元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「プライド」

2009-02-01 07:51:34 | 映画の感想(は行)

 楽しく観ることが出来た。一条ゆかりの同名コミックの映画化だが、これが金子修介監督の手にかると、ほとんど金子のデビュー作「宇野鴻一郎の濡れて打つ」と同様のノリになる。つまり“マンガの映画化”ではなく“映画のマンガ化”だ。「濡れて打つ」が「エースをねらえ!」のパロディだったことは前にも書いたが、マンガのパロディ映画が元ネタ以上にマンガチックになることに金子映画の真骨頂がある。もちろん私は「プライド」の原作は未読だが、おそらくは実写化することによりコミック版を超えたマンガらしさを獲得しているのであろう。

 オペラ界を舞台にして二人の女の子のバトルが展開。一人は高名な歌手の娘として生まれて何不自由のない生活を送り、片方は貧しい家庭に育ち苦学して下のレベルの音大に何とか潜り込んだ。通常この設定だと“金持ちの子イコール傲慢、貧乏人の子すなわち健気”という図式が成り立つように思えるが、実は“両方ともイヤな女だった”というのだから面白い。

 映画は二人の凄まじい足の引っ張り合いを容赦なく描く。普通の映画でこれを真剣にやると暗くて陰惨になりがちなのだが、“映画のマンガ化”という特殊フィルター(?)を通してしまうと、あっけらかんとしたスペクタクルものに変貌してしまうのが痛快だ。主人公達の“後ろ向きの闘志”が燃え上がるほど、それらはオフビートなギャグとなって画面を横溢する。しかも、観終わってしまえば青春熱血マンガの読後感のような爽やかさを覚えてしまうのだから、なかなか侮れない(爆)。

 キャストも絶妙だ。金持ちの娘を演じるステファニーは演技が硬くてしかも日本語が怪しい。ところがそれが周囲を思い遣らないエゴイズムをより強く印象づける。そして貧乏娘役の満島ひかりは愛らしさと邪悪な面がコロコロと入れ替わる難しい役柄を、全く嫌味もわざとらしさも感じさせずにこなし、存在自体に強いインパクトがある。この芸達者ぶりは本年度の新人賞の有力候補だ。

 そしてこの二人は本当の歌手である点も大きい。オペラのアリアを歌うシーンは吹き替えだが、ポップス曲のデュエット場面は素晴らしく、大風呂敷を広げたようなストーリーと対峙するかのようなリアルさで迫る。このあたりがNHKの朝の連ドラ「だんだん」には一番欠けているところだろう(謎)。また渡辺大や及川光博などの男性陣の悪ノリも天晴れだ。とにかく、見逃すと損をする青春ドラマの怪作である。
コメント
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