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蒼井優と高橋一生で「スパイの妻」⑧ スパイごっこを楽しむ「スパイの妻」ですか? 

2021年05月02日 | 映画の話し

前回の続きです。

憲兵隊より戻り、裏切った妻、聡子に詰め寄る優作。 

『密告屋!しかも、泥棒まで、君は幼なじみ口車に乗って僕ら2人を売った。よくも、まあ、そんな涼しい顔をしていられるな』

『文雄さんは、必ずあなたを守る。私はそれに賭けました』

『これが、何かわかるか?文雄の両手の爪だ』

爪を見せられても、まったく動じることなく。

『大きな望みを果たすなら、身内も捨てずにどうします?』

冷静にと云うか、冷酷な響き。えっ!どうして?これは、裏切ったのではなく、決断の、覚悟の、現れ?

『君のせいで文雄は地獄行きだ』

優作は、まだ聡子の変化に戸惑い、半信半疑。裏切りもの?それとも見方?

『大望を遂げるための犠牲です。文雄さんもお分かりでしょう。だから、あなたは、こうして帰ってくることができたんです』

聡子のせいで拷問され、極刑にされる文雄を、大望を遂げるための犠牲と、何の躊躇いも無く、平然と言ってのける聡子。

以前、

『あなたのせいで、日本の同胞が何万人死ぬ・・・、それは正義ですか?・・・私たちの幸福はどうなります・・・国際政治がどうとか、偶然が選んだとか、そんなの知ったことじゃありません』

こんな発言をしていた聡子。この変わりように、疑い、驚き、戸惑い、混乱する優作。

観ている私も、驚き、疑い、戸惑い、混乱しました。聡子の心の変化が、画面からは読み取り難いと云うか、変化の過程が描かれていないのです。

『望みを遂げようにも、もう、肝心のノートがない』

この台詞から、英訳ノートも憲兵隊に提出していたと、優作は思い込んでいたようです。

『ノートは二冊、必要なのはこちらのはず』

『だが、原本が無くては信頼されない。生き証人だった弘子も、もう居ない』

『あなたが私を責めたいのは分かります。それでも、あなたは、私を信用して下さらなくてははなりません。もう、あなたには、私しか居ないのです』

この女、何を考えているのか?戸惑う優作。

フィルムを装着した映写機を取り出し、映写の準備をする聡子。フィルムも提出していなかった事を知る優作。

『君は見たのか』

『ええ、見ました』

以前、『・・・君は何も見ていない、何も知らない。僕も君にそれを見せたはくはない。・・・僕は見た。多分あらゆる偶然が僕を選んだ・・・だとしたら、もう、何かしないわけにはいかない』と、云っていた優作。

見てしまい、知ってしまい、そして、聡子も、何かしないわけにはいかない、との、その決断の、その決意の、現れが、一連の行動と理解し始める優作。

それにしても、聡子の行動には、私も、疑い、驚き、戸惑い、混乱です。

こんなに人は変わるの?動機は本当に非人道的行為に対する怒りなの?と、私は、まだ疑っています。

優作も疑っています。

2人で映写されたフィルムを見終わり。

『あなたが満州で見た者は、これですね』

『ああ、決定的な証拠だ』

『なんて惨い』

『関東軍による、人体実験の記録フィルムを再撮影したものだ。弘子に入手させた。帰国との交換条件で』

ここで、聡子は、以前の聡子のように、明るい表情で、

『このフィルムと英訳のノートがあれば、あなたの志を果たすことができます。アメリカへ渡りましょう。私たち2人で』

この「私たち2人で」の台詞が、明るい表情が、明るい言葉の響きが、とても、とても、気になると云うか、引っかかるのです。

聞いている優作も「この女は、いったい何を考えているのか?」と云った表情を見せます。

聡子にとって、満州から、優作と文雄が持ち帰った、機密文書と、連れ帰った女により、豊かで、穏やかで、愛のある2人の日常が、突然、壊されたのです。

文雄のことも、機密文書のことも、連れ帰った女のことも、恨んでいるのです。機密文書も、文雄も、憲兵隊に売り渡すことに、それほど抵抗はなかったと、解釈します。

たぶん、機密を知るのは「私たち2人」の台詞に、表情に、壊れかけた2人の愛が、機密を2人だけで共有することで、つなぎ止められるとする、聡子の想いが込められていた、と、解釈します。

 

次のシーンは、何処か郊外の廃屋と化した工場か、倉庫跡。

『いよいよの時は此処に隠すつもりだった』と、金庫の中に書類とフィルムを入れる優作。

『優作さん。これ以外にも、フィルムがあるんじゃないんですか?映像があれだけでは、女を連れ帰る危険と、見合うとは思えません』

『何ておんなだ』

聡子の変わりように、付いていけない優作。ふつう自分の奥さんに「何て女だ」とは、面と向かっては云いません。聡子が変化した動機に、文雄を売り渡した動機に疑いを持っている表現。

『あなたが、国際世論を動かせると判断する位のものが、他にあるんですね』

『そのとおり、原板もっと鮮明で微細で数十分におよんでいる。それは、上海ドラモンドに預けた』

『ドラモンドさんに?』

ドラモンドとは、以前は神戸にいた商売仲間で、個人的にもそれなりの付き合いがあった。作品の冒頭で、スパイ容疑で逮捕されてたが、優作の口添えもあり、嫌疑不十分で釈放。そのあと、日本では商売がしずらいと上海に渡っていたイギリス商人。

『日本に持ち帰るより、ずっと安全だと思った、だが間違いだった。先日の手紙で、ドラモンドはフィルムと引き換えに多額の金を要求してきた。「貧すれば鈍す」だ。待てよ、まさか?彼こそ本物のスパイなのか?』

機密文書と引き換えに金を要求するのは、とても、不自然。ただ、ここで、「スパイ」と云う台詞が必要だっただけと。

『スパイならば味方とはなりませんか?』嬉しそうに云う聡子。

優作は毅然として『僕はスパイじゃない。僕は自分の意思で行動している。スパイとは全く違うものだ』

『どちらでも結構。私にとっては、あなたは、あなたです。あなたがスパイなら、私はスパイの妻になります。それだけです。満州での偶然が、あなたを選んだとしたら、それは、私まで選んだということです』

この表情で、語られる、この台詞。

国家機密を国際社会に暴露すると云う、危険を冒そうという人の表情でしょうか。「あなたがスパイなら、”私はスパイの妻”になります。それだけのこと」

これは、夫婦で楽しむ「スパイごっこ」でもする表情です。

本日は、ここまで。

 

それでは、また。

 

 

 

 

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