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「田中耕太郎補足意見は、ことの本質を衝いている」(by 山元一氏)

2016-09-27 | 天皇生前退位
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年 9月27日(火)23時40分30秒

山元一氏の「九条論を開く─<平和主義と立憲主義の交錯>をめぐる一考察」が入っている『シリーズ日本の安全保障3 立憲的ダイナミズム』(岩波書店、2014)は、去年、石川健治氏の論文を集めていたときにも手に取っていたのですが、石川氏の「軍隊と憲法」という論文がそれほど面白くなく、かつ水島朝穂氏の責任編集というのも個人的にあまり好みではないので、他の論文はチェックしていませんでした。
しかし、山元論文を実際に読んでみると実に素晴らしい論文で、特に何が良いかというと、田中耕太郎への好意的コメントがある点ですね。
この論文全体の構成は、

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はじめに

1 国際社会の立憲主義化と日本の平和主義
 <国際法適合的憲法解釈>の要求
 国際的立憲主義の現況
 国際立憲主義体制の中の自衛権
 モラル・アポリアと憲法九条

2 立憲主義と日本国憲法の平和主義
 「集団的自衛権・憲法解釈容認化」論への対抗言説としての立憲主義
 <憲法における平和主義の手続主義化>
 内閣法制局による九条解釈の規範的意義
 「にせ解釈」批判
 内閣法制局批判
 「現代日本型立憲主義観念」の成立
 憲法理論史的検討
 「原理」と「ルール」の区別論
 動態的憲法理解
<立憲主義適合的憲法変遷論>?
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となっているのですが、田中耕太郎への言及は1の「国際立憲主義体制の中の自衛権」の中に登場します。

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国際立憲主義体制の中の自衛権

 第二次世界大戦後の国際立憲主義体制の中における自衛権をめぐる日本での議論においては、従来の内閣法制局の憲法解釈が憲法上発動の許容される個別的自衛権と許容されない集団的自衛権という二つの自衛権を峻別してきたために、日本の議論の一般的水準も、そのような思考の強い刻印を受けている。【中略】そしてまた、日本憲法学では、諸外国の憲法にはない日本国憲法の特徴として、「戦争の放棄」を行ったということから、他国とは異なって積極的な意味で「戦争」を否定した特殊な国であるとの認識も強い。
 以上のような考え方は、国際法学の基本的思考と著しく異なっている。まず、古典的国際法の規範的枠組においては戦争に訴える行為は無差別的に許容されていたのであるから、自衛権を援用しなければ武力の行使を正当化できないという事情は存在しなかった。【中略】現在通用している自衛権が初めて登場した戦後の国際立憲主義体制においては、日本国憲法九条を待つまでもなく、すでに「戦争」そのものが法的正統性を完全に剥奪されており、de jure において(法的観点から見るならば)、現在の世界でいかなる国家も適法な仕方で「戦争」をすることはできない(日本国憲法の特殊性は、九条二項の非武装規定の方にある)。未だ創設されていない憲章七章の想定する国連軍を別として、許されるのは自衛権の行使としての暫定的な軍事的対抗措置(国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間。憲章五一条)かあるいは国際公益的観点に基いてなされる一定の措置に限定されるのである。
 次に問題となるのは、国際立憲主義体制の下での集団的自衛権の位置づけとその実際的適用である。
 まず、その位置づけについては、極めてネガティヴな描き出され方がなされるのが通例である(例えば、樋口一九九八:四三九)。このような考え方は、その発想の基本として、国際立憲主義体制の下での防衛そのものの観念を、自国防衛と他国防衛の二項対立図式として受け止めることから出発している。しかしながら、そもそも自国以外の国の防衛を自国に無縁な他者防衛として観念するのは、国際立憲主義体制の基本思想に背馳する。潜在的な敵国となりうる国に対しても集団的安全保障体制の枠組への加入を促し、仮にそのような国が他国に対して武力行使に及んだ場合には、武力行使された国を助けるために他の国々が力を合わせて対抗措置を取るのであるから、論理上純粋な自衛も他衛も存在しない。
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段落の途中ですが、ここで切ります。
田中耕太郎の名前がどこにも出てこないではないか、と言われそうですが、この最後の部分、「論理上純粋な自衛も他衛も存在しない」に注(14)とあり、注(14)を見ると

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(14)この意味で、あの砂川事件最高裁判決(一九五九年一二月一六日刑集一三巻一三号三二二五頁)田中耕太郎補足意見は、ことの本質を衝いている。
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とあります。
たったこれだけなのですが、憲法学者が砂川事件の田中耕太郎補足意見を好意的に評価することは稀、というか他に見た覚えがなく、田中耕太郎ファンの私にとってはこれだけでも感涙ものです。

