内省の肖像

 


 ドイツのミュンヘンに、レンバッハ・ハウスという美術館がある。カンディンスキーを初めとする「青騎士」派のコレクションで有名。が、もともとは、肖像画家であり美術収集家でもあった侯爵、フランツ・フォン・レンバッハ(Franz von Lenbach)の邸宅(アトリエを含む)で、それを美術館に改装したものなのだとか。
 レンバッハ自身の描いた肖像画も展示されているらしいが、「青騎士」に比べると、レンバッハの絵を知っている人は少ないだろう。だから、この美術館を訪れる人々も、多くは「青騎士」の絵を目当てに来るのだろう。そして多分、「青騎士」の絵のあとでレンバッハの絵を観ると、暗ーい、と感じることだろう。

 レンバッハは最初、父の家業を継ぐために建築を学ぶが、兄カールに感化されて絵を描き始める。父の反対をなんとか説得し、許可を得て、本格的に画家を志す。
 ミュンヘン・アカデミーに入り、歴史画家ピロティから指導を受け、奨学金を得て、彼とともにローマに赴く。その後、イタリアやスペインを周遊し、古典的巨匠の絵を模写して技量を磨く。

 レンバッハは初め、戸外で絵を制作し、スケッチ旅行にもよく出かけている。初期の絵は、印象派的な陽光あふれる、眩しいくらい明るい外光風景画が多い。
 が、次第に色調は暗くなってゆく。

 それでもやはり、光の効果を用いている。暗色を基調としたなかに、巧みな光によって、人物が曰くありげに浮かび上がる。こうした明暗対比と言うと、レンブラントの肖像画を思い出すが、それとは雰囲気がちょっと異なる。劇的な演出はなく、どこか内省的。
 このスタイルの肖像画によって、レンバッハは国際的な人気を得た。ビスマルクやワーグナーの肖像画まであるのだから、かなりの人気。彼の描いた19世紀後半は、技術的洗練と心理的洞察とを特徴とする肖像画の時代だというから、彼のスタイルはその流れに共鳴したというわけだろう。
 
 私は、どちらかと言うと肖像画にはあまり興味がない。が、レンバッハの絵には、どことはなしに雰囲気が漂っていて、眼にとまった。で、以前、レンバッハの絵を紹介したことがあった。
 すると、ある音楽家が、「大変気に入った。この絵をテーマに作曲してみようと思う」と言ってきて、びっくりした。絵をテーマに作曲なんて、できるんだな。献呈してもよい、なんて言われちゃったけど、遠慮しておいた。
 絵から音楽をイメージできるのは、音楽のほうが抽象的だからだろうか。絵は具象的だから、音楽からそれをイメージして視覚化するのは、難しいかも知れない。

 画像は、レンバッハ「マリオン・レンバッハの肖像」。
  フランツ・フォン・レンバッハ(Franz von Lenbach, 1836-1904, German)
 他、左から、
  「羊飼いの少年」
  「リリー・メルク」
  「オットー・フォン・ビスマルク侯の肖像」
  「リヒャルト・ワグナーの肖像」
  「婦人の横顔」

     Bear's Paw -絵画うんぬん-
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