既成曲、特にクラシック音楽をうまく使った映画について述べてみたい。まず「アマデウス」(84年)。モーツァルトを題材にした映画だから音楽が溢れているのは当たり前。しかし音楽監督のネヴィル・マリナーは演奏場面以外にも全編音楽を埋め尽くすことにより、モーツァルトの音楽の天才性を観客にイヤというほど納得させている。いい意味での中庸を貫くマリナーの音楽性(異論もあるけど)は聴き手を圧迫させない。芸術性も高いが娯楽映画としても絶品のこの映画の作風によくマッチしていた。

これが古楽器派のグスタフ・レオンハルトとなるとそうはいかない。「アンナ・マグダレーナ・バッハの日記」(68年)はバッハの妻アンナを通じてバッハの人物像に迫った映画だが、徹底してオリジナル楽器演奏を追求するレオンハルトのアプローチは、バッハの音楽が持つ前衛性と過激さを強調する。不自然な位置の固定カメラでとらえる当時の演奏場面。しかもモノクロ。アヴァンギャルドとも言える映像がなんとバッハの音楽の真髄を見せてくれたことか。
作曲家を扱った映画ではほかに「マーラー」(74年)「ベニスに死す」(71年)「めぐり逢う朝」(91年)などが興味深い。演奏家を描いたものでは「愛を弾く女」(92年)「コンペティション」(80年)が面白い。いずれも選曲には細心の注意が払われている。
音楽を題材にしていない映画でもクラシック音楽は有効だ。「恋人たち」(58年)のブラームス、「地獄の黙示録」(79年)のワーグナー、「木靴の樹」(78年)のバッハ、「プラトーン」(86年)のサミュエル・バーバー、「恋のためらい」(91年)のドビュッシー、「眺めのいい部屋」(85年)のプッチーニ、「美しき諍い女」(91年)のストラヴィンスキー、「ダイ・ハード2」(90年)のシベリウス、「フィアレス」(93年)のグレツキなど、枚挙にいとまがない。

でもやはりクラシック音楽を使った映画で最も衝撃的だったのは「2001年宇宙の旅」(68年)だろう。冒頭の地球と太陽の壮大なカットにかぶさるR・シュトラウスの「ツゥラトゥストラはかく語りき」。J・シュトラウスの「美しき青きドナウ」に合わせてワルツを踊るスペースシャトルと宇宙ステーション。主人公が時空のはざまに吸い込まれていく有名なシーンでのリゲッティの現代音楽。もうこれ以上にはないと思われる映像と音楽のマッチングで(特に「ツゥラ」はこの映画によって一躍スタンタードナンバーになった)、監督スタンリー・キューブリックの異才ぶりが輝いていた。
ほとんどのクラシック音楽は著作権がないため、映像のバックにはよく使われているが、演出家の力量によって圧倒的な効果の差が出るのは当然だ。これからも、クラシック音楽をうまくモノにした映画に数多く接してみたいものである。

これが古楽器派のグスタフ・レオンハルトとなるとそうはいかない。「アンナ・マグダレーナ・バッハの日記」(68年)はバッハの妻アンナを通じてバッハの人物像に迫った映画だが、徹底してオリジナル楽器演奏を追求するレオンハルトのアプローチは、バッハの音楽が持つ前衛性と過激さを強調する。不自然な位置の固定カメラでとらえる当時の演奏場面。しかもモノクロ。アヴァンギャルドとも言える映像がなんとバッハの音楽の真髄を見せてくれたことか。
作曲家を扱った映画ではほかに「マーラー」(74年)「ベニスに死す」(71年)「めぐり逢う朝」(91年)などが興味深い。演奏家を描いたものでは「愛を弾く女」(92年)「コンペティション」(80年)が面白い。いずれも選曲には細心の注意が払われている。
音楽を題材にしていない映画でもクラシック音楽は有効だ。「恋人たち」(58年)のブラームス、「地獄の黙示録」(79年)のワーグナー、「木靴の樹」(78年)のバッハ、「プラトーン」(86年)のサミュエル・バーバー、「恋のためらい」(91年)のドビュッシー、「眺めのいい部屋」(85年)のプッチーニ、「美しき諍い女」(91年)のストラヴィンスキー、「ダイ・ハード2」(90年)のシベリウス、「フィアレス」(93年)のグレツキなど、枚挙にいとまがない。

でもやはりクラシック音楽を使った映画で最も衝撃的だったのは「2001年宇宙の旅」(68年)だろう。冒頭の地球と太陽の壮大なカットにかぶさるR・シュトラウスの「ツゥラトゥストラはかく語りき」。J・シュトラウスの「美しき青きドナウ」に合わせてワルツを踊るスペースシャトルと宇宙ステーション。主人公が時空のはざまに吸い込まれていく有名なシーンでのリゲッティの現代音楽。もうこれ以上にはないと思われる映像と音楽のマッチングで(特に「ツゥラ」はこの映画によって一躍スタンタードナンバーになった)、監督スタンリー・キューブリックの異才ぶりが輝いていた。
ほとんどのクラシック音楽は著作権がないため、映像のバックにはよく使われているが、演出家の力量によって圧倒的な効果の差が出るのは当然だ。これからも、クラシック音楽をうまくモノにした映画に数多く接してみたいものである。