ギリシャ神話あれこれ:虚夢が告ぐ

 
 テティスは、息子は従軍した以上戦死する運命なのだから、せめて望みを叶えてやろう、とオリュンポスのゼウス神に頼みに行く。
 ゼウスはテティスには弱い。で、短命の息子の名誉を願う彼女の頼みを聞き遂げる。

 さて、ゼウスはオネイロス(夢)を呼んで、アガメムノンの枕辺へと遣わした。今こそイリオス城は陥落するだろう!
 だが、これは虚夢だった。

 まんまと騙された間抜けなアガメムノン、これをゼウスの神意と信じて、夜明けとともに全軍を集結させる。

 このときアガメムノンは、軍の士気を試そうと、わざと逆に、無駄な骨折りはもうやめて、諦めて故郷へ引き上げよう、と呼びかける。
 と、兵士たちはそれを本気に取って、嵐のような歓声を上げて船へと突進。慌てたオデュッセウスが、馬鹿者! 9年も耐えて、虚しく帰るのが恥ずかしくないのか! とアガメムノンの王杖で兵たちを打ち据え、叱り飛ばして、ようやくのことで騒ぎを収めた。

 いつも英雄たちの揚げ足ばかり取るテルシテスという男、ここでも最後まで口汚く罵り続けるが、オデュッセウスの杖に打たれて、ベソをかいて黙り込む。

 アテナ神に伴われたオデュッセウスが、王杖を手に兵たちに檄を飛ばす。トロイア落城の日は近い! いざ、耐え抜こう!
 こうしてギリシアは進軍、対して、総大将ヘクトルが指揮するトロイア軍が迎え撃つ。

 To be continued...

 画像は、アングル「ゼウスとテティス」。
  ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル
   (Jean-Auguste-Dominique Ingres, 1780-1867, French)


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ギリシャ神話あれこれ:怒れるアキレウス(続)

 
 アガメムノンは、娘を返すのには不承々々に承知する。が、自分にだけ取り分がないのは納得できない、代わりにアキレウスが貰った娘ブリセイスを差し出せ! と言い出す。
 強欲な王め、俺はお前の戦利品のために戦ってるんじゃないぞ! と短気なアキレウスはプチ切れる。ならとっとと帰れ、若造め! と傲慢なアガメムノンもプチ切れる。

 怒り心頭、アキレウスは今にも剣を抜きかける。が、アテナ神(彼女はパリスの審判で選ばれなかったため、ギリシアに味方している。戦争の守護神を敵にまわした時点で、トロイアの敗北は決定的だった)が、密かに彼を押しとどめた。
 アキレウスは、いずれこの俺がいないことを後悔するぞ! あんたには金輪際、従わんからな! と捨て台詞を吐いて、アガメムノンと決裂する。

 クリュセイスはオデュッセウスに連れられ、父のもとへと返されて、ギリシア軍を襲った疫病はようやく治まった。

 ブリセイスを取り上げられたアキレウスは、一人泣きながら、海に向かって母テティスを呼び、散々に自分の不遇を訴える。そして、どうか、ギリシア軍が劣勢となり、アガメムノンがアキレウスの不在を後悔するよう、取り計らってくれ、と頼む。
 ……我儘の甘えん坊め。

 To be continued...

 画像は、ロラン「クリュセイスを父のもとへと連れ帰るオデュッセウス」。
  クロード・ロラン(Claude Lorrain, ca.1602-1682, French)

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ギリシャ神話あれこれ:怒れるアキレウス

 
 トロイアでは早9年の歳月が流れた。そして10年目。

 トロイア軍はイリオスの都城に引き上げ、一方、ギリシア(=アカイア)軍は浜辺に船陣を張って、両軍は日毎に兵を繰り出し、スカマンドロス河畔の平原で戦闘を繰り広げていた。神々が築いたイリオスの城壁は難攻不落で、戦闘は膠着、ギリシア軍は戦争に倦み、近隣を劫略した。

 あるとき、略奪によって得た多くの戦利品のうち、二人の美しい娘がそれぞれ、総大将アガメムノンと英雄アキレウスとに贈られた。アガメムノンが貰った娘はクリュセイス、アキレウスが貰った娘はブリセイスといった。
 が。
 クリュセイスの父はアポロン神殿の老神官だった。彼はギリシア陣営を訪れ、莫大な身代を差し出して、娘の返還を懇願する。
 諸将たちが神官に敬意を表するなか、総大将アガメムノンだけはこれを嘲り、罵って、手荒く追い返した。とっとと帰れ、老いぼれめ!
 
