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ジル・ケペル『中東戦記 ポスト9.11時代への政治的ガイド』

2015-02-18 | 栗田禎子と日本中東学会
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2015年 2月18日(水)21時00分57秒

栗田禎子氏の論文を集めようと思ったら、近著の『中東革命のゆくえ─現代史のなかの中東・世界・日本』(大月書店、2014年10月)に纏められていたので通読してみましたが、正直、あまり感心しませんでした。
政治的な立場がガッチリ決まった人が、その人の目に世界の諸々の事象がどのように映るかを書いているだけなので、素材は違っても味付けが全部同じ料理を食べさせられているような感じですね。
栗田氏は『歴史学研究』の編集長をされていたそうですが、学者というよりは活動家タイプで、必ずしも歴史学研究会の知性を代表している訳ではないようですね。

『中東革命のゆくえ』

>筆綾丸さん
>鈴木恵美氏
栗田禎子氏に比べると筋の良い雑誌への寄稿が多いみたいですね。

私の方は少し前に筆綾丸さんが紹介されていた池内恵氏の『イスラーム国の衝撃』(文春新書、2015)を読んで、この人は秀才だなと思って著書をいくつか集めてみました。
出世作という評判の『現代アラブの社会思想―終末論とイスラーム主義』(講談社現代新書、2002)は後半の終末論云々の部分がくどくて全部は読めませんでしたが、池内氏が翻訳して詳細な補注を加えたジル・ケペル『中東戦記 ポスト9.11時代への政治的ガイド』(講談社選書メチエ、2011)は非常に面白いですね。

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9・11の直前と直後に、フランスの政治社会学者・イスラーム政治研究者ジル・ケペルはパレスチナ・イスラエルからエジプト、レバノン、シリアなど、中東の現地に頻繁に足を伸ばし、現地の反応や状況を微細に読み解いていく。
グローバル化の波の中で米国への憧れと敵意に揺れる若者たちを微細に描き、湾岸の繁栄の裏に潜む危機、ムスリム世界内部の分裂と闘争という最大の問題に言及していた本書は、9・11以後の10年とさらにその先を、鋭敏に見通していた。


あまり入門書的なものばかり眺めていても仕方ないので、次はジル・ケペルの『ジハード イスラム主義の発展と衰退』でも読もうかと思っています。
ケペルはあまりフランス人らしくない名前ですが、池内氏の解説によれば祖父がチェコの外交官としてフランスに来て、父親はカレル・チャペックの戯曲などをフランス語に翻訳した人だそうですね。

Gilles Kepel

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

現代のファラオのためのアンコール・ワット 2015/02/17(火) 12:35:13
小太郎さん
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2013/10/102236.html
鈴木恵美氏の『エジプト革命ー軍とムスリム同胞団、そして若者たち』を読んでみようかと思います。

http://www.lefigaro.fr/societes/2015/02/16/20005-20150216ARTFIG00409-au-caire-la-france-et-l-egypte-signent-le-contrat-du-rafale.php
http://en.wikipedia.org/wiki/Heliopolis_(Cairo_suburb)
フィガロによれば、「 palais présidentiel, ex-Heliopolis Palace construit par le baron Empain en 1911」(アンパン男爵建立(1911年)の旧ヘリオポリス宮殿、現在の大統領府)で、戦闘機ラファルの調印式は執り行われたようですが、ウィキにあるように、そこには軍の参謀本部もあって、要するにエジプトの国家権力の中枢なんですね。
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Heliopolis gained a special political and military importance in Egypt and the Middle East in recent decades. The Egyptian Military headquarters and the Egyptian Air Force headquarters are there. The Almaza Military Airbase is very close to Heliopolis. …… Heliopolis was the residence of the Egyptian ex-president Mohamed Hosni Mubarak. In 1981, the site of Heliopolis Palace Hotel became the Egyptian Republican Palace and the president's office.
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http://en.wikipedia.org/wiki/Baron_Empain
http://en.wikipedia.org/wiki/Baron_Empain_Palace
エジプトになぜアンコール・ワットのような建築があるのか、アンパン男爵の勝手な思い付きには理解しかねるものがありますが(設計は別人とはいえ)、二十世紀初頭のエジプトにおける西欧の傍若無人ぶりを示す歴史的記念碑なのかもしれませんね。

追記
http://www.rfi.fr/moyen-orient/20150216-france-egypte-signent-premier-contrat-export-rafale/
ル・ドリアン国防相とアル・シシ大統領の間の絨毯(屏風?)にある文字、読めたら面白いのですが・・・。
コメント
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