元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ノン子36歳(家事手伝い)」

2009-02-18 06:26:16 | 映画の感想(な行)

 熊切和嘉監督が得意とする“ダメ人間の開き直りぶり”が本作でも賑々しく取り上げられている。東京で芸能人をやってはみたが、結局あまり売れずに結婚生活も破綻して、逃げるように秩父の山中にある実家(神社)に戻ってきた三十路半ばのノブ子。毎日ゴロゴロしているだけで、何をやるわけでもないのだが、そんな彼女が興味を持ったのが神社の祭りでヒヨコを売ろうと頼み込んできた青年。

 通常だと、この若い男が“一見さえない奴だが、実は良いところもあって・・・・”という筋書きになりそうなのだが、まったくそうならない。彼は口では“いつか世界に進出してやる”と言うものの、実際はテキ屋の親分にも世話になった神社の神主(ノブ子の父親)に対しても根回しの一つも出来ない、単なる甲斐性無しだ。さらに東京からは芸能エージェントを立ち上げたというノブ子の元夫がやってきて、また一緒にやろうと言う。だが、デカいことをブチ上げる彼も実は借金で首が回らない敗残者だ。

 そんな男達をノブ子は一度は信じてみようという気になったのは、自分はダメだけど本当は“ダメではない部分”が残っていると思い込んだせいである。この映画は、ズバリ言えば“どこか取り柄があると思っていたダメ人間が、実は何もないことを自覚する”までを描いている。

 普通に考えれば、自分のダメさ加減を思い知らされるのは辛いことだ。しかし、実際にはダメであるにもかかわらず、必死に“私はダメな奴ではない。何か得意科目があるはずだ”と信じ込んで悪戦苦闘するのは、もっと辛くて悲しいことである。ダメな自分を受け入れることから始めた方が、ずっと楽に生きていける。無理をすると、ロクなことはない。肩肘張らなくても、ダメ人間にだって生きる権利ぐらいはあるのだ。

 淡々とした中にシビアさを織り込む熊切演出は好調。主演の坂井真紀は諸肌脱いでの熱演で、女優としても一皮剥けた感じだ。相手役の星野源は強い印象は受けないが、役柄上はこれでいいと思う。元夫の鶴見辰吾はまさに怪演と言うしかなく、このキャラクターを使ってもう一本撮れそうだ(笑)。

 そしてノブ子の友人を演じた新田恵利に昔のアイドルの面影が全然なくなり、今や根性の悪そうなオバサンに成り果てていたのはビックリ。月日の流れは残酷である。設定の面白さやストーリーの奇抜さでは熊切監督の前作「青春☆金属バット」には及ばないが、これはこれでまとまりの良い辛口の佳篇だと思う。観る価値は十分ある。
コメント
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