神と悪魔 その1

 
 デーモン(demon)は、ギリシャ神話でいう、神々と人間との中間にある悪魔。対してデビル(devil)は、キリスト教でいう、神に対する悪魔。諸悪の権化は後者のほう。
 私はこれまで、「神」とも「悪魔」とも呼ばれたことがある。もし私が悪魔なら、デビルではなくデーモンのほうではないかと思う。

 さて、学生のとき私の面倒を見てくれた院生ハーゲン氏は、今じゃどこぞの大学助教授だけれど、私を「悪魔」と呼んだ一人だった。
 
 彼は某大学教授ピエーロ氏に心酔しきっていた。そのピエーロ氏が、ある酒席で、ある個人を、事実無根な妄想を丸出しにして破廉恥に誹謗中傷する、という行為に及んだことがあった。
 私もハーゲン氏もそこにいた。そのとき私は、彼にピエーロ氏を諫めて欲しかった。なのに彼は、白痴的ににやにやしながら、ピエーロ氏に相槌ばかり打っていた。

 その日から彼は、私と二人きりになるのを用心深く回避するようになった。私たちの会話は逃げ腰だった。
 だが私は確かめたかった。ある日私は、彼が研究室に一人でいるところに滑り込んだ。このとき彼は本棚の前に立ち、読みもしない分厚い本のページをはぐっていた。そして、突然現われた私を警戒するように、無言のままじっと待ち構えた。
「ねえ、どうしてピエーロ先生は、あんな話を私たちにしたの?」
「なぜ僕にそんなことを訊くんだ?」
 彼は後ろ手に本を棚に戻すと、用心しいしい、私を睨んだ。

 To be continued...

 画像は、コロヴィン「デーモンに扮するフョードル・シャリアピン」。
  コンスタンティン・コロヴィン(Konstantin Korovin, 1861-1932, Russian)

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