>筆綾丸さん
>「とりかへばや物語」に触発された映画だそうで

宣伝に乗せられて観てしまいましたが、最初の十五分で後悔しました。
止めた方が良いと思います。

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

君の名は。 2016/09/27(火) 23:23:12
http://www.bbc.com/news/world-asia-37469662
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A8%E3%82%8A%E3%81%8B%E3%81%B8%E3%81%B0%E3%82%84%E7%89%A9%E8%AA%9E
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Director Makoto Shinkai is said to have been inspired by a classic Japanese 12th Century tale, Torikaebaya Monogatari, which features a sibling duo, where a boy is raised as a girl and the girl raised as a boy because of their personality.
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「とりかへばや物語」に触発された映画だそうで、観たいのですが、いい歳して恥ずかしく、躊躇する今日この頃です。

http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0826-a/
君の名は、護憲派の泰斗と改憲派の重鎮。

http://live.shogi.or.jp/oui/kifu/57/oui201609260101.html
木村八段にとって、おそらくタイトル獲得の最後のチャンスでしたが、羽生王位の前に夢は潰えました。ご愁傷さま。
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『外交激変 元外務省事務次官柳井俊二』

2016-09-27 | 天皇生前退位
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年 9月27日(火)22時36分38秒

「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の座長を務めた柳井俊二氏(1937生。国際海洋法裁判所長、元外務省条約局長・総合外交政策局長・事務次官・駐米大使)に五百旗頭 真・伊藤元重・薬師寺克行氏がインタビューした『外交激変 元外務省事務次官柳井俊二』(朝日新聞出版、2007)を読んでみましたが、非常に面白かったですね。

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90年代初め、湾岸戦争の勃発は戦後日本外交史を大きく塗りかえた。紛糾する国会、沸騰する世論。柳井俊二氏は外務省の中枢にあって、日本のPKO参加への陣頭指揮に立つ。冷戦体制崩壊後の日本の国際貢献はどうあるべきか。北朝鮮の核危機、9・11テロ、日本の国連安保理常任理事国入り問題など次々にわき起こる難問に官邸は、外交官はどう対処したか。日本外交の真実が存分に語られる。


水島朝穂氏のような共産党系の憲法学者だけでなく、長谷部恭男・石川健治氏らの「リベラル」な憲法学者たちも、外務官僚は湾岸戦争のトラウマから抜け出せていない、みたいなことを言いますが、正直、私はちょっと莫迦っぽいと感じていました。
いつまでも過去の出来事にグズグズ拘っているのは憲法学者たちであって、さすがに外交官はそこまでアホではないだろう、と思っていたのですが、『外交激変』を読んで自分の正しさを確認しました。
柳井氏は実にサバサバした性格であって、読んでいて気持ちが良いですね。
外交官モノは面白いなと思って、ついでに松永信雄氏(1923-2011)の『ある外交官の回想─日本外交の五十年を語る』(日本経済新聞社、2002年)も読んでみましたが、こちらはそれなりに興味深い話はあるものの、少し綺麗に纏めすぎていて、ちょっと物足りませんでした。
ま、「私の履歴書」としては完璧な本ですね。

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終戦直後の入省以来、日米安保条約、日韓基本条約、日中航空協定など一貫して世界各国との条約締結に携わってきた外交官松永信雄。外務事務次官、駐米大使、政府代表まで50年に及ぶ日本外交史の貴重な証言。


>筆綾丸さん
>国家を再評価せよ

トッドの新刊を早く読みたいのですが、つい最近、近所のそれなりに便利な書店が閉店してしまって、まだ入手すらできていない状況です。

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

電波望遠鏡 2016/09/26(月) 18:27:20
キラーカーンさん
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%89
マルチチュード(Multitude)がどのような概念なのか、知らないのですが、トッドは以下のように述べて、国家を再評価せよ、と言っています。
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 私は、家族構造の専門家であって、国家の専門家ではありませんが、私の見方からすれば、今日の世界の危機も「国家の問題」として捉えなければなりません。
 サッチャー、レーガンのネオリベラリズム革命以来、国家の役割を減らし、小さくするという傾向が数十年間続いてきましたが、いま世界で真の脅威になっているのは、「国家の過剰」ではなく、むしろ「国家の崩壊」です。中東の危機も、国家崩壊による危機と見なければなりません。アラブの内婚制共同体家族社会はもともと国家形成の伝統を欠き、国家形成の力が弱いのです。EUの失敗も、ヨーロッパ国家形成の失敗と捉えられます。ウクライナ問題も、あの広大な地域に国家形成の伝統がなかったことに原因があります。
 いま喫緊に必要なのは、ネオリベラリズムに対抗する思考です。要するに、国家の再評価です。国家が果たすべき役割を一つずつリストアップすることです。
 ネオリベラリズムは、それ自体として反国家の思想であるだけでなく、国家についての思考を著しく衰退させました。それだけに今必要なのは、思想革命と言えるような思考の転換です。国家のあるべき姿をもう一度考え直し、一定の状況のなかで国家の役割を再評価し、国家と個人の自由との関係をよく理解しようと努めなければなりません。(前掲書135頁~)
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http://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/news/20160926_03/
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The media say the telescope will play a major role in the search for the origins of the universe.
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とありますが、中国人にもこういう意思があるのか、と驚きました。

http://www.bbc.com/news/science-environment-37453933
略称はFAST(Five Hundred Metre Aperture Spherical Telescope)とのことですが、正式名称は「神遠」或いは「神速」でしょうか。
コメント
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