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ジュディ・シカゴの戦略と優先順位

2015-02-05 | 映画・演劇・美術・音楽
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2015年 2月 5日(木)15時02分18秒

北原恵氏の論文をそれなりに丁寧に読んでみたつもりなのですが、ユダヤ人差別関係はよく分からないですね。
リサ・ブルーム氏はジュディ・シカゴの改名について、1975年の最初の自伝 Through the Flower(小池一子訳『花もつ女』、PARCO出版、1979年)と1996年の二番目の自伝 Beyond the Flowerでの説明の違いを指摘した上で、「もともとの民族的な名前を変えて、有名な白人の非ユダヤ人女性として、自分の民族より優勢なグループへと乗り換えた」と評価し、その理由を、「当時文化的エリートの一員として認められるためには、カリフォルニアで蔓延していた反ユダヤ主義的な公的文化に同化しなければならないという抑圧が存在した」等と分析しているそうですが、差別の問題は微妙ですから、かかる評価が適切なのか、またそもそも実態として当該「抑圧」が存在したのかなど、私の知識と能力では調べる方法もありません。
ただ、まあ、36歳のときの最初の自伝での説明はフェミニズム活動家としてのキレイゴトっぽいのに対し、画廊経営者の意見に従ったという二番目の自伝の説明は率直な感じはします。
「ゲロウィッツ」じゃどうにも語感的に冴えず、売れそうもないですね。
ジュディ・シカゴは自己のアート作品を通してフェミニズムの戦闘的な主張を展開した運動家ですから、何だかんだ言っても目立ってナンボ、作品が売れてナンボ、という現実的な要請を一番重視したんじゃないですかね。
『最後の晩餐』の利用もそれが最も有名だからであり、性器を素材にすることも、それが最も刺激的で世間を騒がせることが出来るからであって、運動家としての戦略は一貫しているように思います。
激しい運動が一応終息した後になって、後出しジャンケン的にいろいろ批判することは可能ですが、運動家には運動家としての戦略と優先順位があったんじゃないですかね。
「文化的エリートの一員として認められる」みたいなのんびりした目標は、仮にあったとしても、優先順位としては最下位くらいじゃないかなと思います。
ま、不得意な分野なのでジュディ・シカゴについてはこれで終えますが、北原恵氏の論文には後深草院二条は全く登場しないのに対し、井野瀬久美恵氏の論文には脇役として出てきますので、そちらの検討を少し続ける予定です。

>筆綾丸さん
>ルイーズ・ブルジョワの巨大化した蜘蛛
実物は六本木ヒルズのものしか見ていませんが、個人的にはあまり好きになれないですね。
リンク先のページには「子孫繁栄の象徴、命の誕生を賛え、希望溢れる作品」などとありますが、人それぞれだなと思います。


>ワルハラという町
以前、ミズーリ州の"Peculiar"(奇妙な)という名前の町について少し調べていて、アメリカの変な地名に関する folk etymology には Post Office が登場することが多いなと思いましたが、ご紹介のウィキペディアの記事を見ると、ワルハラの場合は郵便局長夫人が命名を主導しているんですね。

Peculiar という名前の町

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

パリ百景ー蜘蛛、ゴブラン織、獺祭 2015/02/04(水) 15:04:56
小太郎さん
http://fukusei-movie.com/
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%83%96%E3%http://en.wikipedia.org/wiki/Maman_(sculpture)83%AB%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%AF
去年の夏、新宿で『複製された男』という映画を観ましたが、ラストシーンはルイーズ・ブルジョワの巨大化した蜘蛛がゴジラのように都市を伸し歩くというもので、彼女の影響力の強さを感じました(二流映画でしたが)。
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Bourgeois' mother, with metaphors of spinning, weaving, nurture and protection. Her mother Josephine was a woman who repaired tapestries in her father's textile restoration workshop in Paris.Bourgeois lost her mother at the age of twenty-one. A few days afterwards, in front of her father who did not seem to take his daughter’s despair seriously, she threw herself into the Bièvre River; he swam to her rescue.
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http://en.wikipedia.org/wiki/Ariadne
この蜘蛛はルイーズにとって母親の寓喩のようですが、大理石の卵はもしかするとギリシア神話のアリアドネの糸玉を意味しているのかもしれませんね。母親に先立たれた21歳のルイーズは鈍感な父親へのあてつけからビエーヴル川で入水自殺しようとして未遂に終わっていますが、この説明では彼女がイスカリオテのユダの場所を占めている理由はわかりません。ユダの裏切りに通ずるような何か深い闇があるのでしょうね。

http://en.wikipedia.org/wiki/Gobelins_Manufactory
現在のビエーヴル(獺)川はパリ市内では暗渠ですが、川沿いに国立のゴブラン織物工房(La manufacture des Gobelins)があり、あの辺りの13区から5区にかけて昔は tannerie(なめし工場)とともに多数の織物工場があったようですね。人間の悲喜劇(女工哀史?)などには目もくれず、ゴブラン織のような華麗な獺祭が繰り広げられていたのだろう、と想像します。広重がパリに生まれていたら、描いたにちがい風景のひとつですね。

追記
http://www.bbc.com/news/world-us-canada-31124170
http://en.wikipedia.org/wiki/Valhalla,_New_York
ヴァーグナー崇拝者の命名によるワルハラという町がニューヨーク郊外にあって、それは Census-designated place(国勢調査指定地域)だということを、この列車事故で初めて知りました。
コメント
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