五匹の子豚

 
 4月にテレビがぶっ壊れてしまった。じきにデジタル放送になるのが分かってるのに、バカ高いテレビなんて買う気にならない。で、使い捨てのつもりで、安物のテレビデオを買った。このビデオ機能は、主に坊の教育上のもの。
 で、世界を広げるために、良質の映画を観ることに決めた。週末は映画鑑賞会。暑がりの相棒と坊のためにクーラーをつけ、私はタオルケットにくるまって、映画を観る。

 隔週で相棒と図書館に出かけて、ビデオを借りる。ついでに相棒は、美術文庫を一冊借りる。継続は力なり。セザンヌやら、ルオーやらを、一人一人確実にクリアしていくから立派。
 私のほうは、ミステリーを一冊こっそり借りる。心を使わずに済むミステリーは、どんなに疲れてても、悄気てても読めるので、重宝する。

 借りてくるのは、相変わらずクリスティのミステリー。有名なものはほとんど読んだので、最近はまだ読んでいないなかから、タイトルで選ぶ。「なんとか殺人事件」とか「なんとかの謎」とかは後回し。
 直近で読んだのは、「ポケットにライ麦を」と「五匹の子豚」。いずれも、マザー・グースになぞらえたタイトルにそそられた。このうち、「五匹の子豚」は、これまで読んだなかで一番の傑作。

 カーラという若い女性から、彼女の両親にまつわる16年前の事件の再調査を依頼されるポアロ。彼女の母カロリンは、父アミアスを殺した容疑で有罪判決を受け、獄死。が、カロリンは死に際して、娘カーラに、無実を訴える遺書を残していた。
 事件に関わった弁護士や判事の話からは、カロリンがアミアスを殺したのは疑う余地がないと思われた。事件をめぐる関係者は五人。彼らが語る、五人五様の証言。真犯人だけが嘘を吐いている。事実に大きなズレはないが、心象はバラバラ。過去の記憶にもとづくこれら証言だけを手がかりに、ポアロは事件の真相にたどり着く。

 一切の無駄がなく、美しい構成。トリックのような手練手管もなく、シンプルでエレガント。読後に忘れがたい印象を残す犯人像。二人を殺した自分こそが、実はあのとき死んでしまっていたのだ、という真情の吐露。
 殺されたのが画家だったのも、面白かった。

 画像は、J.ブレット「北デヴォン、リー湾の絶壁の別荘のバルコニーからの眺め」。
  ジョン・ブレット(John Brett, 1831-1902, British)

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