各ブースでのスタッフでの説明に関しては、今回もやっぱり目立っていたのが広島のガレージメーカー、カイザーサウンドの主宰者だ。同社が展開する
ROSEN KRANZブランドの新型スピーカーを引っ提げての登場である。和紙を素材にしたフルレンジ・ユニットのシステムで、前回紹介していた漆塗りの高級仕上げとは打って変わった、レトロな家具調のフロアスタンディングモデルをデモンストレーションに使用していた。ユニットはやはり和紙製のフルレンジ一発だが、非常にレスポンスが良く能率は90dBを優に超える。
感心したのは主宰者の説明が“ここにこういう処理を施しているから、こんな音になる”という具体的なものであったことだ。オールジャンルを鳴らすことを目的に作られているらしく、そのために音色の明朗度をとことん追求したような、確固としたポリシーが伝わってくる。事実、このスピーカーは国産品では珍しく明るい音を出し、聴いていて楽しい。嬉しかったのが“ロックが得意だ”ということだ。彼は“ロックファンは(クラシック愛好家やジャズファンよりも)数多くいるのに、オーディオメーカーはそれに全然応えない。怠慢だ!”という意味のことを言う。私も同感だ。幅広く聴かれている音楽に対応しないオーディオ装置なんて意味がないのである。
これと正反対だったのが
SONYである。一本60万円の新作スピーカー
SS-AR2の紹介がメインだったが、スタッフが一所懸命説明するのは“いかにこの製品が精選された部材による凝った構造をしているか”ということだ。そして“外見の仕上げの素晴らしさ”はもちろん“内部の仕上げにも手を抜いていない”などといった、匠の技を強調するような謳い文句が次々と出てくる。なるほど、物量投入にかけては他の追随を許さないし、サイズの割には重量もある。しかし、肝心の音色についての言及はイマイチ具体的ではない。それを象徴するかのように出てくる音はといえば、物理特性面ではスゴイとは思わせつつも、どうしようもないほど暗い。サウンドマニアには受けるだろうが、音楽ファンは敬遠したくなる展開だ。少なくとも私にとっては、きつい仕事を終えて帰宅した後に聴きたい音ではない。
同様のことは富士通のオーディオブランドである
ECLIPSEのスピーカーにも言える。タイムドメインと呼ばれる特殊理論に則った斬新なスタイリングは入場客の興味を引き、その構造についてのスタッフの説明にも熱が入っていたが、出てきた音はやっぱり暗い。ユニークな形状による独特の音場展開は捨てがたいものの、音色面では楽しく聴けるための練り上げが成されていない。PIONEERの高級スピーカーブランドである
TADの製品についても同様だ。
日本の大手メーカーのエンジニアたちは、音よりも計測データの方を大事にしているとしか思えない。ROSEN KRANZのようなマイナーなブランドを別にすれば、国産スピーカーの作り手は実は音楽が好きではないのだと断定したくなる。とにかく、暗鬱な音は御免被りたい。
対して欧米メーカーのスピーカーはすべて音が明るい。今回初めて試聴したヨーロッパ系のブランドではイタリアの
ZINGALIが印象的だった。もう素晴らしく明るい。まさに目も眩むような明るさだ。これでイタリアン・ジャズなんかを鳴らすと楽しさ百倍である。英国
ATC社のスピーカーは美音調とモニター調とが絶妙にブレンドされた深みのある音。伸びやかな元気の良さもあり、聴く者の購買意欲を掻き立てる。オーストリアの
VIENNA ACOUSTICSの暖色系でしなやかな音も印象に残る(なお、ユニットのコーンが透明であることに初めて気付いた ^^;)。以前
Nmodeのアンプで試聴した同じくオーストリアの
CONSENSUS AUDIOの製品は、今回は
LUXMANのハイエンド機でのドライヴだ。いくらコストパフォーマンスが高いと言っても10万円台であるNmodeのアンプで駆動したときと違い、さすが惜しみなく物量を注ぎ込んだLUXMANのセパレート・アンプだけあって、響きがゴージャス。このスピーカーの資質がよく出ていた。
米国製スピーカーはお馴染み
JBL社の新製品が注目を集めていたが、それよりもインパクトがあったのは
WILSON AUDIOとか
SNELL ACOUSTICS、あるいは
MAGICOといった“(日本においては)JBLよりは知名度が落ちるブランド”の数々だった。これらの製品群は緻密でハイスピードな聴感上の特性を持っている。帯域バランスが良く、音場も広い。もちろん音色は明るく澄んでいる。鳴らすジャンルも選ばない。要するに非常に現代的なのだ。対してJBLは徹頭徹尾ジャズ向けである。逆に言えば、ジャズ以外はあまりサマになっていない。元気は良いが一本調子。好きな人は好きだが、不器用なところが目立つ。
たぶんアメリカではSNELLやMAGICO、または以前試聴した
THIELといったスマートなサウンドデザインを見せるスピーカーの方が“主流”なのだろう。JBLは、古いタイプのスピーカーだ。
外見面で驚かせたのが南アフリカの
VIVID AUDIO社のG1 GIYA。現代美術の彫刻作品みたいな外見と、その大きさには誰でも驚く。出てくる音は、ズバリ管弦楽曲向けだ。朗々と鳴り響く恰幅の良さには圧倒される。購入層はかなり限られるとは思うが、こういう野心的な製品を作れる環境は羨ましいと思った。
(この項つづく)