スリーピング・マーダー

 
 ここ数日、日本のファシズム復活を迎えるべく群衆心理に直面して、脱力状態になっていた。脱力すると、クラゲのようになる。気力が萎えてしまって、何かするのが億劫になる。起き上がるのすら億劫で、ゴロゴロと寝転がって過ごすしかなくなる。
 そんなときは、時間が勿体ないので、音楽を聴きながら本を読む。本と言っても、心を使わずに済むミステリーを読む。

 私はミステリーが特に好きというわけではない。が、「警部補・古畑任三郎」は全部観たし、「金田一少年の事件簿」も全部読んだ。ついでに、坊のせいで「名探偵コナン」のTVも眼に入ってくる。
 どれも結構人気のあるものばかりだから、日本国民はせめてミステリーから思考順路を学んでいるのかと思いきや、逆に無思考のほうへとベクトルが向いているらしい。ま、だから私はクラゲ状態だったんだけど。無思考、怖るべし。

 私の場合、作家を読み比べできるほどミステリーを読んでいない。子供の頃は、父の買ってくる松本清張や森村誠一を読んでいたが、最近じゃアガサ・クリスティしか読まない。
 別に、クリスティのファンというわけじゃないし、クリスティが特に優れていると思ってるわけでもない。ただ、なんとなく読んでしまうのは、イギリスの上流階級の生活を垣間見ることができるからかな。

 今回読んだのは、「スリーピング・マーダー」。眠れる殺人、という意味。ミス・マープルの最後の事件らしい。
 イングランドに来たばかりの新妻グエンダが、海辺の町の古風な別荘を、一目見て気に入り、購入するのだが、初めてのはずのその家を、なぜか知っているように感じる。庭に埋められた階段や、塗りつぶされた部屋の扉、戸棚の奥の古い壁紙。そして劇場の台詞とともに、ヘレンという女の死体と、絞め殺した男の猿の前肢のような手が、彼女の記憶に甦る。

 私は、どちらかと言うと、ミス・マープルよりもポワロのほうが好み。マープルは、かなり上品な老婦人らしいのだが、それでも、お喋りで詮索好きな婆さん、というのは、ちょっといただけない。
 が、年齢を取ると、ミス・マープルが可愛らしく思えてくるのだという。……ミス・マープルをうるさく思うのは、私がまだ若い証拠?

 とにかく、早くクラゲ状態から脱出したい。先日、クラゲのまま絵を描いてたら、なんだか、どよ~ん、と落ち込んだ顔になってしまった。嘆かわしい。

 画像は、モリゾ「イギリス海景」。
  ベルト・モリゾ(Berthe Morisot, 1841-1895, French)

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