 あまりに悔しい老神官、アポロン神に、ギリシア軍への復讐を祈願する。
 アポロン(彼はヘクトルを寵愛していたため、トロイアに味方している)はこれを聞き入れ、ギリシア陣営に得意の疫病の矢を放つ。疫病は瞬く間にギリシア陣営に蔓延し、兵たちは次々と倒れていった。

 ギリシア軍の老予言者カルカスは、クリュセイスを老神官に返還しなければ、アポロン神の怒りは解けまい、と進言する。

 To be continued...

 画像は、ゲラン「アガメムノンと言い争うアキレウス」。
  ピエール=ナルシス・ゲラン(Pierre-Narcisse Guerin, 1774-1833, French)

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ギリシャ神話あれこれ:ラオダメイアの愛(続)

 
 彼女は蝋で夫の似姿(むむ、ダッチ・ハズバンド!)を作らせ、夜毎、本物の夫さながらに、それに話しかけ、それと交わる。あるとき、召使がその様子を怪しんで、彼女の父に、忠義面して畏まってチクる。……ラオダメイアが、夜な夜な、新しい男を部屋に招き入れているようだ、と。

 激怒した父は、ある夜、戸を蹴破って娘の部屋へとなだれ込む。娘も驚いたが、父も驚いた。何しろラオダメイアは、死んだ夫とそっくりの蝋の像を抱いて共寝し、涙ながらに話しかけているのだから。
 父は、そんな蝋像を作っては、忘れられるものも忘れられない、とにかくその忌まわしい蝋像を焼き捨てなさい、と娘に言い渡す。が、彼女は従わない。

 一方、冥界に赴いたプロテシラオスも、ラオダメイアへの想いを、どうしても捨て切れない。こちらもアフロディテの呪いで、死んでなお妻への愛がめらめらと燃えていたわけ。
 彼は冥界の神々に、どうか今一度だけ、妻のもとに帰らせてくれ、と懇願する。で、とうとう、彼を憐れんだペルセフォネに、ヘルメス神の案内で、生きたままの姿に戻して、一夜だけ地上に帰ることを許してもらう。

 プロテシラオスの姿を見たラオダメイアは、戦死したはずの夫が思いがけず凱旋したのだと思い込み、狂喜してはしゃぎまわる。が、一夜明けた朝、夫は妻に真実を打ち明ける。
 膨れ上がった風船が萎むように、彼女は落胆する。そして、夫が再び死ぬときが来ると、彼女は夫の遺愛の短剣を手に取り、自ら胸を貫いて、夫とともに死者の国へと旅立った。

 愛の物語、お終い。

 画像は、ゴッドワード「古代の美女」。
  ジョン・ウィリアム・ゴッドワード(John William Godward, 1861-1922, British)

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ギリシャ神話あれこれ:ラオダメイアの愛

 
 子供の頃読んだ四コマ漫画に、“ダッチ・ワイフ”というのが出てきた。俺、結婚することにしたんだ、だから、さようなら、と、女を崖から海へと突き落とす男。それを遠くから見咎めた別の男が、何てことするんだ! と駆け寄って、海を覗くと、ダッチ・ワイフがプカ~と浮かんでいた、という話。
 で、母に、“ダッチ・ワイフ”って何? と尋ねたところ、母は眼を白黒させてから、答えた。「それは多分、英語ね」……
 当時私の家には、信じられないことに、英語の辞書が存在しなかった。中学生になってようやく、私は“Dutch wife”を調べてみることができたけれど、辞書には載っていなかった。……

 プロテシラオスは新婚ほやほや。が、花嫁ラオダメイアを迎え、一夜過ごした翌日、トロイアへと出征することになる。

 ギリシア軍の船隊がトロイアの海岸に到着したとき、真っ先に降り立ったのはプロテシラオスだった。で、当然、物陰に待ち構えていた敵勢は、それを目がけて一斉に、槍を投げるやら矢を射るやら。
 こうして、彼はギリシア戦死者の筆頭となる。もともと、最初にトロイアに上陸した者は死すべし、という予言があったんだけれど。

 ところでプロテシラオスは、出征で多忙を極めていたので、結婚後にアフロディテに感謝を捧げるのをすっかり忘れていた。アフロディテはこれを恨み、プロテシラオスとラオダメイアに、互いに対する永遠の愛を吹き込む。

 さて、プロテシラオス戦死の訃報を知ると、ラオダメイアの父は、仕方のないことと諦めて、娘を他の男に嫁がせようとした。が、彼女は頑なに拒絶する。アフロディテの呪いで、死んだ夫への愛がなお、めらめらと燃えていたわけ。

 To be continued...

 画像は、G.W.ジョイ「ラオダメイア」。
  ジョージ・ウィリアム・ジョイ(George William Joy, 1844-1925, British)

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