。>や<イラク戦争をめぐるトランプ…フセイン大統領(当時)らイラクの重要人物を「お尋ね者」にしたトランプと、ブッシュらを「お尋ね者」にしたトランプ。>、<ブッシュとビンラディンの人形…右下のヒトラーの人形は、第2次世界大戦中にイギリスでつくられたもの。>といった充実したコレクションが紹介されています。
ま、大変結構な研究環境だなとは思いますが、このような大量のグッズを集めなくても、戦争をリアルに把握できる書籍や映像は充分存在していて、その多くは必ずしも「戦争がゲーム感覚で伝えられる傾き」を伴っている訳でもないように思います。
例えば、「イラク戦争を主導したジョージ・W・ブッシュ政権の国防長官であり、存命するアメリカの政治家の中でも最も不評の人物の一人」(村田晃嗣氏)であるドナルド・ラムズフェルドの回想録は、実際に読んでみると、意外なことに「戦争がゲーム感覚で伝えられる傾き」とは縁のない冷静な記録ですね。
「平和や戦争のことを考えるためには、軍事の実態をしっかり踏まえ、事実にもとづいた具体的な議論をしたいと考える」人にとっては、水島研究室のグッズを見るより、ラムズフェルドの回想録を読む方が役に立つかもしれません。
日経ブックレビュー
真珠湾からバグダッドへ ドナルド・ラムズフェルド著 米国政治の展開たどる回顧録
2012/5/15付 同志社大学教授 村田晃嗣
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO41348350S2A510C1MZC001/
48歳の若さで同志社大学学長となった村田晃嗣氏も、集団的自衛権に肯定的な立場を取ったために「存命する日本の大学学長の中でも最も不評の人物の一人」となり、学長に再選されないという憂き目に遭いましたが、そうした立場の人だけがラムズフェルド回想録を評価している訳ではなく、ちょっと検索してみても大変参考になったとする書評は多く、アマゾンあたりでもけっこう星の数が多いですね。