神と悪魔 その1(続)

 
 私はすでに、その答えを知っていた。ピエーロ氏は自分のファミリーである研究会を守るために、その批判者の信頼を失墜させようとして、これでもかと罵倒したのだ。
 ピエーロ氏のターゲットは私だった。そして、ピエーロ氏のために目的に適った場をつくったのは、ハーゲン氏その人だった。

 私はそれらすべてを、彼自身の口から聞きたかった。
 
 彼は険しく顔をしかめ、むっつりと黙りこくったまま、いよいよ敵意の剥き出しになった眼で私を睨みつけた。
「全部知ってたの?」
「君の出る幕じゃない」と彼は、渋い顔で冷やかに、腹立たしげに答えた。
「出なくてもいい幕に無理やり引きずり出したのは、どこの誰? 大学教授が学生相手に、酔っ払って話してもよかった話?」
「僕はなあ、ピエーロさんの言うことなら、話半分に割り引いたって信用できるんだ。どんな話だってかまわんじゃないか! 結局、ピエーロさんが非難せざるを得なかった奴にこそ、こないだの責任があるんだ」
「本心から言ってるの?」
「おい、いいか、その挑発的な口の利き方を今すぐやめろ! 僕に何を期待してたんだ? 僕と一緒にピエーロさんを信じるなら、期待もいいさ。とにかく、過去のことをほじくり返すのは、もうよすんだ」
 
 過去を忘れろと言う。未来を考えるなと言う。別のときには、過去を自慢し、未来を計画して、現在のほうは気にもかけるなと平気で言うくせに。
 私はずっと、次々と絶え間なしに湧いてくる思いに言葉を追いつかせることができずにいた。そして今、突然それらすべてを語り尽くそうとして、口にした言葉がこんなにも怖ろしいものだったことに慄然としたのだった。
 
「ねえ、分かってるの? ピエーロ先生なんて、ゲルへ博士の威光のおかげでやっと認められるくらいの、影の薄い存在じゃないの。なのに、これから一生、ピエーロ先生に、影みたいに付き従うつもりなの? 影の影ほどで終わってもいいの?」
  
 私の言葉は彼の急所を突いていた。その報いは覿面だった。

 To be continued...

 画像は、ヴルーベリ「デーモンの頭部」。
  ミハイル・ヴルーベリ(Mikhail Vrubel, 1856-1910, Russian)

     Previous / Next
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )