コケティッシュな魅力

 

 ドンゲンの人物画は何となく可愛らしい。解説じゃ、ドンゲンの女性像は退廃的で官能的、って評価をよく眼にする。
 確かにドンゲンの女性は、下着にコルセットって恰好だったり、緑のストッキングって恰好だったりする。それを、野獣派らしい斬新な、原始的な、どぎつい色彩で塗ってある。
 それでいっそう、ある人々には、粗野で露骨で淫らな印象を与えるのかも知れない。

 が、私はドンゲンの人物画は好き。ドンゲンの絵はエロティックと言うよりもコケティッシュ。ダンサーもシンガーも、帽子をかぶったパリジェンヌも、悩ましくしどけない娼婦も、みんな眼がぱっちり大きくて黒目がち、睫毛も濃い。
 背景が塗りつぶされているせいか、視線は彼女たちに集中する。彼女たちは大抵、照明に照らされているらしく、明るい色彩の上にもひときわ明るく映えている。

 色彩そのものは鮮烈だが、野獣派真っ盛りの時期のマティスのような、ごちゃごちゃとした、一歩引いてしまう色使いではない。かなり色味を抑えてあって、全体にとてもバランスが取れている。
 ドンゲンの絵は、人物自体のフォルムがとても単純で、この単純な人物のほかにほとんど何も描かれていない。背景すらない。で、そのせいか、余計に色彩本位に見える。

 キース・ファン・ドンゲン(Kees van Dongen)はオランダ出身の画家。ほとんど独学で絵を学ぶが、その学び方というのは、ロッテルダム花柳街の船乗りや娼婦たちを描くこと。
 パリに出て野獣派に参加。伸びやかな輪郭線と豪華な色彩のコケティッシュな人物画で、フランス・ブルジョア階級の人気を得、成功した。
 
 私も本当は、ドンゲンの絵みたいな、コケティッシュで可愛らしい女性になってみたかったなー。

 画像は、ドンゲン「ひなげし」。
  キース・ファン・ドンゲン(Kees van Dongen, 1877-1968, Dutch)
 他、左から、
  「赤い踊り子」
  「ロッテルダム」
  「赤い道化師」
  「サクランボを飾った帽子」
  「ひとりぼっちの鳥」

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