封印が解かれた光州事件の映画 『光州5・18』
韓国は一番近い「国」。すぐ隣りなのに報道も少なく知らされざる地。その半島最南端、全羅南道の道庁所在地で1980年に起きた光州事件は、日本では話題にもなっていない。韓国でも軍事政権の情報操作で、長らく封印されていた事件。
映画『光州5・18』を作ったキム・ジフン監督は、事件当時は9歳。戒厳令下の報道は民衆を「暴徒」扱いしていた。真実を知らされなかったとはいえ、知らなかった自分を恥じた監督は、資料を調べ、当時の関係者からの丹念な聞き取りで完成させた作品だ。
冒頭、日本の風景と似た、緑が美しい田圃の中の道を青年がくつろいだ表情で車を運転している。恥ずかしがりやで、デートの誘いかたも知らないこの主人公はタクシーの運転手。両親を失い、たったひとりの家族は高校生の弟だけ。貧しいけれども幸せな暮らし。
ところが、軍の実権を握り戒厳令を布告した全斗煥陸軍少将の退陣と民主化を求める青年たちを、暴力で封じ込め、さらに丸腰の市民を無差別に銃撃して殺戮する軍隊のあまりの仕打ちに、さすがの市民も憤って立ち上がる。撲殺された友人に義憤を抱いて立ち上がった主人公の弟が目の前で殺されてしまう……。ジフン監督は本作の意義を、まずは事件のことを知らない人に知ってもらいたかったと語り、名もなき青年とその周辺に焦点を当てる。
演技が大げさだという映画評は多かったが、そうではないと感じた。日本人と違い、為政者の腐敗を「恨(はん)」で表現する伝統の仮面劇などに見られる感情表現の激しい韓国人は少なくない。喜怒哀楽を身体全体で表わす知り合いの在日一世を何度も目にしたことがあるからだ。
日本から KCIA による拉致で有名になった政治家の金大中は、この事件の軍法会議で首謀者扱いされ、死刑判決を受けた。その後なんと大統領に就任。そのうえ韓国は、死刑の執行停止が10年を超えた事実上の死刑廃止国だ。
わたしが韓国に行った1990年代、コピーを自分で取れないと聞き、びっくりした。検閲=密告を前提に文房具屋に手渡しで頼む。文房具屋が密告しなければ、共産主義者の手先と見なされてしまうとも聞いた。
光州事件から30年弱。なんという様変わりだろう。この映画は韓国で大ヒット。国は変わるんだ。民主化はここまで人々を変えた。
なお、原題「華麗なる休暇」は、二万五千余名の国軍を動員して、光州市民の弾圧を命じた作戦名。
光州事件を振り返る手がかりの第一歩として、とても優れた作品だと思う。
◆映画『光州5・18』
JANJAN > 映画評論・レビュー・感想 > 「光州5・18」 28年前のあの日 今思い返す (2008/04/18 金正勲)
JANJAN > 金正勲の光州通信 > 韓国の民主主義、その1980年(2・完)5.18 民主化運動(光州事件)28周年 (2008/05/21 金正勲)
JANJAN > インタビュー > 「光州5・18」 キム・ジフン監督「真実に光を」 (2008/03/25 芳賀恵)
JANJAN > イベント > 「光州5・18」 黒田福美トーク 韓国との25年 (2008/05/10 岩渕弘美)
『光州5・18』アン・ソンギ インタビュー (@nifty映画)
夕張市の映画際が市民の手で復活、招待作品に『光州5・18』(08/02/06@オリコン)
【フォト】光州5・18墓地参拝する映画『華麗なる休暇』の出演陣ら(2007年8月13日@朝鮮日報)
光州5・18(韓国映画・2007年)(2008年3月14日@映画評論家 兼 弁護士坂和章平の映画日記)
1980年5月18日、光州で何が起こっていたのか。 (2008-05-13 16:17@薫のハムニダ日記)
「華麗なる休暇」 (2008/5/12) ・「光州事件・補足」(2008/5/19@不 可 視 の 学 院)
分断時代の法廷 (2008年05月27日「弁護士会の読書」福岡県弁護士会)
「光州5.18」 (2008/05/15(木) 00:28:34@反戦な家づくり)
光州事件から28年 (2008年05月21日、海鳴りの島から 沖縄・ヤンバルより)
