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蒼井優と高橋一生で「スパイの妻」⑭ 一時精神を病んだ聡子はどう自分を納得させたのか?

2021年05月10日 | 映画の話し

前回の続きです。

夫には大望の為にと官憲に売り渡され、幼なじみの泰治には売国奴として見放された聡子。

これは、相当に精神的なダメージです。

優作が艀に乗り、陸の方に向かって帽子を振るシーンで、ENDマークが出ると思っていたら、ドラマはもう少し、続くのでした。

1945年3月とテロップが入り、精神病院の病室シーン。

聡子が憲兵隊に逮捕されたのが41年の夏から秋頃で、その年の12月8日に日本がアメリカに宣戦布告。

4年の時が流れています。

患者の会話。

『東京が火の海や』

『東京だけやないで。名古屋、大阪・・・そのうち神戸もやられるわ』

『男は皆な死んでもうた。女だけでどうにもなれへん』

『これで日本も終わりやな』

『あんた何涼しい顔してんねん。何とか云うてみいや!』と、側のベットに座る女にからみます。

『やめとき。この人一番、おかしなってんねん、ここが』と頭を指さす。

からまれたのは聡子。

あれから4年間、ここに閉じ込められていたのです。あのとき、優作にも、泰治にも、見放され、否定され、すべてを、失って、見失って、精神を病んでしまった?

聡子に面会者が現れます。懇意にしていた、帝大出の医師野崎です。以前、オープンカーを借りた先生です。

『ご無沙汰しておりま~す!』

『野崎先生こんなところで何を?』

付き添って来た看護婦に席を外させ。

『いやねえ、聡子さんの担当が帝大の同期で、先日たまたま、あなたの入院を知りました。それで、今日は無理を言って』

『まさか、またお会いできるなんて』

『うん。まあ、いろいろと大変でしたね。お元気ですか?・・・と聞くのも変か』

『いいえ、聞いて下さい。元気です』

『うん。確かにお元気そうだ』

『薬さえ飲まされなければ、頭はハッキリしています』

『そうですか』

『先生、外の世界のこと教えて下さい。ここでは、検閲済み新聞しか読めないんです』

『外も大して変わりません。おんなじようなもんです』

『福原の事は・・・』

大望の為に、聡子を犠牲にした優作。それでも、それなりに身を案じている?それとも、犠牲となった価値はあったのか? それとも、単に、その後の行動が知りたいだけ?

『ん~・・・。』

『何かご存じなんですか?』

『インドのボンベイで見かけたという知人がおりました』

『ボンベイ?』

上海からサンフランシスコへ向かう計画とは違うの?

『そのあとボンベイを出て、ロスアンゼルスへ向かったアメリカの客船が、日本の潜水艦によって撃沈された、という情報も聞いています。もっとも、今信用できる情報など何もありません』

『それだけですか』

『それだけです。長い間、ご苦労様でした。聡子さんがここから出られるように、なんとか手配してみましょう』

『あら、どうして?』

『あなたが、こんな処に居るの見るのは忍びない、拙宅でよければ、暫くお世話します』

『ありがとうございます。でも、それには及びません。いいのです。何だかひどく納得しているのです』

『納得と云うと?』

『先生だから申し上げますが、私は一切、狂ってはおりません。ただ、それがつまり、私が狂っていると、云う、ことなのです。きっと、この国では・・・』

いまこの国、この戦争と云う狂った時代、狂っていないことは、狂っている。

聡子は野崎の申し出を断ります。

聡子は、狂っていませんでした。検挙され取り調べられた経緯からすれば、気が動転し、混乱し、錯乱し、狂乱し、気絶したのでしょう。

そのような精神状態は、一時だけだったと思います。

罪を問わず、精神病院へ送ったのは、聡子へ泰治の最後の計らい?

聡子は、どこを、どう、自分を納得させたのか?

戦争の時代でなければ、泰治とも、優作とも、そして、女中の駒子とも、楽しく平穏な日常を送れたと・・・、戦争と云う時代への諦めが?

優作も泰治も、時代に狂わされた者として、時代と共に否定することで?

兎に角、戦争と云う狂った時代に、世間から狂ったとされて、世間から隔絶されることで、世間の苦悩から、それなりに一定程度逃れられ、精神の安定が得られる、この空間、この時間が、それなりに今の聡子には必要だった?

 

そして、その晩、神戸の街は米軍によって空爆され、病院も被災します。

史実としては、1945年の、3月、5月、6月の大空襲は激しかったそうで、8000人以上が亡くなったそうです。

本日は、ここで、お終いとします。

 

それでは、また。

 

よろしくね。

 


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