その日、チエちゃんは5時きっかりに会社を出て、夕飯の買い物をしようとスーパーへと向かったのでした。
梅雨入り前の暑い一日で、西に傾いた夕日が真っ赤でした。
仕事に慣れ、一人暮らしも板に付いてきたチエちゃんは「今夜は何を作ろうか?ちょっと早いけど、冷し中華でも作ろうか。」と考えながら、歩いていたのです。
小さな町の商店街は、わずか数百メートルの間に、町役場を中心として本屋さん、薬局、金物屋兼ガソリンスタンド、米屋、酒屋、呉服屋と並んでおり、役場の向かい側には、以前は絶え間なく自動織機の音が響いていたであろうと思われる機織工場の土塀が続いていました。
お目当ての小さいスーパーは、そんな商店街のはずれにあったのです。
チエちゃんはちょうど、役場の前に差し掛かったとき、フラッと目眩を感じたのでした。
目眩?
いや、違う! 私が揺れてるんじゃない!地面が揺れてるんだ。
地震?大きい! 塀の近くにいたら危ない。
そう判断したチエちゃんは、道路の真中に移動しました。
顔見知りの本屋のおばさんも飛び出してきました。
その時、チエちゃんは地面が波打つのを初めて目撃したのでした。
道路沿いの電柱の間の電線も、見た事もないくらいに、たわんでいます。
話には聞いていたけれど、本当に地面が波打つとは・・・
激しい縦揺れが続きましたが、どうにか立っている事はできたのでした。
アパートに帰って、部屋の中を確かめると、台所の食器棚の茶碗やコップが片方に寄っていたものの、幸い割れてはいませんでした。
昭和53年6月12日 17時14分に発生した宮城県沖地震でした。
あれから30年、災害は忘れた頃にやって来る。
このたびの岩手・宮城内陸地震の被災地の皆様、心よりお見舞いを申し上げます。