光州5・18(伊東良徳のとき・どき★かるちゃ~ 2008年05月28日)
コラム【噴水台】華麗なる休暇(2007年7月29日。中央日報)
Hwaryeohan hyuga (2007) @ IMDb: Internet Movie Database
May 18 (Variety.com, Oct. 30, 2007 by Derek Elley)
May 18 (2007) Movie Review (BeyondHollywood.com, March 1st, 2008 by James Mudge)
映画『光州5・18』 公式サイト
「朝日新聞」と「読売新聞」から光州事件を振り返る (映画『光州5・18』 公式サイト)
光州民主化運動(日本語版、光州広域市公式サイト)
◆韓国人の感情表現について
感受性が豊かな韓国人
日本人の感情表現 日本語日本文学 尹 スンミン(韓国)
日本的村社会思考と韓国的直情型火病思考
韓国からのお客様を迎えるにあたって(2)
MBSラジオ1179ポッドキャスト | チョアヨ!韓国
何とも意味深長な題名ですね。
華麗なる...なんともはや、ですねぇ。
トラックバックありがとうございます。
韓国映画はオーバーリアクションな演技が主流なので、
それはあまり気にはならなかったのですが、
希望のないクライマックスの闘いが
退廃的に感じてしまって作風(演出)に馴染めなかったです。
最近の米国産狂牛病牛肉輸入反対デモのニュースを見ても、韓国民はまだまだ熱いのか!と感心します。日本では誰も声を上げないのですが。
この映画は全共闘を知っている私たちの世代が見るとまさに震撼させられます。光州事件だけでなく「済州島4.3事件」なども事前に知っていると、より考え込まされる映画だったです。
デキ具合としてはどうだったか措いておいても。
この映画は、市民の側からを一方的に描いたもので、
下手をすると、白々しいものになっていたと思います。
俳優たちの力演が、あの時代の市民の感情を今によみがえらせ、韓国での大ヒットに繋がったと思います。
韓国では、独裁政権が長かったせいか、この事件を詳しく知らない方が意外に多いみたいですね。
この映画が、本当の歴史を紐解くきっかけになるのかもしれません。
でも、実は、私は自国・日本の全共闘とかは、あまり知りません。
日本の同じような時代を描いた、いい映画もあるようなので、見てみたいと思います。
映画って、いろいろなことを伝えてくれる、大きなパワーを持っているものなんですね。
韓国在住のハムニダ薫と申します。
TBどうもありがとうございました。
実は拙ブログはgoo八分(笑)されており、TBのお返しができませんので代わりにコメントを残させていただきます。
私はこの映画を去年韓国で見たのですが、オーバーリアクションという印象はありませんでした。考えてみると、韓国語には濃音や激音という日本語にはない発音があり、一般の人でも感情表現が日本人よりもストレートなので、日本の方からするとそのように見えるのかもしれませんね。(私もすっかり韓国に馴染んじゃったなぁ・・・)
それよりも、こちらでは「光州が舞台なのに、なんでメインキャストはみんな標準語を話すんだ?」というツッコミが入れられていました。そういえば、コミカルな役柄の人以外は標準語だったな・・・。
アジア映画は良く見たものでしたが、韓国のはあまり見てないです。
だから、最初の道が有名な道路だというのも分からなかったくらいです。
>希望のないクライマックスの闘い
見ていて、とても辛いです。しかし、あのとき彼らはああするしかなかったのだろうかと。
>「済州島4.3事件」
詳しくは知りませんが、考えさせられます。
>でも、実は、私は自国・日本の全共闘とかは、あまり知りません。
田舎育ちで、少し後の世代なので、わたしも全共闘を直接は知りません。その後の暗黒しか体験していませんもの。
>goo八分(笑)
そういうのもあるのですか。ふぅむ。
>「光州が舞台なのに、なんでメインキャストはみんな標準語を話すんだ?」
現地からの報告、ありがとうございます。日本でも同様に、地方なのに標準語を話すようなもんですかね。